厄災戦争 呪縛解き放たれて人を越する1
アゼル共和国と元ドワーフ連合国の間に位置するとある平原。
雨が滴り視界が悪い中、“黒鎖”東雲花音と“魔女”ニヴが対峙していた。
彼女達がこうして顔を合わせるのは3回目。
実際のやり取りなんかを入れれば、顔を合わせた回数は数え切れない。
しかし、今回は他の時の顔合わせとは雰囲気が違った。
それもそのはず、お互いに今回は“協力者”では無く“敵”としてこの場に立っているからだ。
「また貴方と会うとは、これも運命なのですかね?私としては、二度とその顔を見たくなかったのですが........」
「そんな悲しいことを言わないで欲しいよ。私は会いたくて会いたくてしょうがなかったよ?あなたの事を考えると、手が震えるほどにね」
「........その震えた手に殺気が混ざってなければ嬉しかったんですけどね。私、あなたの事が死ぬほど嫌いなんですよ」
「奇遇だねぇ。私もだよ」
雨が平原を打ち付け、雲は不穏な空気を感じて更に暗くなる。
花音とニヴはお互いに嫌そうな顔をしながらも、会話を続けた。
「昔から気に入らないのですよ。私達の計画に乗っておきながら、私達の寝首を搔く時が来るのをじっと待つその目が。特に2回目に顔を合わせた時は酷かった。あの馬鹿どもに向けた殺気よりも、私に向けていた敵意の方が大きいんですからね」
「仁に危害を加えようとしたお前が何を言う。仁に危害を加えようとした時点でお前は私の敵なんだよ。分かる?」
「それで言えば女神も敵になるのでは?平穏な世界から無理やり貴方を連れ出し、魔王と戦うという危険なことをさせようとしているのですから」
「私は嫌いだよ。殺せる機会があるなら殺したいぐらいにはね。でも、この世界に来たお陰で自由にできるようになったし、仁も楽しそうにしてるから我慢してるの。もし、仁が“女神も殺そう”って言えば、私は喜んで殺すよ」
「........要は私達が貴方の旦那に嫌われているのが原因だと?」
「よく分かってんじゃん。正解したご褒美に飴ちゃんでもあげようか?」
花音はわざとらしくパチパチと手を叩きながら、湧き上がる殺気を隠そうともせずに笑う。
花音の人生は全て仁の為にある。
仁がカラスが白いと言えば、カラスは白なのだ。
花音が黒だと思っていようとも、白だと無理やり置き換える。
それが花音という人間である。
が、しかし、花音も意志を持つ人間。
この世界に来て力を得てからは、僅かながら心の闇が出始めていたが。
ニヴはあからさまな挑発をしてくる花音に青筋を立てつつも、できる限り冷静を保つ。
こんな挑発に乗っても意味は無い。
花音にペースを握られるだけである。
「残念でならないですよ。私たちと組めば、世界を支配できたというのに。考え直しませんか?全てが手に入るのですよ?」
「私、仁以外入らないから。邪魔者は全部消すんだよ。お前も可哀想だね。頭の緩い旦那を持って。勝てない勝負に挑むだけじゃなく、こんなにも壮大な集団自殺を目論むなんて」
「........口の利き方には気をつけろよクソ女。お前の旦那だって頭が緩いゴミクズじゃない」
「仁とアドムを一緒にないで欲しいねぇ。アドムは女神の怒りを買って追放されたけど仁はそうじゃない。アドムは女神を無謀にも殺そうとしているけど、仁はそうじゃない。どちらがアホなのか、言わずとも歴然じゃない?」
「死ね」
ニヤニヤと笑いながらアドムをバカにした花音の挑発に我慢ができなかったニヴは、業火の炎を放つ。
周囲の雨を蒸発させながら向かってくる炎に対して、花音は欠伸混じりに鎖で対応した。
漆黒の鎖が炎を弾き飛ばしかき消す。
原初の炎を相手に戦ってきた経験もある花音に、この炎はマッチの火よりも弱く感じた。
「わぁ、怖い。旦那の気性が荒いと、嫁さんの気性も荒くなるよねぇ。夫婦揃ってキチガイとか可哀想。今の貴方を女神が見たら慈悲をくれるんじゃない?」
「ほざけ売女が。それ以上口を開いたら殺すぞ」
「その上妄言癖とか、救いようがなくて笑える。知ってる?出来もしないことを言うのは妄言なんだよ?寝言は寝てから言わなきゃ。あぁ、でも永眠してたら言葉は発せないねぇ。困ったなぁ」
花音はそう言うと、地面の中に仕込んでいた鎖をニヴの足元に出して巻き付ける。
「........?!」
そして、ニヴを転ばせると、花音は更にニヤニヤしながら顔を覗き込んだ。
この隙に攻撃すれば確実に勝てるが、それをしない。
花音は自分がスッキリするまで徹底的にニヴを痛めつけ、心をへし折るつもりなのだ。
「おやおや?随分と素直だねぇ。そのまま目を閉じて呟いたら?そしたら寝言になるかも。あ、もしかして天体観測でもしたかったのかな?でも残念。今日は雨で雲が空を覆っているんだよ。雨が降ってる時は、星々は見えないんだ。ひとつ賢くなってよかったね“お嬢ちゃん”」
「........き、き、貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
顔を真っ赤にしながらニヴは飛び起きると、足を縛り付けていた鎖を強引に外す。
本人は気づいていないが、花音がわざと鎖を緩くしていたのだ。
しかし、興奮状態のニヴにはそれが分からない。
「アハッ!!お嬢ちゃんが癇癪を起こした!!怖い怖い。あまりの怖さに震えちゃうよ」
「楽に死ねると思うなよ........貴様が許しを乞うまで徹底的に痛めつけてやる」
「まぁーた、妄言吐いてる。さっきも言ったでしょう?寝言は寝てから言うんだよ?言葉、分かりまちゅかぁ?」
「ぶっ殺す!!」
こうして、10年以上の付き合いがあるニヴと花音の殺し合いが始まった。
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