厄災戦争 世界を喰らい合うは創造主2

 

 世界樹ユグドラシルに分類される異能。


 人々が生きる世界を中層として、神に管理されるのがこの世界の在り方だ。


 しかし、それ以外の階層ではほかの管理者が務めることになっている。


 世界を管理し創造する者。


 それが世界樹ユグドラシルを持つ者達の使命であり、責務。


 神の欠片では無い異能であり、アドムですら管理する事は許されなかったこの異能は文字通りほかの異能とは格が違う。


 丸々1つの世界を作り出すその力は、何も知らない者から見れば神の所業に見えるだろう。


 「凍てつけ」

 「燃やせ」


 人々が生きる世界とは全く違った法則で動くこの世界。


 その世界に存在する氷やほのおもまた違った性質を持つ。


 決して溶けることの無い氷と、全てを燃やし尽くす炎。


 この矛盾が衝突した時、どちらが上なのかはハッキリと分かる。


 どちらの世界が上なのか。


 何も無い世界をどれほどまで発展させたのかが、純粋な出力となる。


 「........むっ、溶けない」


 全てを焼き焦がす灼熱の炎が氷を包み込むが、イスの放った氷は溶けることく進み続ける。


 徐々に世界が押し戻され、炎に染った地獄が死と霧の世界に飲まれ始めていた。


 イスもそうだが、ムスペルも知らないのだ。


 あまりにも希少すぎる上に、アドムですら管理したことの無い異能。


 その異能同士がぶつかりあった際に、一体何を出力として出しているのか。


 単純な魔力量や練度が普通の異能なら出力に直結する。


 しかし、この異能は特殊で“世界の発展”が出力に直結するのである。


 もちろん、魔力量や練度もある程度は出力を後押ししてくれるが、あくまでもそれはサブ。


 メインは本来氷や炎しか無い世界の発展が、力となって帰って来る。


 「んー?なんか弱いね。私の氷の方が強いみたい」

 「馬鹿な........わたしが何十年と磨いてきたこの力が、ただの小娘に負けると言うのか?」

 「この世界の創造主として適性がなかったんじゃない?センスないよ」


 徐々に徐々に氷の世界が炎の世界を侵食していく。


 イスは実験段階とはいえこの世界で人々が最低限住めるだけの環境を何とか整え、実際にこの世界で何日も暮らすという事をしている。


 多くの人をこの世界に呼び込み、パーティーだって開いてきた。


 対してムスペルは魔力を磨いたり、炎の扱い方を磨いて世界の発展をさせた訳では無い。


 更に、長年1人で力を蓄え続けた為、この世界を訪れた人は極わずか。


 この差が世界の喰らい合いでは致命的になってしまう。


 ムスペルは何とか侵食を止めようと炎を放ち続けるが、一向に氷は溶けずむしろかき消され始める。


 ここまで圧倒的な差が出始めると、流石のムスペルも焦り始めた。


 「何十年と鍛錬してきたのだぞ!!何故こんな小娘に押されるのだ!!」

 「だからセンスがないんだよ。お爺さんだから頭が頑固すぎて自分のやり方だけを信じてたんじゃない?時には人の意見を聞くのも大切だよ?」

 「ふざけるなよ!!この世界の炎を自由自在に操り、世界の力を最大限に引き出そうとやってきたのに!!」

 「私も多少は同じようなことをしたけど?」

 「何が........何が貴様と私で違うのだ........」


 この力を得てから80年。


 ムスペルは来る日も来る日も異能を理解しようと尽力してきた。


 時には最上級魔物と戦い死にかけ、時には炎の魔道士に教えを乞うた。


 が、その努力は無駄に終わる。


 努力すれば今いる位置からさらに上には行けるだろう。だが、それが結果に繋がるとは限らない。


 自由奔放な親の元、色々なことに触れ、親のために世界を作ろとうした純粋な子供の方が世界を育てる才能があった。


 それだけの話である。


 多くの人との交流と、仁と花音との出会いがイスの力の根源なのだ。


 「私の勝ち。もうこの炎が私の世界を燃やすことは無いよ」

 「ふざ、ふざけるなぁぁぁぁ!!」


 自身の魂まで削って魔力を生み出し、全てを焼き尽くさんと舞い上がる炎。


 しかし、イスは務めて冷静にその炎を氷で守る。


 ほんの一瞬だけ出力が上がったが、あくまでほんの一瞬、僅かだけ。


 しかも、その一瞬のためだけに大量の魔力を消費し、魂まで削ってしまったムスペルに逆転の余地は残されていなかった。


 「更に炎が弱まった。これならそれなりの速さで世界を奪えそうかな」

 「........ゴフッ」


 先程よりも早く世界を喰らい始めたイスは、膝を着いて血を吐くムスペルに近づくと肩に手を置く。


 そして、その肩から徐々に凍らせ、ムスペルを殺した。


 今度は体の芯まで綺麗に凍っている。


 イスはムスペルの死を感じ取ると、一気に世界を飲み込みながらムスペルを砕いた。


 「これでおしまい。でも少しの間この世界を見てないと危ないかも。シルフォード達への援護はちょっと時間がかかるかな」


 飲み込んだ世界がまだ安定していない事を悟ったイスは、世界が安定するまでの間この世界に留まることを選択する。


 もしここで再び炎が燃え上がれば面倒になる。


 「おい、家畜達の管理はどう?」

 「今のところ順調ですイス様。と言うか、こんなにもあっさりとした決着が着くのですね。正直、私はこの命を投げ打って戦うのだと思ってました」

 「ぶっちゃけそれは私も思ってたけど、相手が弱すぎたね。さて、畑の様子とか見ながらこの世界が安定するのを待とう。パパとママは褒めてくれるかな?」

 「きっと褒めて下さいます。では行きましょう」


 イスは後ろで控えていたモーズグズ達に声をかけると、世界が安定するまで静かに畑の管理や家畜達の世話をするのだった。

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