厄災戦争 世界を喰らい合うは創造主1
正連邦国と正教会国の国境沿い。アスピドケロンたちが戦っている場所よりも更に南下した浜辺にて“蒼黒氷竜”ヘルことイスと“灼熱の創造主”ムスペルが対峙していた。
オールバックの白髪に長い白髭。服装が違えばサンタの様にも見えるおじいさんのムスペルは、イスを見て静かに笑った。
「フッフッフ。私と同じ方を見るのは初めてですね。イスさんでしたか。良き人に出会えましたよ」
「........お爺さん、私と同じ気配がするの」
「でしょうね。私達は同じ世界の管理者。言わば神ですよ。正確には、この世界とは別世界の神とでも言うべきでしょうか」
もちろん、イスもムスペルも神では無い。
本当に神であるならば、そもそもこの世界に肉体を持たないのだから。
だが、比喩的表現で“神”と名乗っているのはイスでも分かる。
イスは、少しだけ自分と似た相手に興味を持ちながらも油断すること無くムスペルとの話を続ける。
今すぐに殺すことは出来ない。相手の力量が上手く測れず、イスはまず相手の情報をできる限り得ようとしたのだ。
「あなたは何者なの?」
「君と同じく
「........?」
言っている意味がわからず首を傾げるイス。
そんなイスの反応を見て、ムスペルは苦笑いをしながら説明した。
「女の子の君には分からないでしょうけど、男という生物は馬鹿なのですよ。1度ぐらい神殺しをやってみたいと思うとが男の性ですから」
「........あぁ。パパとママが言ってた厨二病ってやつなの」
「厨二病........?なんですかそれ」
「14~15歳の男の子が発症する不治の病なの。なんでも、将来の自分が頭を抱えたくなるとか言ってたの」
「なるほど?よく分かりませんが、分かりました。それで、私と戦うのですか?」
「もちろんなの。貴方がここで人を殺すことをやめて慎ましい生涯を終えるのであれば手を出さないけれど........それは無理でしょう?」
普段の作った子供の口調から素に戻っていくイス。
全身からゆらりと揺らめく殺気が這い出て、浜辺に嫌な空気が流れる。
海の音が次第に大きく聞こえ始め、風も心做しか強くなったように錯覚してしまう。
ムスペルもイスが本気だということを察し、唾を大きく飲み込んだ。
先程の孫のような可愛さからは想像できない圧倒的な殺気。
ムスペルがそこら辺の老人ならば、この殺気に触れたショックだけで死んでしまっていたかもしれないのだ。
「これはこれは、流石の私も本気で行かないと殺されますね。同じ
「お前こそ、死んでも恨むんじゃないよ。もう充分生きたのだから、安らかに死ね」
「全く、近頃の子供は口が悪いですね。私の頃はもう少しマシでしたよ。親の教育不足ですかね?親の顔が見て見たい」
「殺す」
刹那、イスの世界がムスペルを飲み込む。
イスにとってある意味生みの親であり育ての親である仁と花音。
イスはまだ産まれて10年そこらの子供であり、とにかく仁と花音が好きなのだ。
あまり我儘を言うと困らせてしまうので言ってないだけで、出来ることなら毎日遊んで欲しいし楽しく過ごしたい。
そんな親の悪口は、イスにとって最も禁句であり殺害の対象になるのだ。
かつて、仁と花音をバカにして死にかけたどこぞの商会娘のように。
しかも今回はベオークの様に止めてくれる人もおらず、また周囲に破壊を気にしなくていい。
絶対零度の世界に引き込まれたムスペルの体は、一瞬にして凍りついてしまった。
が、しかし、相手も先程名乗った通り、“
流石にこの一瞬で殺されるほど甘くはない。
「........ん、芯まで凍ってない」
イスはムスペルが反撃してくることを悟ると、直ぐさま距離をとる。
次の瞬間、ムスペルを覆っていた氷は溶けて無くなり更には死と霧の世界に炎までもが顕現した、安らかに
「フッフッフ。流石にキモが冷えましたね。死んだかと思いましたよ」
「そのまま死んでくれれば苦しむこともなかったのに」
「そう言わないでくださいよ。老い先短いじいさんと言えど、死ぬのは怖いのですからね」
「大丈夫。恐怖は一瞬。気づけば女神の輪廻の中だから」
「それが怖いのですよ。さて、私も対抗するとしましょうか」
ムスペルはそう言うと、膨大な魔力を使って世界を顕現させる。
本来、イスの世界に別の世界を顕現させることは出来ない。
しかし、同格かそれ以上の相手が持っている場合はその一部を書き換えて世界を顕現させられるのだ。
「
つい先程まで凍りついていた世界が一気に灼熱の大地へと変わる。
イスの世界とムスペルの世界がせめぎ合い、お互いにお互いの世界を喰らいつくさんと押しあっていた。
「ここから先は世界の喰らい合い。経験で言えば私の方が有利ですかね?」
「ふざけたこと言うんじゃねぇよ。私が勝つに決まってる」
「では、証明してみてくださいよ。私に勝てるのであればね」
こうして、世界樹の世界を喰らい合う灼熱と氷結の戦いが始まるのだった。
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