厄災戦争 原初の裏切り許されざる3

 

 原初の名を持つ者達の殺し合いは徐々にヒートアップしていく。


 周囲に規格外の被害を撒き散らすことが容易に想像できたがために、大陸から離れた孤島で戦わされていた。


 が、しかし、原初の力を味方も侮りすぎている。


 戦闘が始まり僅か数分で島の原型は無くなり、1時間後には島は吹き飛ばされて形も残ってなかった。


 そんな戦いがまる3日。


 更にはその被害が大陸の方にも及んでおり、既に海の近くで暮らす人々は原初が振りまいた厄災に飲まれて数多くの人々が死んでいる。


 海の上でも燃え続ける炎、障害物すら吹き飛ばす暴風、大災害の引き金となる海を操り世界を壊し、大陸を操って大地は崩れる。


 その力は正しく世界を管理するだけにふさわしいものではあるが、一度この力を戦いに使い始めれば人類になすすべはない。


 彼らは海に飲まれ、炎に焼かれ、風に吹き飛ばされ、大地の切れ目に落ちていった。


 「さすがに強いな。しかも、的確な連携を取ってくるからやりづらい」

 「全くだ。普段から喧嘩してばかりだったくせに、こういう時だけは息が合う。本当に面倒なことこの上ない」


 僅かにだが血を流すテンペストとベヒーモスは、普段は喧嘩ばかりの癖に仲間として戦うことになると異常なコンビネーションを見せてくる2人に苦い顔をする。


 ファフニールに主導隣攻撃を仕掛け、リヴァイアサンがそのサポートをする。


 長年喧嘩ばかりしてきたがために、お互いのことがよく分かっている2人だからこそ成し得る究極の連携。


 あまり喧嘩などをせず穏やかに過ごしてきたテンペストとベヒーモスでは、到底成し得ない領域だ。


 「もっと上手く合わせんか。歳か?やはり歳なのか?」

 「ジジィの攻撃がクソだから合わせにくいんだよ。相手の気持ちを考えて行動できないバカの癖に文句言ってると殺すぞ?」

 「我が適当に攻撃してお前が合わせる。それが今の戦いだろうが。何とかしやがれ」

 「ふざけた事を抜かしてんじゃねぇよ。ならお前が私に合わせろ。私に文句を言えるぐらいなんだから、さぞ天才的なサポートが出来るんだろうな?」

 「フハハハハ!!余裕よ。なら変えてみるとしよう。好き勝手に攻撃してみな」

 「........チッ、いけ好かないジジィだ。死ねばいいのに」


 ベヒーモスとテンペストが舌を巻く連携も、会話を聞くと耳を疑うが。


 世界の命運を決める戦いだと言うのに、減らず口の口喧嘩。


 喧嘩するほど仲がいいとは言うが、その身に纏う殺気があまりにも本気すぎて冗談なのか本気なのか分からない。


 しかし、それでも上手くやってきているのだから恐ろしい。


 テンペストとベヒーモスは、このままでは負けると思い、リスクを取る事にした。


 既に戦いは三日目に突入している。


 仲間が来ないことを考えると、まだ戦っているか既に負けたかのどちらかだ。


 魔力を察知したいものの、周囲には原初たちの魔力が飛び交っており遠く離れた場所の力を察知することは出来ない。


 味方が既に勝って、残っている残党達を追いかけている。


 テンペストとベヒーモスはそう思いながら賭けに出た。


 「行くぞ、ベヒーモス」

 「分かっている。奴らを殺せずとも、仲間が勝利した時のことを考えて仕事を減らしてやらないとな」


 ベヒーモスはそう言うと、地面を叩いて世界を割る。


 既にバハムートが正教会国から合衆国に向かって地割れを起こしていたが、さらなる追い打ちを大陸にもたらしたのだ。


 正共和国から亜人連合国に向けて放たれた地割れと、それに伴う大地震。


 マグニチュードで言えば9にも相当するだけの大地震が大陸中で起こり、地震対策なとしていないこの世界の建物の殆どは崩れ去る。


 空を飛ぶファフニールや周囲の水を操って己を守ったリヴァイアサンには大した被害は無い。


 だが、この2体は忘れていた。


 彼らのそもそもの目的は人類の滅亡。


 その全てを殺せる訳では無いが、できる限り多くの人々を殺す為の一撃を食らわせるのだ。


 「吹き飛べ」


 テンペストもベヒーモスが大地を割ったすぐ後に世界中で暴風を撒き散らす。


 その凄まじい風は一瞬で壊した建物達を巻き上げ、運良くため物に潰されなかった人々も巻き上げる。


 もちろん、ファフニールやリヴァイアサンを殺す気で嵐を起こすものの、原初たるこの2人には多少のダメージを与えることしか出来ない。


 「いてて、何とかせんかリヴァイアサン」

 「分かってる。上手く合わせろよジジィ」


 リヴァイアサンはそう言うと、全ての海を操って超巨大な津波を叩き起す。


 その巨大さ、約500m。


 低めの場所を飛んでいたテンペストやそもそも飛べないベヒーモスを巻き込まんと放たれた津波に、ファフニールも攻撃を合わせた。


 「地面に落ちろ」


 上に飛んで逃げようとするテンペストを逃がさないようにするために、ファフニールは空を炎の結界で制限する。


 テンペストならば数秒もあれば抜けられる結界。しかし、その数秒が戦いでは命取りだ。


 「ゴボッ!!」

 「がぼっ!!」


 津波に飲まれ、更には海を巻き上げられて1つの檻となる。


 更にファフニールは逃げられないように原初の炎で檻の外に業火を纏わせると、海の檻に囚われたテンペストとベヒーモスが逃げないように攻撃をし続けた。


 「耐久勝負か。まぁこれが妥当だな」

 「逃がすなよジジィ」

 「お前がな」


 幾ら原初の名を持つ魔物とは言えど、空気のない世界では生きられない。


 テンペストは空気を作り出せるが、その空気もファフニールが目ざとく燃やし、リヴァイアサンが息を吸わせないように海水を飲ませようとしてくるのであれば成す術もなし。


 10時間後にはテンペストとベヒーモスは死に絶え、原初の名を持った厄災級魔物は遂に歴史の中から消え去るのだった。


 しかし、彼らが最後に世界を巻き込んで放った一撃の被害は計り知れない。


 この時点で人類の半分近くは滅び、彼らはある意味作戦を遂行したのだった。



 世界が騒がしくなっていたその日、全てが終わった。巨大な大地の揺れとともに建物は崩れ、暴風が世界を巻き上げる。私は運良く風に飲まれなかったから良かったが、多くの人々はその風に飲まれて死んでしまった。その後、生きていくのが難しくなり他の場所を訪れたが、どこもかしこも似たような光景ばかり。私は確信したのだ。この日、世界は滅んだのだと。“リーバル王国建国期:序章厄災の終焉”より

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