厄災戦争 原初の裏切り許されざる2

 

 厄災級魔物の中でもトップクラスの戦力を誇る“原初”達。


 その原初の名を持つ者達全てが臨戦態勢へと入った。


 その殺気は先程口喧嘩をしていた時とは比べ物にならず、何もしていないのに島が揺れ始める。


 木々はざわめき、草花は死を錯覚する。


 島に住む動物や魔物は島全体にまで及ぶ殺気に当てられ、死を錯覚し死んでゆく。


 これがかつて神の元で働いた厄災達の力。


 生半可な人間がこの場にたっていたら、既に死んでいた事だろう。


 僅かな沈黙。


 「死ねい」


 沈黙を破り、先手を取ったのはファフニールだった。


 原初の炎が世界に渦巻き、全てを燃やし尽くす業火となってテンペスト達を襲う。


 全ての炎よりも優秀で力のある炎。


 本来ならばこの炎はファフニールのみの意志によって動かされるのだが、相手も同格の原初。


 原初達の前ではお互いの能力がただの炎や風に成り下がる。


 「この程度で殺されるわけないだろう?舐めるんじゃねぇ」


 島の一部を焼き付くしながら進む炎を、テンペストは原初の風で絡めとる。


 “原初の風オリジン:ウィンド


 世界の風又は空気を管理してきたこの原初。


 かつてはこの能力を用いて天候を変え、人々に恩恵と災害をもたらしてきた。


 全ての始まりを管理してきた風はファフニールの炎を巻き上げ、無造作に並べられた炎を規則正しく並べ替える。


 「お返しだ」


 ファフニールの炎は竜巻となり、風に乗ってファフニールとリヴァイアサンに向かってくる。


 周囲に熱風を撒き散らし、熱風に当てられた草木は燃え、島にあった綺麗な緑はあっという間に赤へと変わる。


 僅か二手の攻防だけで、そこそこの広さを持っていた島に生きる全ての動植物が滅んだのだ。


 余りにも凄まじ過ぎる威力。しかも、まだお互いに小手調べとしての牽制なのだから恐ろしい。


 この原初達が本気を出して戦い始めるその時が、この世界の終焉となるかもしれないと錯覚させるほどには、原初の力は飛び抜けていた。


 「我の炎にわれが燃やされるわけないだろうに。あぁ、リヴァイアサンは別か」

 「言ってろジジィ。お前の炎なんざ喰らった所で痛くも痒くもない。それに、私の力で消し飛ばせる」


 迫り来る炎の竜巻を見て呑気に話すファフニールとリヴァイアサン。


 炎の管理者であるファフニールはそもそも炎の攻撃は効かないし、リヴァイアサンの能力はファフニールにとって絶対的だ。


 リヴァイアサンは軽く口を開けると、魔力を原初の水に変えてレーザーのように放つ。


 “原初の水オリジン:ウォーター


 生命が生きる上で欠かせない水を司り、時として人々へ恵みをもたらし、時として人々に災害を与えてきた原初の水。


 レーザーのように放たれた水は炎の竜巻を貫き、その余波で竜巻を消滅させながらテンペストの脳天に向かって一直線に突き進む。


 このまま行けば、テンペストの頭を貫いて殺せるだろう。


 しかし、相手もそこまで甘くはない。


 「させん」


 巨大な体を持ち、空を飛ばない地竜たるベヒーモスは、地面を一度軽く踏むと原初の大地を呼び起こす。


 “原初の大地オリジン:アース


 世界の大地を管理するこの力は、山を作り谷を作り、大陸すらも作り上げた世界の生命線。


 今は別の管理者が居るため、どれほど強大な力を使おうとも世界を壊すことは出来ないが、それでも大地の破壊に関しては絶対的な力を持つ。


 島の地下から大地が蠢き、大きな盾となってテンペストの前に現れる。


 リヴァイアサンの攻撃ガ貫通力に優れていると判断し、20m程の分厚い大地の壁がレーザーを阻んだ。


 「チッ、やっぱり防がれたか」

 「昔よりもキレがないように見えるな。歳か?若い頃ならもう少し強いのが打てただろうに」

 「お前、今は私の味方だよな?なんで味方を煽ってんだよ。冗談抜きにお前から殺すぞ?」

 「フハハハハ。流石に三対一はキツイから勘弁願おう。団長どのならば容易にわれら4体を屠れるのだがなぁ........長い戦いになりそうだ」

 「私ら全員を相手に簡単に殺せると言い切れるとは、1度お前の愛しの団長さんと戦って見たいねぇ」

 「別に愛してはおらんぞ?我を変な奴のように言うのはやめろ」

 「好きなの?嫌いなの?」

 「フハハハハ!!答えるまでもない。大好きだ。友人としてだがな」

 「プハハハハ!!あのファフニールがここまで言うとは、長生きしてみるもんだよ。昔はいけ好かないジジィだったが、少しは可愛げもあるんだな」


 かつてのファフニールは誰かに懐くということは無かった。


 自由奔放出他人に迷惑しかかけない厄介者。


 それでいながら力はあるものだから、リヴァイアサンからすれば面倒なやつこの上なかった。


 しかし、人も魔物も時が経てば多少なりとも変わるものである。


 昔を知るリヴァイアサンからすれば、ここまで一人の人間に肩入れするファフニールはとても新鮮で面白い。


 その人間がどれほどのものなのか、リヴァイアサンは更に気になりつつもこの戦いが終わってからだと切り替える。


 「長期戦になりそうだね。面倒だ」

 「フハハハハ。援護は来ないと考えた方がいい。我らも奴らも、今回集まった中では最高に近い戦力。仲間は負けるとは思ってないだろうからな」

 「期待が重いねぇ。私は人間に根気負けしたと言うのに」

 「フハハハハ!!我もだ」

 「上手く合わせろよ?私の手の内は分かってるだろうし」

 「案ずるな。伊達に何万年と喧嘩してきた訳では無い」


 ファフニールとリヴァイアサンはそう言うと、本格的にテンペストとベヒーモスを殺しに掛かるのだった。

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