厄災戦争 原初の裏切り許されざる1

 

 獣王国のさらに東側に位置するとある孤島。


 その孤島では、世界を創造したとも言われる“原初”の名を関する竜達が集まっていた。


 “原初の竜”ファフニール、“原初の海竜”リヴァイアサン、“原初の地竜”ベヒーモス、“原初の暴竜”テンペスト。


 かつては世界の管理者として時には喧嘩をし、時には協力者し合ってきたこの四体。


 しかし、かつての仲の良さは無く、今は島全体を揺るがす程の殺気と怒気に包まれている。


 理由は単純明快であり、女神を守らなければならないはずの存在が女神を殺そうとしているからだ。


 「どういうつもりだ?貴様ら。女神様に楯を突くとは、創造されたものとしての忠誠心は無いのか?」

 「ファフニールからそんな言葉が飛び出すとは驚かだが、同意だね。どういうつもりだい?原初たる私達が女神様に牙を向けていいとでも思っているのかい?」

 「女神は我々を裏切った。管理者という役職を全うしていたにも関わらず、その職務を亜神共に譲ったのだ!!何も思わなかったのか?女神からは労いの言葉もなしに急遽誇りを失われたのは私だけでは無いはずだぞ!!」

 「そういうことだ。我らには女神に復讐するだけの理由と権利がある。自らの都合で我らの言葉を聞くことも無く勝手に仕事を奪い、あまつさえ声すらもかけない女神に尽くす忠誠は無い」


 創成神話時代、原初達は女神の為にこの世界を管理し続け、時には異物と戦い時には世界のためにその身を削ってきた。


 ファフニールは不真面目すぎたが、その他三体の原初はしっかりと自分達の役割を果たしてきたと言えるだろう。


 しかし、創成神話時代が終わり、アドムが女神に罰を受けてから暫くして亜神が彼らの仕事を奪ったのだ。


 しかも、女神は当時“新たな管理者を立てた。今までご苦労”とだけ言って一方的に原初達を保険として格下げしたのである。


 今まで身を粉にしながら働いてきた原初達に対して“ご苦労”の一言のみ。


 退職金なんてものも無ければ、次の仕事への斡旋もない。


 会社で言えば一方的に首を切られたようなものだ。しかも、本人たちはかなり優秀でそれなりに真面目だったのにも関わらず(ファフニールは除く)。


 さらに言えば給料すら出てない。名誉の為だけに働くと言っても、それだけでは限界があるのだ。


 憎しみの籠った声を上げるベヒーモスとテンペストを見て、ファフニールは静かに笑う。


 自分はこの席を解かれた時は正直喜んでいたのに、真面目な奴らだと。


 「フハハハハ。気持ちは分からなくもないがな。だが、越えてはならない一線を越えるのは不味い。今ならまだ引き返せるぞ?」

 「お前が道理を説くな。1番不真面目だった癖に」

 「そう言われると返す言葉もないが、今のお前達よりは私の方がマシだ。お前たちも知っているだろう?女神様のお力は我らでは到底敵わない。神のなり損ないが居るとか言うが、所詮はなり損ない。真なる神に敵う訳がなかろうに。そこまでして死にたいのか?」

 「勝てる見込みがあるから乗ったのだよ。女神をも殺せるだけの力は奴単体では無いが、アドムやニヴ、それに私達が居れば勝てる。そう考えているのさ」

 「希望的観測が過ぎるね。壮大な自殺計画にも見えるし、亜神の連中も黙ってない。神を三体も相手して勝てるとでも?」

 「勝てるからやっている。“万物の根源”は対策があるし、“確率の悪魔”はアドムの力で抑えられるはずだ」

 「フハハハハ。格が我らよりも上だからその職を替えられたと言うのに、それに気づかぬとはバカだな?昔よりも随分と頭も弱くなったと見える。その頭は飾りか?脳みそ詰まってる?」


 仁や花音と過ごしている間にナチュラルに口が悪くなったファフニール。


 昔よりもムカつく顔で相手を煽るファフニールに、ベヒーモスとテンペストは目に見えて“イラッ”とした。


 「口だけは上達したようだな。ぶち殺されたいのか?」

 「フハハハハ。元々そのつもりだろうに。分かりきったことを聞くとはやはり頭が弱くなっているな。腕のいい医者を知っているから紹介するぞ?相手は人間だから竜の治療が出来るかは知らんがな」


 口の悪さは団長譲り。


 スラスラと煽り言葉を言うファフニールに、リヴァイアサンは嫌そうな顔をする。


 「........昔よりもさらにウザくなったなお前。今からでも敵になってお前だけ殺していい?」

 「おーいリヴァイアサン?お前に言ってないのになぜ我に牙が向くのだ?一応今は仲間ぞ?我とお前は仲間ぞ?」

 「いや、あまりにもウザすぎで昔を思い出したら殺意が........」

 「酷い。我の扱いが昔から何も変わってない。その殺意はそこにいる知能が低下したアホ共に向けてやれ。それで頭が覚醒するとは思えんがな」

 「お前、性格まで最悪になってきたな。愛しき団長さんとやらのお陰か?」

 「誰が愛しき団長だ。我らが団長殿の性格は最悪だぞ?我が言うのもなんだが、いつも振り回されて気づけば面白くなっている。楽しいぞ。この戦いが終わったら会ってみるといい」

 「........大好きじゃないか。お前が人間にそこまで肩入れするとは、その団長さんとやらも可哀想だな。マルネスの事を気に入っている私が言える話では無いが」

 「出会う人が良かっただけの話だ。あヤツらは恵まれなかった。それだけだ」


 ファフニールはそう言うと、ゆっくりと首を回しながら全身をほぐす。


 そして、ニッと笑ってかつての仲間に告げた。


 「では、始めるとするか。昔のよしみだ。楽に殺してやろう」

 「調子こいてんじゃねぇぞ。ファフニール。ぶっ殺してやる」

 「口まで三下に成り下がったか。可哀想にね」

 「言ってろリヴァイアサン。お前たちの死体を女神への手土産にしてやるよ」


 こうして、歴史上初めて原初たちが本気で殺し合うのだった。

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