厄災戦争 弾けた花は不死を纏う3

 

 エレノラの放った爆弾。それは、この世界の人が持っていいものでは無いほどの破壊力を生み出す。


 擬似的とは言え、たった一人で核爆弾に相当する爆弾を作れるのだ。


 エレノラは仁の生徒である為に無差別に爆破しないと言うだけであって、仁との出会いが無ければ今頃凶悪なテロリストとしてあちこちを爆破しまくっていただろう。


 世のため人のため。


 仁との約束がエレノラをまだ人として押しとどめている。


 では、その鎖が外れたら?


 答えは簡単。


 無差別にあちこちを爆破する正真正銘の爆弾魔の出来上がりである。


 「アハッ!!やっぱり耐久力のある厄災級魔物は爆破のしがいがありますね!!先生達以来ですよ。これほどまでに私の爆破に耐えられている相手は!!」

 「ピィ?!」

 「ブルル?!」


 心の底から楽しそうに笑いながらフェニックスとスレイプニルを爆破し続けるエレノラ。


 生半可な耐久力を持っているがために、厄災級魔物達は爆破の波に飲まれ続ける。


 もちろん、フェニックスもスレイプニルもやられっぱなしという訳では無い。


 爆破の隙を付いて反撃を繰り出すものの、世界最強の攻撃を何年も見続けてきたエレノラにとっては容易に避けられる。


 多彩な爆弾でフェニックスの炎を防ぎ、風のように疾走してくるスレイプニルにはいつの間にかしかけた地雷や空中に固定された爆弾が作動する。


 つい先程まで穏やかに流れていた厄災級魔物同士の戦いは、たった一人の頭のイカれた爆弾魔によって騒音を奏でていた。


 「援護するってどうやりゃこの爆弾の合間を援護できるんだよ。下手に手を出した方が邪魔になるぞ?」

 「防御に回ってあげようかとも思ったけれど、普通に厄災級魔物の攻撃を防いでるんだよねこの子。化け物かな?」


 1人ではっちゃけているエレノラを見て、ドン引きしながらもどうやって援護に回ろうかと考えるユランとジャック・オー・ランタン。


 下手に手を出すと返って邪魔になり、かと言ってエレノラを守ってあげる必要も無い。


 正しく蚊帳の外。


 厄災級魔物ともあろう存在が、一人の人間よりも弱く頼りない事を証明してしまった瞬間だった。


 「どうする?」

 「どうするも何も、暫くはフェニックスとスレイプニルが逃げないように周囲を囲むしかないよ。それにしても、馬鹿げた人間だ。多分、あれ本気を出してないよ」

 「実験とか言っていたからなぁ........よく見ると爆破の種類が違っているし。本当に人間か?化け物すぎるだろこれ」

 「強すぎる化け物と言うよりかは、中身が狂ってる化け物だね」


 エレノラの猛攻とその狂気に圧倒されながらも、自分たちのやるべきことを見つけたユラン達はフェニックスとスレイプニルが逃げないように周囲を囲む。


 下手をせずともこのまま勝敗が決するかもしれない。


 そう思ってしまうのも無理はなかった。


 圧倒的な火力と物量。更には、あまりにもいやらしすぎる戦い方を行っているのだ。


 フェニックス達が爆弾を避けたとしても、いつも間にか張り巡らされた地雷(空中に浮かんでる)に触れてダメージを受ける。


 ダメージ覚悟でエレノラに突っ込んでも、エレノラの身体能力と逃げ足の速さ、更には爆弾によって近づけない。


 余りにも一方的すぎる攻防。


 気づけば、スレイプニルはボロボロになり、フェニックスも目に見えて疲れ始めていた。


 「........不老不死とも呼ばれる存在をここまで疲弊させるとはすごいな」

 「不老不死なのは魔力が続く間まで。殺そうと思えば殺せるからね。にしても凄いけど」


 不老不死とも呼ばれるフェニックスだが、死なない訳では無い。


 魔力を消費させ続け、枯渇させれば復活することはなくなるのだ。


 エレノラはただ実験の為に様々な爆弾を使っていただけだったが、結果的にその戦い方が正解だったのである。


 「んー、もう作った爆弾はおしまいですかね。実験結果を纏めないといけないですし、そろそろ終わらせますか。お二人とも、逃げてください。でないと、死にますよー」

 「だってさ」

 「逃げるか。あの子が“死ぬ”と言っているという事は、多分滅茶苦茶やばい奴だぞ」


 エレノラの言葉に素直に従うユラン達。


 既に荒野と化し、地獄とも思える世界を作り出した人間の言葉には素直に従った方がいいと、彼らは本能で感じていた。


 フェニックス達も逃げようとするが、エレノラはそれを許さない。


 相手を逃がさない戦い方は、彼女が尊敬する先生に嫌という程教わったのだ。


 「では、さようなら」


 無造作に投げられた爆弾。


 ソフトボール2つ分程の大きさの爆弾は、地面に落ちると周囲のものを全て焼き尽くす。


 凄まじい熱線と爆風。


 爆弾を中心として半径3km圏内全てが焼き尽くされ、その爆風は15km先にある開拓中の村にも届いた。


 「使う機会が全くないので残念でしたが、やはりこの爆弾は美しいですね。先生達すらも驚いたこの一撃、私は誇りに思ってますよ」


 熱線と爆風の中爆弾に滅法強い結界を使って自身を守るエレノラは、自らが作り出した地獄に見とれる。


 この結界はマルネスとドッペルゲンガーから教わり、自分なりに改良した爆弾専用の結界だ。


 このような自爆行為の中でも生き残れるようにするために、態々作った代物である。


 「あぁ、なんて綺麗な終焉。いつの日か、どこに居ても観測できるだけの巨大な爆弾を作ってみたいですね」


 エレノラはそう言うと、爆発が納まった後も暑さの残る地に足を踏み入れて死体となった厄災級魔物達を眺める。


 そして、ニッと笑うと不死鳥の残骸を手に取った。


 「不死鳥を喰らった者は不死となる。試してみますか。ここで死ねば私はそれまで。上手く行けば、永遠の時の中で爆弾の研究を続けられますし、何より先生達とも生きられる。命を掛けるには、十分な対価ですよね?」


 そうしてこの日、不死鳥を喰らったエレノラは不老不死へと至る。


 この先数万年に渡って各地を旅し、世界への発展に貢献した爆弾魔の歴史は、今ここから始まるのであった。


 尚、戦いらしい戦いをせずに勝利を収めたユラン達は、何とかエレノラの爆弾から逃げ延び、まだ戦っているであろう者たちの場所に向かう。


 ユラン達がしばらくの間、爆弾がトラウマになったのは言うまでもない。

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