厄災戦争 弾けた花は不死を纏う2

 

 突如として現れた一人の人間。


 厄災級魔物が本能で“危険だ”と感じるレベルの爆弾を使用しながらも、平然とその場に立っているその少女は誰がどう見ても場違いだった。


 厄災級魔物が四体の中に人間が1人。


 自殺志願者だってもう少しマシな死に方を選ぶ。


 しかし、数多の厄災級魔物達を見てきたエレノラにとっては、この光景はそこまで危険なものでは無い。


 ここにいる厄災級魔物よりも遥かに強い厄災達を見てきたのだから。


 「私も正直逃げたいんですよ?厄災級魔物四体の相手は流石に疲れますし。ですが、私が私である為にはここで貴方達を追い払わなければならないんですよ。殺し合いをするのは自由ですが、さっさとどこかに消えてくれませんかね?」

 「........流石に予想外だ。これほどにまで強い人間が参戦してくるとはな」

 「上手く交渉出来ればこちらに引き込めるかもしれない。話してみるかい?」

 「それを向こうが許してくれればな。残っているカボチャ達は防御に使わせてもらおう」

 「上手く牽制してくれよ?逃げられてもダメだし」

 「分かってる。そんなヘマはしない」


 面倒くさそうにしつつも、どこか楽しそうなエレノラを見たジャック・オー・ランタンとユランは、このイレギュラーを上手く取り込めないかと考える。


 先程の爆発。最上級魔物相手ならば容易に殺せるであろう火力を持った爆発を起こせる人材は、あまり高い火力を持たない二体に取って魅力的だ。


 幸い、こちらは人の言葉が話せるので、交渉はできる。


 上手く行けば、三対ニの状況に持って行けるのだ。


 「あー、嬢ちゃん?少し私と話をしないか?」

 「........人の言葉を話す厄災級魔物。先生の所ではよく見た光景ですが、こうして何も無いところで偶然出会うのは初めてですね。なんでしょうか?」

 「私達は人類を守る為の戦いをしているんだ。手を貸して貰えないだろうか?」

 「急にそんなことを言われて“はい分かりました”と言うとでも?」

 「まぁ、当然の反応だわな。マルネスなら上手いこと話してくれるだろうが........なんと言ったらいいかねぇ」

 「........マルネス?もしかして、アゼル共和国の魔道具店の店主ですか?」

 「ん?知ってるのか?」

 「知ってるも何も、お世話になりましたからね。彼女の技術は爆弾に利用出来ましたから」


 小さく呟いた“マルネス”という名前。


 その名前はエレノラにとって聞き逃せない言葉だった。


 「これほどの大事。となると、“黒滅”シノノメジンも関わってそうですね」

 「おぉ、確か協力者の名前がそんな感じだったな。今は全世界で彼らが戦かっているのだよ」

 「なるほど。先生も関わっているのですか。相変わらずやる事が壮大で滅茶苦茶ですね。私の事を“頭がおかしい”と言う割には、先生も頭がおかしいということを自覚して欲しいものです」


 エレノラはそう言うと、爆弾を取り出して無造作に不死鳥達に向かって投げる。


 彼らの会話が終わるまでお行儀よく待っていたフェニックス達は、急に飛んできた爆弾から距離を取るがその爆弾は先程の爆弾とは違う。


 中に仕込まれた大量の鉄。


 指定方向に向かって扇状に鉄の破片を撒き散らし、相手の体内に鉄をねじ込む爆弾。


 ただの鉄ごときに傷を負わせられる程弱くは無い厄災級魔物だが、エレノラの爆弾となると話が違う。


 威力が桁違いなその爆発は、スレイプニルとフェニックスを巻き込んで吹き飛ばした。


 「「........」」


 急に爆弾を放り投げ、相手を爆破させるエレノラに軽く引くユラン達。


 エレノラの強さでもあり最もイカれている点である、“躊躇いのなさ”は一国を滅ぼした厄災級魔物から見ても異常と言わざるを得なかった。


 「流石にこれでは死にませんよね。相手はフェニックスとスレイプニル。何気に厄災級魔物との殺し合いは初めてなので、ちょっとワクワクしてきましたよ」


 躊躇のない爆弾の行使と“取り敢えず爆破すればよし”と言うイカれた思考回路。


 その頭のおかしさと、容赦の無さ、それでいながら人々の為に戦う彼女を皆はそう呼ぶ。


 冒険者“心優しき爆弾魔ボマー”エレノラと。


 「私があちこち爆破するので、上手く合わせてください。それと、私が“離れろ”と言ったら離れてくださいね?多分巻き込まれて死にますから」


 エレノラはそう言いつつ、爆風に吹き飛ばされたフェニックスとスレイプニルに向かって爆弾を投げる。


 他の爆弾よりも一際大きな爆弾。


 ソフトボール程の大きさの爆弾をエレノラは空に向かって投げると、その場から少しだけ下がって退避する。


 かつてエレノラが最も尊敬し敬愛する先生がポツリと語った異世界の爆弾。


 人道上の懸念に対処するために条約すら作られた大量殺戮兵器であり、何百もの小型爆弾を内蔵した面制圧において最強の爆弾。


 「爆弾の雨クラスター


 空に投げられた爆弾が弾け飛ぶと、中に仕込まれた数多くの爆弾達がワラワラと飛び出る。


 クラスター爆弾。


 条約によって使用が禁止されている(国によるが)爆弾であり、この世界の歴史上初めて使われる爆弾。


 この世界の歴史に新たな1ページを刻んだエレノラは、初めて買ってもらった玩具を楽しそうに眺めるような目でその美しき爆破を見る。


 「アハッ、アハハハハ!!やはりこの爆弾は美しいですね!!1つの爆弾から生み出される圧倒的な面制圧!!しかも、中に仕込んだ爆弾を変えれば戦略も自由自在!!あぁ、なんて美しく輝かしいのでしょうか。先生に是非とも見てもらいたいですよ」


 爆破され、周囲が焼け野原になっていく光景を見ながら楽しそうに笑うエレノラ。


 自分の作品が世界を壊すその光景が、エレノラにとってはとても美しくそして輝かしく見えたのだ。


 「........こいつ、ヤバくね?」

 「ヤバいやつを味方にしちゃったかもしれないね。随分と頭がおかしいよこの子」


 世界を焦土と化す光景に笑顔を浮かべるエレノラを見て、ジャック・オー・ランタンとユランは“こいつやべぇ”と思うのだった。

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