厄災戦争 弾けた花は不死を纏う1

 

 アゼル共和国から南西に降りたとある小国の平原。


 そこでは、“大蛇”ユランと“鬼火”ジャック・オー・ランタンが“不死鳥”フェニックスと“八脚馬”スレイプニルと対峙していた。


 マルネスの元に集まった厄災級魔物であるユランとジャック・オー・ランタンは、正直あまり強くはない。


 厄災級魔物と分類されてはいるものの、カーバンクルと同じくサポート寄りの力を持っていた。


 「全く、マルネスももう少し考えて転移して欲しいものだ。不死鳥相手とか、私はどうしようもないぞ?」

 「決して死ぬ事の無いと言われる魔物。しかも、炎に対しては絶対的な防御力を持つとなればジャックじゃ勝てないだろうね。まぁ、私も勝てるかと言われると怪しいんだけど」

 「どうするんだよコレ」

 「最悪、時間だけ稼ぐことになりそうだ。私たちには他の厄災級魔物と違って火力があまりないからね。国を滅ぼした時は準備をしていたからあれほどの力を出せたのであって、常に最大火力を維持できる訳じゃない」

 「一応、多少の準備はしたとは言えど、厳しいだろうな。はぁ、マルネスと知り合ってから数千年。アイツは何も変わりはしない。毎回振り回される身にもなって欲しいよ」


 グチグチと文句を垂れつつも、既に戦闘態勢に入っているユラン達。


 マルネスに文句を言ったところで、この状況を変えることは出来ないと彼らは分かっている。


 それに、暇な日々を過ごしていた彼らに態々近づいて“楽しさ”を提供してくれたマルネスには多少なりとも恩義を感じていた。


 揺レ動ク者の厄災級魔物達が仁に手を貸すのと同じだ。


 彼らは退屈な日々を過ごし死ぬ運命だった所を、助けられたのだ。


 本人達からすれば別に大したことをしていないし、打算込み下心ありなのだが、どう受け取るかは本人の自由。


 だからこそ、文句を言いつつも、この場に立っている。


 「マルネスには借りがあるんでな。この身が尽きるまでは抗わせて貰うぞ」

 「だね。悪いけど君達は私達と遊んでもらうとしよう」

 「ピィー」

 「ブルル........」


 ユラン達の殺気を感じ、身構えるフェニックスとスレイプニル。


 ジャック・オー・ランタンは巨大な鎌を構えると、かぼちゃの顔をニッと笑わせながらその鎌を地面に突き刺した。


 「カボチャ達が笑う夜ハロウィン


 ジャック・オー・ランタンは自身の能力を発動させると、周囲にジャック・オー・ランタンと同じカボチャの顔が出現し始める。


 その数は少なく見積って数千体。


 不気味な笑顔を浮かべたカボチャ達は、ユランとジャック・オー・ランタンを囲むようにクルクルと回り始める。


 「ピ、ピィー???」

 「ブルル???」


 攻撃してくる訳でも無く、ただただユラン達の周りを回り続けるカボチャ。


 先程まで発していた殺気からは全く想像できない攻撃(?)にフェニックスもスレイプニルも混乱する。


 攻撃を仕掛けてくるんじゃないかお前ら、と。


 「ふふふ。混乱しているな。このカボチャ達が何をしたいのか分からない様に見える。しかも、カウンターの可能性もあるから下手に攻撃できないとなれば、時間はかなり稼げるだろう」

 「........いつも思うけど、やり方が狡いよね。ちょこっと爆発するだけのカボチャで意味の無いことをするとか、この力を使って芸者にでもなった方がいいんじゃないの?マルネスもよく気に入っていたし」

 「仮にも厄災級魔物である私が、何が悲しくて路上で芸者活動しながら路銀を集めなきゃならんのだ。それに、一応人間は簡単に殺せるだけの火力はあるからな?」


 “カボチャ達が笑う夜ハロウィン”。


 ジャック・オー・ランタンの異能であり、あまり攻撃には使えない使い道もあまりない能力。


 自分と同じカボチャの顔を出現させ、相手に向かって爆撃を仕掛けるという代物なのだが、その爆破の威力もあまり高くない。


 ジャック・オー・ランタンはこれ以外にももう1つ技があるのだが、攻撃系となるとこれしか無かった。


 ジャック・オー・ランタンはその昔、とある王国に忍び込んでこの爆弾をあちこちに仕掛け爆発させたのだが、直接爆破で殺すと言うよりも建物の崩落で相手を殺した数の方が多い。


 ハッキリ言って、ネタ枠である。


 かぼちゃの爆発は人を殺せるだけの威力こそあるが、厄災級魔物相手には全く役に立たないのだ。


 仲間内からも、大道芸人の方が向いていると言われて馬鹿にされる始末である。


 それでも、祝い事になれば意外と華やかな飾り付けになるので、マルネスは結構この能力を気に入っていた。


 「さて、どうする?」

 「どうするもこうするも、今の間に準備をしっかりと済ませておくさ。幸い、私たちを完全に無視しようとしている訳では無いみたいだしね」

 「だといいけどな。このブラフがいつまで続くか分からんぞ」


 ジャック・オー・ランタンはそう言うと、ユランが準備を終えるまで相手の動きを伺う。


 しかし、その数十秒後、その場にいた厄災級魔物全員が本能的に危険を察知して場を離れた。


 ドォォォォォォォォォン!!


 と、空気を揺らす大爆発が巻き起こり、ジャック・オー・ランタン達を守っていたカボチャが爆風に飲まれて破壊されていく。


 何事かと思い、爆破物が投げ込まれた方向を見ると、そこには一人の人間が立っていた。


 「大きな気配を感じて来てみれば、厄災級魔物が四体ですか。これは骨が折れますね。ですが、ここで私が引けば村の人々まで危害が及ぶ。はぁ、先生はどうしてこんなにも面倒な縛りを私に貸したのでしょうか」


 面倒くさそうにしながらも、その目はワクワクしている。


 実験台が現れてくれたと彼女は喜んでいる。


 最近作った爆弾の威力を試したくて試したくて堪らなかった彼女は、自然と口角を上げながらその手に爆弾を携えた。


 「さて、実験の時間です。厄災級魔物なんですから、少しは耐えて下さいよ?」


 仁の教え子にして、最も頭のイカれた爆弾魔。


 エレノラはそう言うと、恐れ知らずにも厄災級魔物達と対峙するのだった。

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