厄災戦争 機を熟し祖を裏返る1
正共和国の南に位置する平原。
足首ほどまで育った草を踏み潰し、彼女達は対峙する。
“
「“聖弓”と“水毒竜”ヒュドラかー。前者はともかく、後者は大変そうだね」
「確か、強力な毒を吐く魔物だったね。ヨルムンガンドさんより毒が強いのかな?」
「それは分からないねー。でも、ヒュドラは毒だけじゃない。その再生力も化け物と聞くし、泥沼試合になりそうだよ。それでも、私たちの勝ちは揺るがないけどね」
“水毒竜”ヒュドラ。
かつて大国とまで言われたとある国を滅ぼし、その周辺一体を毒沼へと変えた厄災級魔物。
その強さは人類の祖アドム達の中でも上位に君臨し、アドム達からも頼れる戦力としてアテにされている。
空は飛べないが竜種として扱われており、その九つの頭は恐怖の象徴として語り継がれていた。
とある物語では“魔王”とも呼ばれた伝説の厄災。
朱那とラファは、程よく緊張感を持ちながらも自分達並ば勝てると確信する。
そもそも、ラファがいる時点で負けることは無いのだ。
泥試合になることは確定だろうが。
「ウップ........気持ち悪い」
「ちょ、しっかりしてくださいって!!貴方それでも竜種の厄災級魔物なんですか?!」
「無理なものは無理........」
「あぁ、もう!!ちょっとまっててください!!貴方たちも少し待っててください!!」
転移による空間酔いによって気分を悪くしたヒュドラ。
聖弓はこんな場所で吐かれたらたまったものでは無いと、慌ててヒュドラの体調を治す。
朱那もラファも、あまりにも馬鹿らしすぎるやり取りのためか、聖弓の行動を止めなかった。
「
「お、おぉ。ちょっと気分が優れてきた。今度から転移の時は目を瞑っていよう。私達にはキツいわコレ」
「全く。なんで私が厄災級魔物の面倒を見てるのですか........」
体調が戻ってきたヒュドラを見て呆れる聖弓。
そんな1人と一体を見ながら、ラファは話しかけた。
「そろそろいいかな?」
「すみません。おさがわせしました」
「いえいえ、なんというか私達を見ている気分になったので。大変ですよね。酔った人の介抱は」
「酷いなぁ、ラファ。お酒は偉大だよ?」
「うんうん。アル中ちゃんは黙ってようねー」
この少しの間だけでも酒を飲もうとする朱那に呆れるラファ。
初めて見た時は酒に溺れていなかったというのに、今となっては酒狂い。
それでも愛おしく思えてしまうあたり、ラファもラファで狂っているが。
「コホン。話を戻すけど、降伏してくれない?聖弓ちゃんはその目を治してもらった借りがあるんでしょ?」
「えぇ、まぁ」
「それ、治したの私なんだよね。つまり、私に借りがあるわけだ。ここで返そうとは思わない?」
「生憎、貴方が本当の事を言っているのかどうか、私には判断できません。それに、ドワーフ共を殺す手伝いをして頂いた借りがこちらにもあるので」
「そっか。それは残念。それじゃ、君は?アドムに力を貸す理由なんてないと思うけど?」
ラファはそう言うと、ヒュドラを見る。
ヒュドラは九つの頭をくねくねとさせた後、口を大きく開けた。
「あるにはある。理由は言えないが、女神を殺す事は私も賛成なのでね。悪いが、話し合いで解決は出来ないと思ってくれ」
“話し合いで解決”
その言葉を聞いたラファは、思わず笑い出してしまった。
「ふははっ!!話し合いで解決?はなからそんなつもりはないですよ。そんな暇があるなら、貴女方を殺す準備をする。そうは思いませんか?ねぇ?シュナ?」
「ほら、足元危ないよ」
「「........!!」」
話し合いは時間稼ぎ。
聖弓とヒュドラに気付かれないように仕込んだ朱那の能力が、地面から天高く登る。
“
一撃で相手を屠るには十分過ぎる火力だ。
「やり方が汚いよね。私達も仁くんに毒されてるよ」
「あはは。それは言えてる。仮にも元天使が不意打ちだものねー。そりゃ堕天使になるわけだ」
「仁君と花音ちゃんには責任取って貰わないと。私達がこうなったのは二人のせいだ!!ってね。とは言え、先ずはこれを終わらせてからじゃないと」
「頑丈だねぇ。シュナの一撃を耐えられるなんて」
炎が晴れ、灰となった草花が空に舞う。
その中から出てきたのは、
「完全に油断したな。最初から話し合いの余地はなかったというわけか」
「目に頼りすぎてました。声色を聞けば相手の感情が分かるはずなのに。わたしも衰えましたね」
「大丈夫だよ聖弓さん。衰えてたら今ので死んでるから」
「慰めですか?不意打ちをしてきた割に優しいのですね 」
「元天使だからね。これでも人の気持を分かってやれるほどの良識はあるんだよ」
朱那とラファはそう言うと、漆黒の翼を広げて空を飛ぶ。
罪人天使。
堕天した天使の闇は、正義のために振るわれる。
「堕天使........悪魔とならぶ不吉の象徴。貴女方、何者ですか?」
「ただの堕天使だよ。お酒とラファが好きな........ね」
「そうそう。私達はただの堕天使ですよ。降伏するなら今ですよ?今なら殺しはしませんし」
「信用できませんね。先程の不意打ちを忘れたのですか?」
「同意だ。君達への信頼は無いよ」
「それは残念」
こうして、堕天使達と女神を殺す者達の戦いが始まるのだった。
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