厄災戦争 世界は石となりて時を止める

 

 蛇の女王メデューサ。


 全ての蛇種の頂点に立ち、この世界の蛇達の母として君臨する女王。


 彼女は今、自分の事を“お姉様”と呼ぶ一体の蛇と対峙していた。


 「yah、なぜ貴方がここにいるのですか?」

 「それはこちらのセリフなんですけどね?お姉様。貴方はこういう事に無関心だと思っていましたが........」

 「“虹蛇”デンゲイ、人はかわる生き物ですよ」

 「いや、貴方蛇じゃないですか。私もですけど」


 呆れ口調のデンゲイは、そう言いながらメデューサを注意深く見る。


 メデューサの最も恐ろしい能力は“石化”と“目”。


 石化は本人の種族としての能力であり、目は彼女の異能だ。


 “私は貴方を見つめてるサクリファイス”。


 何時でもどこでも世界を見ることが出来る目。多少の制限はあれど、この目はその気になれば世界全てを見通せる。


 制限として蛇の目を介さなければならないが、メデューサの石化の能力と相まってとてつもない力を発揮するのがこの力だ。


 今は石化の力を使ってないが、使い始めれば最後。


 この場一体は石となり、生命が生きるには難しい環境が広がる事になる。


 「で?なぜ貴方がここに?」

 「私は私の目的があるんですよ。お姉様。思った事はありませんか?あの忌まわしき女神の首を狩り取れたらどれだけ愉快なのだろうかと」

 「興味無いデース。私は私の思うがままに生きますからね」

 「でしょうね。私達の同胞を全て殺した挙句、逃亡するような人ですから。そんなに古きしきたりが嫌でしたか?」

 「つまらないだけの場所に、留まる理由はないデース。それを邪魔する奴らも........ね?」

 「そうですか。それは一理ありますね。さて、私としてはお姉様と戦いたくありません。勝てませんし。大人しく人々が殺されるのを見てはどうです?その目で」

 「お断りシマスよ。団長さんに怒られちゃいマース!!」

 「では、その団長さんを殺せば、私達のやる事に手を出さないで貰えますかね?」


 ピキリ。


 その瞬間、デンゲイの体は一瞬にして石となり、その周囲もまた石像と化す。


 僅かコンマ数秒の出来事。かつて、仁に頼まれて小国を消したその時がいかに手を抜いていたのかがよく分かる。


 「舐めたこと言ってんじゃねぇぞ。糞ガキが。団長さんを殺す?出来もしないくせにほざくな」

 「キャラ、忘れてますよお姉様」


 石像にされ、体の芯まで石になったはずのデンゲイが、何事も無かったかのように動き始める。


 そして、気づけば石化は解け、虹色の輝きを持って身体をくねらせていた。


 「おっと、私とした事がダメでしタネ!!」

 「この容赦のなさ。相変わらずだ事」

 「お前を殺すには少し時間がかかりそうデース。さっさと死んで欲しいデスネ!!」

 「私はお姉様に勝てませんが、負けもしませんよ?」

 「超再生。お前の能力でしたね?そんなもの、どうとでもなりますヨ。この世界には、殺しても死なない堕天使が居るぐらいですからネ」


 メデューサはそう言うと、再びデンゲイを石化する。


 先程と同じく一瞬にして固まったデンゲイだが、即座に石化を解除するとメデューサに向かって突撃してきた。


 「無駄ですよ!!」

 「なら、死ぬまで続けマース!!」


 石化、解除、石化、解除、石化、解除、石化、解除........


 何度も何度も同じやり取りが繰り返され、石化された大地は広がっていく。


 気づけばメデューサとデンゲイのいた周辺は全て石と成り果て、その場に残っているのは2人だけどなった。


 「くっ、届かない!!」

 「団長さん達の方がまだ強いデース。もう少し頭を使ったらどうですか?」

 「あいにく、これしかやり方を知らないんですよ!!」


 回復力にものを言わせ石化を解除しながら突き進むデンゲイと、回復すると同時に石化を付与し続けながら距離をとるメデューサ。


 この攻防は日が沈んでも行われ、気づけば朝を迎えようとしていた。


 尚、この鬼ごっこの際に近くにあった村が石化の被害に巻き込まれていたのだが、彼女達が知る由もない。


 たまたまメデューサの放った過剰な石化の余波が、村の半分を石に変えただけだ。


 「ハァハァハァ........追いつけない」

 「おやおや?息切れですか?三姉妹や獣人達の方がまだ根性ありマース」


 メデューサはそう言うと、再びデンゲイを石化。


 いくら再生力が高くとも、その現象が魔力によって引き起こされているものである限り限界はある。


 仁達の元で楽しくも自身の成長を辞めなかったメデューサと、最強に近い厄災級魔物であるが故に停滞したデンゲイ。


 この2人の力量差は、もはや明らかだった。


 「ん?解除されませんネ?魔力が尽きましたか」


 メデューサはそう言うと、デンゲイに近づく。


 そして、石像を壊そうとしたその瞬間、デンゲイは最後の力を振り絞って石化を解いた。


 「貰った!!」


 喉元に一直線。この距離なら、石化よりも自分の腕の方が早い。


 勝ちを確信したデンゲイだが、メデューサの目は全てが見えていた。


 「甘いデース。私がなんの仕込みも無しに近づく訳がないじゃないですかー」


 喉元に攻撃が届く直前、デンゲイは再び石化される。


 仁の汚いやり口を見てきたメデューサは、相手が仁ならこうするという想定の元、仕込みをしていたのだ。


 「団長さんが相手でもこの手は使ったでしょうね。だけど、団長さんよりも弱い貴方では変わらないデース」


 石の影に隠した眷属。


 彼らはメデューサの目を通して、この時のために待機していた者たちだ。


 「団長さんとの出会いは、私を大きく変えたのですよ。昔なら今の一撃を食らっていたでしょうがね」


 メデューサはそう言うと、再びデンゲイが再生する前に石像を粉々に砕く。


 いくら再生力が高かろうと、石化プラス粉微塵にされれば再生することは出来ない。


 「yah、仕事は終わりでーす。あとは、適当に歩き回って皆の援護に行きましょうか。あちこちで魔力の高まりを感じる事ですしね!!」


 メデューサは機嫌よくそう言うと、石化した世界を後にするのだった。

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