厄災戦争 流れ落ちる星々は貴方の為に

 

 元正教会国の北側。人々が近づくことは無い森の上空で、リンドブルムと“黒龍”フェルニゲシュが対峙していた。


 かつて星を落とすことで大陸を消し飛ばした竜と、闇による破壊を持って国を滅ぼした龍。


 厄災同士の戦いは、この世界の人々とっていい迷惑でしかないが、等の本人達は気にする様子もない。


 「俺の邪魔をしないでもらいたい」

 「それは無理な相談だ。アタシは団長さんに言われてここにいるからね。彼を悲しませるような真似をした日には、殺されちまうよ。そう言うアンタこそ、アタシの邪魔をするな。今ここで改心するなら見逃してやるぞ?」

 「ぬかせ馬鹿が。今この場で改心するのであれば、最初からこの計画に乗ってない」


 “黒龍”フェルニゲシュ。


 その美しくも深淵を想像させてしまう黒い鱗は、黒竜ブラックドラゴンよりも硬く、口から発射される闇の光線は世界を闇に包むとすら言われている。


 国を滅ぼしたのは数千年前。


 とある人との繋がりが、彼を変えてしまったのだ。


 「バカはお前だよ。女神に本気で勝てると思っているのか?アレは私達のような生命体ではなくさらに上の次元の高次元体だ。そもそもの格が違うだろうに」

 「それを可能にするのがアザトースの存在だ。本来0%の確率を60%近くまで跳ね上げてくれる」

 「1度敗れた神の癖に?しかも、女神の作った眷属にすら負けるような奴だぞ?」

 「本気でアザトースが負ける負けがない。取引があったからこそ、やつは封印されたのだよ。それを人々は“自分達の勝利”と勘違いしただけの話だ」

 「アッハッハッハッハッ!!負け惜しみもそこまで行くと清々しいな!!どちらにせよお前達が勝つことは無い。団長さんがいる時点でな」


 リンドブルムは知っている。神にすら届きうる存在を。


 かつて力なき優しい人間を映し出したかのような、心優しい少年を。


 リンドブルムはこれ以上話すことは無いと判断すると、戦闘開始の合図も告げずに一撃を放った。


 流星アストラルレインの能力を行使し、星を生成。その星に魔力を加え、投石の様に放つ。


 「........話すことはもう無いか」


 凄まじい速度で迫る星に、フェルニゲシュは臆することなく口を開くと黒い光線を放った。


 闇を纏った光線は星を飲み込み、リンドブルムに真っ直ぐ向かう。


 リンドブルムは軽々と光線を避けると、静かにフェルニゲシュを睨んだ。


 「危ねぇな。私のこの綺麗な白銀の鱗を黒く染める気か?」

 「そのつもりだったのだがな。易々と避けられた」

 「あっそ」


 僅かな違和感を感じつつ、リンドブルムは再び攻撃を繰り出す。


 先程のような小手調べの一撃ではなく、今回は本気で殺しに行く一撃だった。


 「団長さんには周囲を壊すなと言われていたけど、ちょっと無理そうだな。後で怒られそうで嫌になる」


 ゴォォォォォォォ!!


 と、うねりを上げる空。


 何事かと空を見上げれば、そこには数え切れないほどの星々が地上に向けて落ちてきていた。


 赤く光る星々。


 その光景、正しく流星。


 「この星ごと壊す気か?こんなもの放った日には、多くの人が死ぬぞ」

 「アハハッ!!一昔前ならそうだろうな。だが、アタシもそれなりに成長するんだよ。死ぬ気で耐えてみろ」


 フェルニゲシュは刻刻と迫る流星を無視すると、リンドブルムに向かって体当たりを仕掛ける。


 星々が降る前に、術者を倒せば問題ない。


 そう考えての行動だった。


 事実、この判断は間違えていない。


 この一撃を全て避けきるのは不可能。ならば、自分に星々が降り注ぐ前に術者を倒して星々を消せばいい。


 しかし、リンドブルムも馬鹿ではない。


 相手がその様な手段に出ることは分かりきっている。


 「ロック」

 「........?!」


 突如として止まるフェルニゲシュ。


 気づけば、自身の周囲に星々が集まり自分を邪魔するように追尾してくる。


 幾ら頑丈な竜とは言え、リンドブルムの星を喰らえばタダでは済まない。


 被弾覚悟で突っ込むか、逃げ回って時間を稼がれるか。


 その二択に迫られたフェルニゲシュが選んだのは前者。


 そして、その選択はリンドブルムの手のひらの上である。


 「弾けろ!!」


 フェルニゲシュは、能力を使って周囲の星を砕きながらリンドブルムへと突き進む。


 が、リンドブルムはその突撃を待っていた。


 「昔は星を降らせるだけでいいと思っていたんだ。だけど、団長さん達に出会ってから戦い方が変わってね。どうやらアタシも、随分と嫌らしいやり方を覚えた様だ。団長さん達には責任取って貰わないとねぇ」

 「ガッ!!」


 突如として襲う腹部の痛み。


 フェルニゲシュが下を見ると、そこには数多くの星々が地面から発射されていた。


 「星は上から降ってくる。そう思い込んでいただろう?威力は低くなるが、天に昇る星も使える事をお前は知らなかった。タイムリミットもあったから、上ばかりに意識が向く」

 「........ゴッ!!俺の防御を貫通できるだけの攻撃を、威力が低いで片付けるのか」

 「それはお前が弱いだけだ。停滞していた厄災と、人間と共に歩んだ厄災。はなから勝負は決まってる」


 リンドブルムはそう言うと、空にきらめく星々を消してフェルニゲシュの真上だけに巨大な星を出現させる。


 その大きさ、約1km。


 幾ら厄災級魔物とは言え、これに押しつぶされればタダでは済まない。


 フェルニゲシュは逃げ出そうとするも、星々があちこちを砕いたせいで空を飛ぶのが精一杯だった。


 「さらば。死にたがりの龍さん」

 「........何の話だ?」

 「別に?アタシは団長さんの役に立ててばそれでいい。お前が弱くて助かったよ」


 星は落ち、フェルニゲシュは殺される。


 苦戦することも無く、圧倒的な結果を終えたリンドブルムは気分よく星の上に座るとポツリと呟いた。


 「全く、アタシも毒されたね。あの子が今のアタシを見たらなんて言うのやら」


 流れ落ちる星々は貴方の為に。


 リンドブルムはそう心に刻むと、近場で戦っている仲間の援護に向かうのだった。



 その日はいつも通り快晴だった。だが、村の少年が“空を見て”と言うので見上げれば、何かが落ちてくる。しかし、わずかな時間でそれも消えてしまった。

 私は一体、何を見たのだろうか?もしかしたら、神の怒りだったのかもしれない。この後の世界を見れば、そう確信せざるを得ないのだ。“厄災戦争:不穏な空”より

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