厄災戦争 愛は世界を粉砕す

 

 マルネスの大規模転移によってそれぞれのマッチアップが決まった頃。


 ドワーフ連合国と正連邦国の間にある山岳地帯では、“強大なる粉砕者”ジャバウォックと“牛蛇”オピオタウロスが対峙していた。


 この場に人は居ない。近くに村も無ければ、近くに人影もない。


 この場所ならば、どれだけ暴れようとも問題ないだろう。


 「“牛蛇”オピオタウロス。確か、体内の魔力を燃やす事で爆発的な力を出せる厄災級魔物だったはずだな。私は見たことがないから知らないが、団長さんが持っていた文献にそんな事が書かれていた気がする」

 「ブルム」


 ジャバウォックの体長は約20m。対して“牛蛇”オピオタウロスの体長は約3m。


 パッと見ただけでは誰もがジャバウォックの方が強そうに思えるが、ジャバウォックを油断しない。


 この世界にはこのオピオタウロスよりも小さく、それでいて自分よりも強い存在が居るのだから。


 下手をすれば神にすら届きうる強さの頂き。その頂点に登った者がいるのだから。


 唯一その者の困った点は、遊ぶ癖があることと自分達すらも巻き込んで滅茶苦茶に暴れる協調性の無さだ。


 本人は自覚していないが、割と自分勝手で自由奔放過ぎるのである。


(とは言え、あの人に振り回されるのも楽しかったけどね。いい出会いもあったし、今の私は幸せ者だよ)


 今のジャバウォックにはラナーと言う妻がいる。


 相手はダークエルフ。この世界でもかなり異質な二人の関係をなんやかんや上手くやってくれていた仁。


 ジャバウォックは恩を返す時が来たのだ。


 あの退屈な世界は、今や色鮮やかに世界を彩っている。


 「悪いけど、私は妻の元にいち早くいかなければならない。同じ厄災級魔物だからと言って、慈悲を期待しないでくれ」

 「ブルム!!」

 「何故君が女神に仇なす存在に力を貸すのかは分からないが、私にも守るべきものがあるのでね」


 刹那、山岳地帯は消えてなくなる。


 大地を揺らし、世界を揺らす爆音が空気を揺らし、気づけば山岳地帯は均一に分けられた平面へと成り代わっていた。


 “粉砕する雷槌ミョルニル


 天上神器アースに数えられる神の破片であり、その絶対的な力はその気になれば世界を割る。


 長い間ジャバウォックはこの力を本気で行使した事がなかったが、愛の力と言うべきか。今回ばかりは、言葉どおり一切手を抜いていない。


 瞬きする間もなく平面へと形を変えた大地。


 しかし、その中にオピオタウロスの姿はなかった。

 

 ジャバウォックは焦ること無く、オピオタウロス画いる方向に視線を向ける。


 砂ぼこりが舞い上がりすぎて姿は見えないが、ジャバウォックの後方約120mに居るのは分かっていた。


 そして、オピオタウロスが攻撃を仕掛けようとしていることも。


 「いまので死んでくれていたら、楽だったのだけれどね」


 再び“粉砕する雷槌ミョルニル”を起動。


 次はどこに逃げても当たるように、威力よりも範囲をとる。


 ジャバウォックを中心として、5km四方に放たれた神の槌はその場一体をプレス機にかけたかのように平らにした。


 「ブッ........!!」


 流石のオピオタウロスもこの一撃は避けられない。


 体内にある魔力と臓器を燃やし、限界まで自身の強度を引き上げて耐え凌ぐ。


 が、足を止めてしまった時点でオピオタウロスの負けは決定づけられた。


 ジャバウォックは一切の躊躇無く神の鉄槌を最大出力で振り下ろすと、オピオタウロス事星に穴を開ける。


 ドゴォォォォォォン!!


 と、二人轟音を鳴り響かせたその先にはジャバウォック以外何も残ってなかった。


 「うわやっば。初めて最大出力で使ってみたけど、やっぱり私の予想は正しかったんだ。奥が見えないほどの穴が空いてる」


 オピオタウロスを巻き込んだ一撃は、星野中核近くまで穴が開き光が差し込んでいたとしてもその先が見えないほどに真っ暗になっている。


 神の破片。その中でも破壊力に特化したジャバウォックの一撃は、あと一歩間違えればこの星そのものを壊していた可能性すらあったのだ。


 そんなことを知る由もなく、オピオタウロスの気配が消えた事を確認したジャバウォックは妻のいる場所に向かって歩き始める。


 ジャバウォックにとって、ラナーは生きる意味。


 案外、団員の中で花音の次に愛が重いのはジャバウォックかもしれない。


 「さて、行かないと」


 戦闘時間、わずか20秒。


 オピオタウロスが自身の限界を超えて力を覚醒させることも無ければ、ジャバウォックが苦戦を強いられる事もなく終えたこの戦いは、後に“天罰の跡”として人々に恐れられるかととなる。


 その裏で世界のために戦う厄災級魔物と、神の力を持った者がいた事は誰も知らない。



 その日、私は爆音と共に目を覚ました。何事かと家の外に飛び出でるが、村の近くで何かあった訳では無い。では何があったのか?三ヶ月後に分かったことだが、どうやら何者かがそれなりに離れていた山岳地帯を消したらしい。

 今思えば、これが全ての始まりだった。私達は運が良かったがこの轟音こそが、世界を滅ぼす鐘だったのだ。“厄災戦争:始まりの大地序”より


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 ジャバウォックがオピオタウロスを瞬殺し、ラナーの元へ向かったのを見ていた世界の管理者。


 その1人が頭を抱えて天を見上げる。


 「おいおいおい、人間がイカレてるとも思えば、こっちもイカれてんだろ。俺が手を出さなかったらこの星消し飛んでたよ?君たち住む場所無くなるよ?」

 「それを管理するのも我らの仕事だろう?幸い、彼らは私達の代わりに戦っくれている。多少の手助けはしなければ罰が下るという物だ」

 「ほざけババァ。クソッタレノ女神が。こっちに厄介事を全部回して、自分は安全確保ってか?」

 「女神も女神で仕事がある。例え世界の危機と言えど、あまり自由には動けまい。分かってやれ」

 「嫌だね。だから引き受けたくなかったんだよ。あのクソ女神、知らないところで敵を作る天才か?さすがは今暴れているヤツの生みの親だ。親と子は似るからな」

 「その辺にしておけ。私達の介入はできる限り抑えたい。が、あの異邦人に負けられると困る。静かに見守るとしよう」

 「はいはい。もう俺が全部壊した方が早い気がするけどね」


 管理者達が動き出すかは、この戦いの行方しだいだ。

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