厄災戦争
カーバンクルと少しだけ親交を深めた翌日。ついにその日は訪れた。
仲良くなったカーバンクルと遊んでいると、仮眠を取っていたマルネスが目を覚ます。
単純に目が覚めた訳では無い。明らかに誰かに目を覚まさせられていた。
「時間だ。奴らが動き始めたぞ。しかも、相当な戦力を持ってね」
「どの程度の戦力だ?」
「正確には分からないけど、厄災級魔物の気配がある。だけど、私達の想定内だね。甚大な被害は避けられないだろうけど、この程度なら問題なさそうだ」
マルネスはそう言うと、ゆっくりと立ち上がって固まった全身を解していく。
これからマルネスは、カーバンクルを連れて人類の祖アドムと真っ向から対面する。
作戦が失敗すれば真っ先にマルネスは死ぬだろうし、緊張が伝わってきた。
これから始まるのは世界の命運を掛けた戦い。
人類を守るために厄災級魔物達まで総動員した文字通りの“厄災戦争”なのだ。
この日の為にある程度は準備してきたが、全てが上手くいくとは思えない。
後は、やれることをやるだけである。
「君にはアドムを始めとして、4人ほど相手してもらうつもりだよ。上手くやってくれ。君が負けると、どうしようもないからね」
「任せろ。マルネスこそしくじるなよ?マルネスがしくじった時点で、この計画は全てがパーになるからな」
「アハハ。大丈夫大丈夫。私は仮にもお師匠様の高弟だったんだ。この程度でしくじる程、私は愚かではないよ」
マルネスはそう言うとニッと笑いながらカーバンクルを抱き上げる。
そして、俺に拳を突き出して頼もしい顔でこう言った。
「勝利の先でまた会おう」
「誰一人として欠けることなく集まれる事を祈ってるよ」
普段なら茶化すが、流石に今回は真面目な言葉を返す。
俺はマルネスと拳を合わせると、体の緊張を解しながらマルネスが無事に計画を遂行できることを祈る。
「行くよカーバンクル。準備はいい?」
「キュー!!」
マルネスの確認に元気よく鳴くカーバンクルの返事を聞いたマルネスは、俺に軽く手を振るとその場から消えた。
転移の魔道具。失われた古代技術を使い、マルネスは人類の祖アドムたちの元へと向かったのだ。
「さて、俺もやれる事はやっておくか」
俺はそう言うと、獲物がやってくるまでゆっくりと体を動かして準備運動をするのだった。
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転移を使い、マルネスとカーバンクルがやってきたのは、人類の祖アドム達が集結している場所のど真ん中。
敵陣のど真ん中に突如として現れたマルネスに、アドム達は驚きながらも手を出すことは無い。
彼らは本能的に感じたのだ。マルネスに手を出すと、自分達が厄災に見舞われると。
カーバンクルの招く厄災は、自分達の戦力を大きく減らす可能性があるのだと。
「ここの者達は来訪者にお茶のひとつも出さないのかい?まだ、ジン達の方がここら辺はしっかりしているな」
「キュー」
マルネスは背中に冷や汗をかきつつも、出来る限り自分が怯えている態度を悟らせないように自分を大きく見せる。
この場にいる戦力はその気になればマルネス達を瞬殺できる。その際に厄災に見舞われるだろうが、被害さえ気にしなければ何時でも殺せる相手ばかりなのだ。
同じ厄災が集まる仁達とはえらい違いだと思いつつも、マルネスは今の態度を崩さない。
アドム達は急な来訪者に驚きつつも、マルネスとカーバンクルに警戒しながら言葉を返す。
「不法侵入してきた人に出す茶はないね。君は自分の家に泥棒に入った人にお茶を出すのかい?」
「まさか。そんな奴がいたら真っ先に捕らえるさ。だが、私は泥棒では無い。招かれざる客なのは認めるけどね」
「お茶は無理だが、死をくれてやることは出来るぜ?何者だお前は」
アトムの近くに居た人形はそう言うと、殺気を露わにしてマルネスに攻撃を放つ準備をする。
明らかに味方では無いマルネスとカーバンクルを見て、人形は“敵”だと判断したようだ。
「私かい?私は君達のような愚か者を排除するためにここに来たのさ。女神イージスを殺して誰がこの世界を管理するんだ?」
「........神であるアザトースが管理するのさ」
「“元”神だろう?1度神々に敗北し、力を失った神もどきに何ができるって言うんだ。格の落ちた神なんざ、私たちと大差ないだろう?バカなのか?君たちは。あ、馬鹿か。女神を殺した後のことが想像できてないもんね」
きっちり煽りを入れるマルネス。
その言葉に、その場にいた全ての者達が反応した。
「調子になるなよ小娘。今すぐにでも殺してやる」
「大魔王様を愚弄するとは、万死に値する。今すぐにでも引き裂いて殺してやろう」
「ダチの事悪く言われて黙ってられるほど、俺は心が広くないんだ。楽には殺さんぞ」
一気に空気が悪くなる。
誰もが殺気を隠さず、あとひと押しあれば全員がマルネスを殺しにくるような状況。
しかしマルネスは冷静だった。
怯えはあるが、この日の為に準備してきたのだから失敗はできない。
彼らの殺気は、返ってマルネスを冷静にさせたのである。
「やれるもんならやってみな。ほら、今なら簡単に殺せるよ?」
「........キュ」
だが、誰も動かない。
否、動けない。
ここまで自信満々な相手が、何も準備せずにここに来るわけが無い。
そう考えてしまった彼らは、マルネスに時間を与えてしまった。
アドム達が一番最初にやるべきだったのは、カーバンクルに怯えず即マルネスを殺すこと。
適当なブラフと言葉による時間稼ぎで、彼は最も大きなマルネスを殺すチャンスを逃してしまったのだ。
「なんだ?来ないのか。なら、私が招待してあげよう。女神に仇なす愚か者共に、私達が宣戦布告を叩きつけてやる」
マルネスはそう言うと、予め準備しておいた魔道具を起動。
この魔道具はマルネスの全てを使って作られた魔道具であり、相手の強制転移と、相手の持つ魔道具等の破壊を行える。
デメリットとしては、1度きりしか使えず制作難易度がとんでもなく高い所だろう。
アドム達も転移系の宝物を持っていると分かっていたので、破壊する手段を講じていたのだ。
「しまっ──────────」
マルネスの狙いに気づき、動き始めるアドム達。
しかし、時すでに遅し。
マルネスは静かに笑うと、アドム達に告げた。
「女神に代わって制裁を下す。お前達は全員極刑だ」
こうして、女神への復讐者達vs世界を守る者達の戦いの火蓋が切って落とされるのであった。
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