始まりの刻
イスのお陰で目立つこと無く配置に着いた俺。花音とも別れ、イスとも別れた俺はマルネスとカーバンクルと一緒に人類の祖アドムが動き始めるのを待っていた。
ここは正連邦国の最東にある森の中で、ここには人の気配が一つもない。
本気で暴れたとしても、被害を受けるのはこの森に住む魔物だけなので周囲への被害は気にしなくとも大丈夫のはずだ。
「さて、いつ来るかね?出来れば今日明日には来て欲しいんだけど」
「そればかりは向こう次第さ。だが、少なくとも1週間以内には動いてくれるだろうよ。女神が何かしら手を打つ前には動きたいだろうからね」
「1週間か。短いようで長いな。特にひとりで待っている花音とかイスは暇で暇で仕方がないだろうな」
「何もせずにぼーっとするのは案外大変だからね。特に君の嫁さんとかはなにかやらかさないか心配だよ」
マルネスはそう言うと、近くの魔物にちょっかいをかけるカーバンクルに視線を送る。
相手はただのゴブリンだが、カーバンクルは見た目が弱そうなので見ていて心配になるな。
「グギギ!!」
「キュ?」
ちょっかいを掛けたカーバンクルは、案の定ゴブリンを怒らせてしまう。
その手に持った棍棒をカーバンクルに振り下ろすが、カーバンクルはこれをなにかの遊びかと勘違いしたのか楽しそうに避けた。
「キュ、キュ!!」
「止めなくていいのか?あれ」
「いいよいいよ。カーバンクルはゴブリンごときに殺される程弱くないからね。後、しばらく大人しくしていたから、ストレスが溜まってるだろうし。多少は発散させてあげないと」
「堪え性がないな」
「我儘な子供だよ。ほんと。機嫌を少しでも損ねると厄災が降ってくるからね。今の私にはかなり懐いているから問題ないけど、最初であった時は酷かったよ。空から星が降ってくるし、気づけば大雨が降って土砂崩れに巻き込まれるし、雪山に行けば雪崩に飲まれて死にかけた」
「........なんと言うか、マルネスも苦労してるんだな」
「苦労なんてもんじゃない。半年間はずっと追いかけっこさ。私の体が悲鳴をあげるのが先か、カーバンクルが私に懐くが先かの死のレースさ。最終的に懐いてくれたから良かったものの、後一ヶ月粘られてたら死んでたね」
俺は厄災級魔物たちとは最初から仲良くやっていたが、ゼロから仲間集めしていたマルネスは相当大変だったのだろう。
基本的に厄災級魔物とは人の言葉に耳を貸さないし、この大陸で厄災級魔物を五体も仲間にできたマルネスはとても凄いのかもしれない。
マジで変態でなければかなり優れた奴なのだが、その変態性で全てを台無しにしている。
それもマルネスらしいと言えばマルネスらしいが。
「キュ」
「グギ........アガッ!!」
ゴブリンと遊んでいたカーバンクルだが、途中で飽きたのか折れた気がゴブリンに直撃して踏み潰す。
木が折れる予兆なんて一切なかったのを見ると、カーバンクルが何かしらやったのだろう。
こうしてみると悪質極まりないな。
何も知らない人から見れば不幸な事故で終わりだし、例え犯人がわかっていたとしても敵意を持って近づけば今のゴブリンのような惨事に見舞われる。
あれ?中々にクソゲーだな?
カーバンクルを捕まえると言うのは、想像以上に難しい事なのかもしれない。
「........よくカーバンクルを懐かせたな。素直に尊敬するぞ」
「アハハ。でしょう?私の人生の中でも自慢できる数少ない功績だと思ってるよ。この可愛い厄災に懐かれたのはね」
「そりゃ国も滅ぶわけだ。おそらく、相手の規模に合わせて厄災をばらまいてるだろ?国が相手ならどこからともなく疫病がやってきて、国民全員を死に追いやるだろこれ」
「正しくそんな感じで滅んだ国もあるよ。5000年ぐらい前かなぁ。カーバンクルの宝石に魅了された国王がかなり無理をした為に、国中で疫病が流行ってその国は滅んだよ。しかもタチが悪いのは、国が滅べば疫病はピタリと病んだ事だ。凄いね。カーバンクル」
「触らぬ神に祟りなしを体現してるな。見た目が結構可愛いから頭とか撫でさせて貰えないかと思っていたが、やめておいた方が良さそうだ」
「それはやめた方がいい。私でも頭を撫でることはほぼ無いからね。余程機嫌のいい時じゃないと、カーバンクルは頭を撫でさせてくれないよ」
「じゃぁ、モフモフの毛皮は?」
「それなら大丈夫。カーバンクル、こっちおいで」
「キュー!!」
マルネスの呼びかけに元気よく応えたカーバンクルは、マルネスの腕の中に治まるとぷるぷると身体を震わせる。
見た目だけならか弱い魔物なんだけどなぁ。気配もそこまで強くないし。
だが、この魔物は周囲に厄災をばら撒く。
その規模がどれほどかは分からないが、少なくとも一国を滅ぼせるとなれば正しく“厄災級魔物”だ。
案外、厄災級魔物の名に最もふさわしい魔物なのかもしれない。
「カーバンクル、ジンにそのご自慢の毛並みを触らせであげてもいいかな?」
「キュー!!」
「いいってさ。頭は触らないように気をつけてね」
「分かった」
俺は優しくカーバンクルの背中を撫でると、かなり心地よい毛並み感触が手に伝わってくる。
おぉ、モフモフのはマーナガルムでよく味わっているが、それとはまた違う感触だ。
とても気持ちがいい。
「いいなコレ」
「だろう?私もカーバンクルの毛並みを触るのは好きなんだ。モフモフで気持ちいい。枕にすると最高だよ」
「枕にもできるのか........」
意外と恐れ知らずなマルネスに驚きつつも、俺はカーバンクルの毛並みを飽きるまで味わうのだった。
マーナガルムもいいけど、これはこれでいいな。
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「ゴルゥ?」
配置についていたマーナガルムは、自分の主人が他の魔物の毛並みにうつつを抜かしている事を本能的に感じる。
マーナガルムは仁にとても懐いており、マーナガルムは仁にこの毛並みを褒められるのがとても好きだった。
「ゴルゥ........」
どこのどいつか分からないが、自分の主人を誑かす奴がいる。
そう本能で感じたマーナガルムは、モヤモヤしながらも時が来るのを待つのであった。
これが終わったら主人にいっぱい撫でてもらおうと心に決めながら。
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