戦力配置

 

 イスに揺られる事数時間。厄災級魔物達の配置が徐々に終わってきていた。


 神聖皇国には光司達が既に対策を練っているので問題ない。大魔王アザトースとの決戦に耐えられるだけの場所を用意しているだろうし、人々を戦闘に巻き込むことは無いだろう。


 かくいう俺達も、出来る限り人々が被害に遭わないような場所を選んで配置に付く。


 人類を守る戦争なのに、戦争の余波で人類が滅びましたとか笑えないからな。


 特に歩くだけで大災害を引き起こすアスピドケロンは、元正教会国の中でも田舎の場所に配置された。


 人気も全くなく、本気で暴れることの出来る場所ではあるが、アスピドケロンの規模から考えると多少の被害は出そうだ。


 神正世界戦争が集結してから早六年。既に滅ぼされた正教会国や正共和国には人々が移住し始めている。


 下手をしたら、またこの土地から人々が消えてしまいそうではあるな。


 後世に呪われた土地として語り継がれそう。


 「随分と静かになったねぇ。ここに居るのは私と仁とマルネス達だけ。一応モーズグズ達もいるけど、あの子達は家畜の世話で忙しそうだし」

 「思ってたよりもちゃんと世話しててびっくりしたな。手伝おうとしたら“普通に邪魔です”って言われた時は悲しかった」

 「君に手伝いをされたら余計に面倒になるのを察したんだろうね。流石はイスちゃんの眷属。自分の親の事がよく分かっているよ」


 わちゃわちゃしていたイスの世界もすっかり静かになり、俺達は城の中でのんびりと紅茶を嗜む。


 気温が極寒の地の為か、紅茶を入れた傍から冷え始めるのですぐに飲まなければならないという点を除けば、実に落ち着いた雰囲気のある場所であった。


 この世界は寒くするのは簡単だけど、暑くするのは死ぬほど大変らしいからな。


 だいぶ昔にイスがこの世界の気温を0度まで上げられるようになっていたが、それ以降気温をあげられるようになった話は聞かないし。


 イスの世界の氷は基本的にイスの意思によってしか溶けないが(例外もある)この世界の気温を上げると氷が解けてしまったりするのだろうか?


 俺の持つ能力じゃないから、ここら辺は全く分からないな。


 「マルネス、アドムはいつ動くと思う?」

 「既に女神に目をつけられたことを考えると、そこまで時間はかけてられない。女神はこの世界に干渉ができないと言えど、打てる手はあるだろうからね。もし、私達が勝てないような相手がでてきた場合は、時間を稼いで女神に泣きつくしかない。非常に不本意だけどね」

 「女神に貸しを作るとか嫌すぎるな。嫌な予感しかしない」

 「最悪女神の手下として扱き使われる。まぁ、さすがにそれは無いとは思うけど、可能性はゼロとは言えないね。ドワーフ連合国が滅んだ事でアドムが動き出したことは女神も理解しているはず。そして、アドムもそれは理解しているだろうから、ここからは時間との戦いだよ」

 「マルネスの準備は?」

 「もう終わってる。作戦通り、君ちの前に適切な相手を当ててあげるよ。だが、ランダム要素もあるけどね」


 今回の計画ではマルネスの働きがとても重要になる。一応、その計画が失敗した時の保険は用意してあるが、マルネスの自信に満ち溢れた顔を見るに失敗することは無いだろう。


 魔術に関しては天才的だからな。大魔術師マーリンの高弟は伊達じゃない。


 「戦闘が終わり次第、私達も他の人と合流。誰がいちばん早く終わると思う?」

 「俺かな。今回は最初から全力で行くつもりだし、最悪初手でアレを使おうかとも思ってる」

 「えぇ........それ、世界が滅んじゃうよ」

 「大丈夫大丈夫。ほんの数秒だけならなんとでもなるって........多分」

 「おい、不穏な会話が聞こえるんだが?世界を守る側が世界を壊してどうする?この戦争は君の力が必要なんだから頼むぞ?」

 「分かってるわかってる。ちゃんと真面目にやるさ。特に、剣聖が出てきた時は一切容赦しないよ」


 エドストルの右腕を持って行った事は未だに忘れてない。


 剣聖と対峙する事があれば、本気で殺す。


 俺はそう思いながら、冷たくなった紅茶を飲み干すのだった。


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 人々が住む大陸の最西にある小さな島。


 無人島で人が一切居らず、また大陸近くにも人の街がないこの地に降り立ったファフニールは、仁達が見たこともないような程嫌な顔をしていた。


 その原因はたった1つ。昔から仲の悪かった同じもと管理者がこの場に居るからだ。


 「なんで貴様がここにいるんだ。我1人でも全て片付く」

 「私だってお前のようなジジィと一緒にいるのはゴメンだね。だが、女神様をお守りすると言う仕事があるからこうしてここに居るんだ。感謝しろ」


 “原初の海竜”リヴァイアサン。


 10m以上もあるその頭をゆっくりと持ち上げながら、彼女もファフニールと同じく嫌そうな顔をする。


 何万年と言う長い月日を同じ管理者として過ごしてきた2人だが、とにかくこの2人は性格の相性が悪かった。


 顔を合わせれば喧嘩ばかり。今となっては丸くなって落ち着きを持ったファフニールだが、昔の記憶が無くなる訳では無い。


 相変わらずリヴァイアサンには苦手意識があるのだ。


 「しかし、長生きするものだな。またこうして貴様と顔を合わせる日が来るとは思わなった」

 「それに関しては同意だね。管理者が変わり、暇を持て余すようになってからは出会うことがもう無いと思っていたよ」

 「あの頃はつまらんことが多かった。仕事ばかりで遊べぬし、何より口うるさいやつの相手が面倒だった」

 「全くだね。不真面目なお子ちゃまの面倒を見るのは疲れたよ」

 「フハハ」

 「アハハ」


 静かに笑う厄災達。


 その空気は最悪も最悪。この場に仁がいたとしても、その空気の悪さから一歩後退るレベルである。


 「貴様も人間の下に着くとは、堕ちたな」

 「ジジィに言われたかない。私の場合は利害の一致、お前は趣味だろ」

 「フハハ。団長殿は楽しいぞ。我の暇を常に潰してくれる」

 「本当に可哀想ったらありゃしないね。ジン........だっけ?あの人間には同情するよ。子供の頃から成長してない老人の面倒を見させられてるんだから」

 「殺すぞクソアマ」

 「やってみろクソジジィ」


 なぜこの2人を組ませたのか、それは女神ですら分からない。

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