時は来た

 

 子供達からの報告で“ドワーフ連合国が滅んだ”と知った時、遂に来たかと思った。


 マルネスから人類の祖アドムの存在を聞き、アドムと夢の中でであったあの時から数ヶ月。


 準備を完璧に終え、後はアドム達が本格的に動き出す時を待つだけとなっていた俺は団員達を集める。


 アドムはどうやらもう隠れる気がないらしく、子供達が捕捉を続けていた。


 ドワーフ連合国の首都近郊にアドムを発見した時点で、子供達を街から退避させて正解だったな。


 下手をしなくとも子供達に犠牲が出るところだった。


 「遂に奴らが動き始めた。俺達も配置に着くとしよう」

 「フハハハハ。我らの力を見せる時が来たと言うわけだな。人類の祖アドム。奴らの勢力と我らの勢力。この世界の安寧を決める戦いだ」

 「一先ず声をかけれる人には声をかけたし、後はそいつらが上手くなってくれるのを祈るしかない。マルネスもそろそろこっちに来るらしいから、それまでは待機だ」


 アドムが本格的に動き出してから俺達は動き出す。


 戦いと言うのは基本的に防衛が有利とされているが、ここまで規模が大きく相手が転移を使えるとなると話が違う。


 国同士の戦争のように、相手が攻めてくるであろう場所がある程度絞れる訳では無く、何時でも何処でも攻めれるとなると俺達は後手に回らざるを得ないのだ。


 それと、いつ攻めてくるかも分からない状況でずっと気を張っている訳にも行かない。


 マルネスもそれは分かっているようで、アドムが本格的に動き始めてから俺達も動くと言うてはずになったのだ。


 「それにしても半日も経たずにドワーフ連合国が滅んだのか。確認できた戦力は既に知っている者達ばかり。かつて大魔王が使っていた分身らしきものまで確認できたとなれば、大魔王アザトースの復活は間違いないだろうな」

 「正直何かの間違いだった方が良かったけどねぇ。私達が戦う相手が減ってくれるし」

 「それはそうだが、そうなるとマルネスを信用出来なくなる。どっちに転んでも俺たちからしたら面倒な事この上ないよ」


 討伐していたと思っていた大魔王アザトースは生きているし、女神は未だに動いてない。


 既に大魔王アザトースの存在を確認できているはずだがら、神託があっても良さそうなのにな。


 まだ他の業務におわれてこの世界の状況を確認できていないのか、それともすでに気づいている者たちがいるのだから神託の必要が無いのか。


 真偽は分からないが、未だに女神が動いていないというのは分かる。


 光司達には手紙を送ってあるが、信用されるかどうか怪しいなぁ........


 「団長さん。私達は悪魔と戦えばいいんだよね?」

 「あぁ。向こうの数は多いが、質で言えばこちらが上だ。容赦なく全員殺してやれ」

 「それは分かってる。故郷を滅ぼされた借りはここで返す」


 人一倍やる気に満ち溢れているシルフォードは、隣でふよふよと飛ぶサラの頭を撫でる。


 俺は、サラを見ることは出来ないのでシルフォードの動きから察するしかないが。


 「そう言えば、シルフォード達は悪魔に故郷を滅ぼされてたねぇ。懐かしいよ。ぷるぷると震えながらこの森にやってきたあの頃が」

 「カノンに容赦なく叩きの召されたことは忘れてないから」

 「アハハ。そんな事もあったねぇ........ごめんね?あの時は 」

 「忘れてないだけで許してないわけじゃない。今となっては、私達を受け入れてくれて感謝すらしている」

 「ほんと、あの時は酷かったですよ........シルフォードお姉様はボコボコにされて隠れ家に帰ってくるし、ボコした相手は悪い噂しか聞かない人間ですもの。しかも、ついて行ったら厄災級魔物のオンパレードですよ?何が何だかわけが分かりませんでした」

 「あー懐かしいね。団長さんと出会った頃かー。あの時はお仕事覚えたり、最低限の自衛ができるようにってスンダルさんとストリゴイさんにボコボコにされたなぁ」

 「フハハハハ!!今となっては我らと最低限は戦えるまでに成長したがな!!誇って良いぞ!!歴代ダークエルフの中でも、お前達は最も強い存在となったのだからな!!」

 「懐かしいわ。もう10年近くも前の話なのね」


 ダークエルフ三姉妹は、大魔王アザトースが暴れていた時代に手を貸していた過去があった為悪魔に目をつけられ、協力を断ったが故に故郷を滅ぼされている。


 その故郷を滅ぼした悪魔はイスによって瞬殺されたのだが、やはり自らの手で処さなければスッキリしないだろう。


 懐かしいな。初めて出会った頃は俺達の事をすごく警戒していたし、花音の事は鬼のように恐れていた。


 今となっては花音と頬を突きあって笑えるだけの仲になっているのだから、時間と言うのは素晴らしい。


 「へぇ、そんな事があったんだ。過去のことはなるべく聞かないのがマナーかと思って聞いてこなかったけど、面白い出会い方だね」

 「私も初めて聞いたねー。と言うか、カノンの話は予想通りすぎての笑えるよ」

 「ラファ?それどういう意味?」

 「そのままの意味。カノンは話し合いよりも暴力が先に来る人だからね」

 「酷いなぁ。私程大人しくて可愛らしい女の子も居ないって言うのに」

 「女の子って歳じゃないでしょもう。見た目は殆ど変わってないけど」


 ワイワイと盛り上がり始める女子トークを聞きつつ、俺は獣人組にも声をかける。


 ダークエルフ三姉妹と獣人組は共同で悪魔と対峙する。


 シルフォード達に声をかけて、彼らに声をかけないなんて言うのは団長として失格だからな。


 俺は普段通り話している獣人組達に視線を向けると、彼らは話をやめてピシッと背筋を伸ばした。


 「そんなにしっかりしなくていいよ。ウチはそういう所緩いんだから」

 「団長さんのお言葉ですよ?しかも、世界を守る戦いに行く前の。戦争に行く時とはわけが違います」

 「いや、やることは変わらないから。お前達も頑張ってくれよ。だが、頑張りすぎて死ぬのだけはダメだ。お前達は俺の奴隷。主人の命令無く死んでいいのは老衰だけだ。それ以外で死ぬのは許さん」

 「ご安心を。誰一人として死ぬ気はありませんから。それに、最悪この義手を犠牲に生き残りますよ」


 エドストルはそう言うと、義手の手首をくるくると回す。


 本当に無駄な機能ばかり付いてんな。前見た時はそんな機能付いてなかっただろ。


 またドッペルの奴が遊び半分で改良したなと呆れつつ、俺はマルネスが来るのを待つのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る