宣戦布告の雨

 

 その日、人類の祖アドム率いる“女神絶対殺すマン”達はドワーフ連合国の首都近郊に姿を現していた。


 この地にいるのは魔王の分身たるニャルラトホテプや、人類の祖の妻ニヴ、剣の極地に到達した剣聖など、アドムが持つ戦力の中でも普段から関わりのある者達ばかりである。


 その中でもドワーフに恨みを持つ聖弓は、従者を連れてアドムの号令を今か今かと待ち望んでいた。


 「遂にこの日が来たのですね」

 「聖弓様が待ち望んだドワーフ連合国を滅ぼす日ですよ........とても嬉しそうな顔をしていますね」

 「当たり前じゃないですか。この糞どもが死に絶えこの世界から絶滅してくれる事こそがわたしの夢なんです。その1歩を踏み出せるとなると、ワクワクが止まらないですよ。しかも、失ったはずの目が戻ってきてくれたお陰で、ドワーフ共がもがき苦しむ姿を見られるのですから」


 今回は前回のドワーフ連合国との戦争とは違い、“破壊神”ダンが居ない。


 聖弓と肩を並べるほどの強さを持ったミスリル級冒険者がおらず、さらに言えば味方まで自分よりも強いもの達ばかりだ。


 今回アドムは仲間である厄災級魔物を連れてきていないが、それでもドワーフ連合国を滅ぼすのには十分な戦力である。


 「でも、いいんでしょうか?ドワーフ連合国だけでなく、全人類を滅ぼすと魔女は言っていましたよ?」

 「女神様に戦いを挑むと言っていましたね。まぁ今はそれに関してはどうでもいいですよ。私は興味ありませんし。今この瞬間を噛み締めてから考えても遅くはありません」

 「........そうですか」


 従者は聖弓の言葉に僅かな違和感を感じながらも、一先ずは首を縦に振って頷く。


 その違和感の正体をこの場で探ろうとする程、従者とて空気が読めない訳では無かった。


 「やぁやぁ。久しぶりだね聖弓さん。気分はどうだい?」

 「あなたの合図を今か今かと待ち望んでいますよ。最初の一撃は私に譲ってもらえるのですよね?」

 「勿論だとも。僕達は復讐者。君の気持ちが分からないほど馬鹿ではない。誰一人として逃がすこと無く、この国を滅ぼさなければならないから、多少は手伝いをするけれど、多くのドワーフは君に譲ろうと思っているよ」

 「感謝しますアドム」

 「良いってことよ。仲間の復讐が果たされるのであれば、幾らでも手を貸してあげよう。それが礼儀ってものさ」


 アドムはそう言うと、ケラケラと笑いながら請求の隣に立つ。


 そして、ワクワクを抑えられない目で聖弓に言った。


 「もう既に皆配置に着いている。君のタイミングでこの殲滅を始めるといい。派手なのを頼むよ」

 「そうですか。では、今すぐに始めましょう。聖なる裁きを下す時です」


 聖弓はそう言うと、神聖なる弓を顕現させて矢をつがえる。


 息を大きく吸い込み、静かに精神を統一させると詠唱を始めた。


 「私は聖なる制裁者。降り注ぐ雨は神の意思。その裁きを受ける者達よ。神の裁きを受け入れて、抵抗することなく輪廻の中に帰るがいい」


 継がえた矢は聖なる魔力を受けて輝きを増し、気づけば太陽のように光り輝く。


 ここまで明るくなると流石のアドム達も目を細め、思わず“眩しい”と呟いてしまうほどだった。


 そして、聖なる制裁は空へと放たれる。


 「聖なる制裁の雨ホーリージャッジメントレイン


 ドワーフ連合国の首都に向かって放たれた矢は、空高く打ち上がり2つ目の太陽として空を明るく照らす。


 首都に住むドワーフ達は何事かと空を見上げ、その様子を呑気に眺めていた。


 誰一人としてこれが人類の祖アドムの宣戦布告だと気づくことなく、ただただ呑気に空を眺める。


 「爆ぜろ」


 そして2つ目の太陽がはじけ飛んだその時、ようやくドワーフ達は気づいたのだ。


 我々の国が攻撃されていると。


 しかし、彼らに逃げる術はない。


 既に矢の制裁は地に向かって降り注ぎ、首都にいる者達全てを貫いているのだから。


 わずか一撃。


 何千年と歴史を紡いできたドワーフ連合国の首都は、たった一撃の制裁によってこの世界から姿を消したのだ。


 運良く生き残った者も僅かにいるが、彼らも死ぬだろう。


 なぜなら、聖弓の鍛え上げられた感覚と勘がその場所を教えているのだから。


 「すごいね。僕達の出番がないじゃん........」

 「この調子で他の都市も浄化します。全ては無理なので、よろしくお願いしますよ。アドム」

 「任せなさい。仲間のために一肌脱いであげよう。ほら、みんな。仕事の時間だぞ」


 アドムはそう言うと、後ろで待機していた悪魔達や剣聖達が動き始める。


 彼らの手の中には、失われた古代技術ロストテクノロジーたる転移の魔道具が握られていた。


 「ふむ。久々に感覚を試すとするか」

 「俺も着いていくわ。やり過ぎないように見張ってるからよろ」

 「貴様も持ち場があるだろ。そっちに行け」

 「いや、悪魔くんが行ってくれるらしいからさ。俺は大魔王様のお目付け役って事で」


 やる気満々のニャルラトホテプと、やり過ぎないかを心配する人形。


 相変わらず仲のいい事だとアドムは思いつつ、自分はその様子でも見て楽しもうと決めるのだった。


 「私達は生き残りを排除します。では」

 「気をつけてねー」


 その日、世界は知った。謎の勢力によってドワーフ連合国が僅か半日足らずで滅んだことを。


 戦争を仕掛けていた隣国はこの事実に怯え、何も知らないものは隣国がやったのかと疑う。


 「本格的に動き出したか。対策は立ててある。後は全てを尽くして奴らを殺すだけだ」

 「いよいよだね。あのクソッタレの首を柱に吊るしてやるさ」


 そして、全てを察した者達はこれが宣戦布告だと受け取り動き始める。


 世界は、再び混沌とし始めるのであった。

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