勘が鋭いお嬢様
モヒカンに警告をした後、アッガス達傭兵連中にも警告して回る。
アッガス達も何がなんだか訳が分からないと言った顔をしていたが、“時が来ればわかる”とだけ言って対策だけ伝えておいた。
ドッペルには地下室を広めに作れと言ってあるし、傭兵連中も避難できるだろう。全てが終わった後、街が滅びていれば彼らが再建を始めてくれるはずだ。
そして2日後、今度はアゼル共和国の首都にやってきた俺達は、可愛い教え子達に避難をするように伝えに来ていた。
首都にも多くの知り合いがおり、中には俺の教え子たちもいる。
もちろん死んで欲しくは無いので、バルサルでの作業が終わり次第ドッペルに地下室を作ってもらう予定だ。
「あら先生。随分と久しぶりですね」
「久しぶりリーゼン。元気にしてたか?」
「えぇ、最近は商会の経営も軌道に乗って少しだけのんびり出来るようになったんですよ。お陰で十分な睡眠時間が取れて助かってます」
ノンアポでリーゼンの屋敷を訪れた俺達は、顔パスで屋敷の中に上がらせてもらう。
よくよく考えると、この国二番手の商会を経営する会長相手にノンアポ顔パスで会えるってすげぇな。
しかも親は元老院議員。
その気になれば、罪なき人に罪を擦り付けられそうだ。
流石にやらないけれども。
そんなアホな事を思いつつも、俺はリーゼンお嬢様に本題を切り出す。
忙しいご身分のお方の時間を取らせてはならないからな。
「早速だが本題だ。もうすぐ大きな戦いが起こる。まず間違いなくこの街も巻き込まれるだろうから、地下室を作ってくれ。全住民は無理でも、多少は救えるはずだ 」
「........急すぎて意味がわからないですよ先生。もっと噛み砕いてください」
「女神イージスを殺す為に、イージス教信者を殺す奴がいる。誰がどの宗教を信仰しているかなんて調べていたら日が暮れるから、人類みんな滅ぼしちゃえ!!って事」
「なるほど。何となくわかりました。この国の国教はイージス教ですし、この国もターゲットになるわけですね」
流石はリーゼンお嬢様。話が早い。
イスの数少ない友人であるリーゼンお嬢様やメレッタは、できる限り生き延びて欲しい。
この国の人々全員が生きて欲しいと言えばその通りだが、それは無理な話なのだ。
命を天秤にかけるのであれば、俺は迷うことなく天秤にかけて重い方を取る。
ましてや、軽い方が顔を知らない奴なら尚更。
「その様子だとまだ戦いが起こるのは先みたいですね。多少の猶予はあるということですか」
「そうだな。向こう次第なところではあるが、予想ではあと一月は持つ。地下室があれば一先ずはなんとかなるだろうから、職人を手配するよ」
「いいんですか?」
「いいよいいよ。可愛い教え子のためだ。先生が頑張ってやろう」
頑張るのはドッペルだけど。
地下室を作るのは相当な技術がいる(らしい)。
俺も手伝えたら手伝ってやりたいのだが、ドッペルに“普通に邪魔”と言われてしまえば手伝えない。
でももう少し柔らかく言ってくれてもいいんじゃない?言われた時は結構悲しかったよ........
ドッペルとのやり取りを思い出し、少し肩を落とす俺を見てリーゼンお嬢様は楽しそうに笑う。
昔のような少女の可愛さと言うよりは、大人びた美しさのある笑いだった。
そう言えば、話し方も随分と変わったな。
「先生、いつもどこかで誰かと戦っていますね。少し前も人知れず戦っていたでしょう?」
「何の話だ?」
「とぼけなくても大丈夫ですよ。私の勘が言っているので。相手が誰かは知りませんが、恐らくシュナさん関係の事で誰かと争いを起こしていたんでしょ」
「........勘が鋭すぎるな」
「ふふふ。イスの話し方や話の内容、そして私の勘。その全てが事実を教えてくれたんです。あぁ、イスが何か言った訳では無いですよ。ただ、無意識に行うイスの癖や表情からなんとなく読みとっただけなので」
「え、私そんなに顔に出てたの?」
「何も知らない人からしたら分からないと思うわよ。でも、私とイスの間だからね。違いは簡単に気づいちゃうのよ」
少しドヤ顔で胸を張るリーゼンお嬢様。
どうやらイスの表情や仕草で俺たちのことまで読み取ったらしい。
相変わらずの洞察力だ。
末恐ろしいよ。
「ともかく、先生の助言に従って地下室と食料の確保をしておきます。私の勘では、あと1ヶ月と3日後に始まると思いますよ」
「........その言葉、信じよう。リーゼンの勘は外れた試しがないからな」
「エッヘン。それはそうと、今日は私の屋敷に泊まりませんか?夕飯はエリーちゃんのお店で」
「いいねぇ。久々にエリーちゃんにも会いたいし、何よりエリーちゃんには死んで欲しくないよ」
「そうだな。アイツらにも伝えてやるか。やばい時はリーゼンに頼れって」
こうして、この日はリーゼンお嬢様の家で一夜を過ごした。
リーゼンとメレッタが異様にイスとの距離が近く、仲良しだったのを見て和んだりもしたのだがそれは別のお話である。
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仁の元を離れ、世界を見る旅を続けるエレノラ。
彼女はとある依頼を受けて、遺跡の調査に来ていた。
「これは........なんなんですかね?」
エレノラの視線の先には真っ赤に染まった得体の知れない何かと、その横で静かに佇む赤く丸いものがある。
困ったエレノラは、一先ず軽めの爆薬を放り投げると得体の知れない何かを爆破した。
エレノラは、仁の元を離れて長旅をしてきた今でも、“困ったら爆破”が治っていないらしい。
ドン!!
と爆破音と共に赤い何かが爆破される。
しかし、そこには傷一つ付かず何か起こるわけでもなかった。
「うーん。とりあえず帰りますか。これよく分かんないし」
エレノラはそう言うと、遺跡から出て冒険者ギルドに報告しに行く。
人怪我なくなった移籍の中で、その様子を見ていた者はポツリと呟いた。
「あの人間やばすぎだろ。壊れたらそれはそれでいいやみたいな感覚で攻撃してきたぞ。アレが呼び起こしてはならない古代兵器とかだったらどうするつもりだったんだ........」
最近の人間はイカれた奴が多い。
その者はそう思いながら、世界で起こっていることを見続けるのであった。
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