警告周り

 

 厄災級魔物達が新たな世界を創り出し、俺を神と崇めようとか言う頭の悪い計画を考え始めたりもありつつ、まだ本格的に動き出さないアドムを待つ俺達はバルサルにやってきていた。


 バルサルには世話になった人も多く、死んで欲しくない人ばかり。


 モヒカンやアッガス、孤児院の子供達等に戦いが始まったら避難するように伝えなければならないのだ。


 まぁ、この世界の住人は危機感が強いから戦争が始まれば即逃げるだろうが、準備してあるのとしてないのとでは違うだろうしな。


 もしここが日本なら、戦争が起きた直後はスマホを片手に動画を撮影する人で溢れかえるかもしれないが。


 「今思えば、ヌーレの見た未来はこの後起こる戦争のことを言っていたかもな。随分と先を見てやがる」

 「過去と未来を見据える目。便利だけど見たくもない未来を見ることになるのは大変だねぇ。でも、今回はそのお陰で早くから準備が出来ているよ。ドッペルに地下壕の制作を任せられるし」

 「戦争がいつ終わるかも、きっと見られるだろうな。異能の詳しいことまでは分からないから、どこまで先の未来を見られるのかは分からないけど」


 モヒカンが言っていたヌーレの見た未来。それはおそらく、俺達とアドムが戦った跡の未来だ。


 どちらが勝つのか、犠牲がどれだけ出るのかは分からないが、少なくともバルサルの街が戦火に巻き込まれることは間違いない。


 できる限り人々には被害が出ないように戦うつもりではあるが、やはり限界はあるのだ。


 暫く話しながら歩いていると、バルサルの街に聳え立つ教会が目に入る。


 いつもの様に孤児達の笑い声や騒ぐ声が聞こえ、皆が楽しそうに遊んでいた。


 「あ、ジンさん、カノンさん。それにイスちゃんも。おはようございます」

 「おはようシスターシリカ。今日もここは煩いな」

 「おはようなの!!」

 「おはよー」


 そんな元気はつらつな孤児達の面倒を見る見習いシスターのシリカは、俺たちに気づくと頭を下げる。


 こんなに元気な子供達の相手ができるのは、長年お姉さんとして子供達を纏めていたシリカぐらいだろう。


 モヒカンは子供達に舐められてるし、マリア司教は他の仕事が忙しくてあまり面倒を見れないからな。


 「オセルはどうしてる?」

 「オセルさんなら地下室を作る為に教会の地下に居ますよ。昨日、特別に中を見せてもらったのですが、凄いですね。たった一人、しかも数日であれほどの空間を作り上げるとは、驚きです」


 オセル(ドッペルゲンガー)は、様々な顔を持っており、その顔を変えることによっていろいろなことが出来る。


 魔道具を作っている時は、魔道具職人の顔になるし、拠点を作っていた時は伝説の大工となっていた。


 ドッペルはあまり戦闘向きなやつでは無いが、こういう物作りの点では団員の中で1番優れている。


 縁の下の力持ち的存在なのだ。


 「あいつはそういうことが得意だからな。もう数日もすれば子供達が安全に遊べる地下室が出来上がるだろうよ」

 「楽しみです。それで、今日はどう言ったご要件でしょうか?」

 「モヒカンに会いに来た。居るか?」

 「居ますよ。教会の中で掃除をしているかと思います」

 「分かった。ありがとう。あ、これお布施ね。保存が効く職力を大量に買っておくといい」


 俺は金貨が大量に詰まった麻袋をシリカに押し付けると、シリカが何か言う前にさっさと協会の中に入る。


 お布施をすると、毎度毎度“多すぎ”と怒られるからな。


 ヌーレの面倒を見てもらっている礼と養育費込みだと言うのに、毎回大人しく受け取ってくれない。


 それだけクリーンな教会であるという事なのだろう。


 「私はヌーレと遊んでくるの!!」

 「分かった。仲良くな」

 「もちろんなの!!」


 イスはそう言うと、サッサと孤児達の中に紛れていく。


 赤子の時は少し嫌われていた様子だったイスとヌーレの関係だが、今となってはイスの友人と呼べるぐらいには仲がいい。


 身長的にイスが妹のように見えるが、それは言わないお約束である。


 ヌーレと遊ぶ為にスタスタと走っていくイスを見送り、俺と花音は教会に入る。


 シリカが言っていた通り、モヒカンは教会の掃除をしていた。


 「やぁやぁ、モヒカン。調子はどうだい?」

 「........ジンか。最高だったよ。お前達のその面を見るまではな」

 「酷いじゃないか。世界最強様のご尊顔を見て機嫌を落とすなんて」

 「馬鹿言え。お前たちを見てテンションが上がるのは、お前たちのことを何も知らない奴らだけだ。お前の事を知ってる身としては、厄介ごとの匂いしかなくて困るね」


 いつも通りなモヒカンは、その手に持っていた雑巾を折りたたむと固まった体をボキボキと解しながら欠伸をする。


 傭兵として戦場を駆け回ったモヒカンと言えど、教会の掃除は体に応えるようだ。


 「で、何の用だ?」

 「ヌーレの見た未来について」

 「........ほう?確か世界が崩れるとか何とか言ってたな」

 「恐らくだが、事実だ。オセルに急いで地下室を作らせたのもそれが理由。このバルサルの街は、間違いなく滅ぶぞ」


 急に告げられた未来を聞いたモヒカンは、驚きつつも冷静な目で俺の話を聞き続ける。


 普段なら“そんなわけないだろ”とか言うはずなのだが、俺たちの目が冗談を言っていないと悟ったのだろう。


 「何が起こるんだ?」

 「世界を巻き込んだ人類存亡の為の戦い。安心しろ。モヒカンは愛するマリア司教と孤児院の子供達と地下室で全てが終わるまで震えていればいい」

 「世界を巻き込んだ人類存亡の為の戦い?人類の滅亡を望むやつがいるのか?」

 「鋭いな。女神イージスを殺すために、この世界の信徒達全てを殺そうとする連中だ。一人一人“貴方はイージス教信徒ですか?”とは聞けないから、全部皆殺しにしてくるぞ」

 「........そんなヤツとお前は戦うのか。世界最強様も大変だな」

 「全くだ。もっと平和に暮らしたいね」

 「ヌーレからもう少し詳しい話を聞くとするか。あの子の見た未来を把握しなきゃ、どうしようもない」

 「どれだけ時間戦うか分からない。水や食料の確保は多めにな」

 「ケッ、それを言うためだけに来たのか。律儀だなおい」


 モヒカンはそう言うと、教会の長椅子に座って天を向く。


 そしてポツリと呟いた。


 「世界最強に神の御加護があらんことを」


 俺達は何も言わず、軽く手だけあげると教会を出ていく。


 さて、あとはアッガス達にも警告して回らないとな。

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