厄災戦争

悪ノリ厄災

 

 龍二達に大魔王アザトースの対策を立ててもらう事を約束させた後、俺達はしばらくの間暇だった。


 アドムとの戦いは起きるであろうが、奴らはまだ女神の目を逃れてちまちまと村を襲う程度。


 マルネスが補足し続けてくれてはいるものの、下手に動くとこちらが殺られかねないらしいのでやることがなかった。


 あるとすれば、マルネスと計画の相談や普段通り暇な日を過ごしつつ自分達を鍛錬する事ぐらいである。


 「今回は私も参加できるんだね。でも大丈夫?歩くだけで街が滅んじゃうけど」

 「そこら辺はイスとマルネスに任せるさ。幸い、イスの異能で移動自体は簡単だしな。それに、世界を救うための戦いだ。多少の損害は目を瞑るしかない」

 「マジ?久々にバッチコーンしてもいいんだね?」

 「マジマジ。好きなようにやるといいよ。責任はウロボロスが取ってくれるから」

 「をい」


 今回の戦いは今まで我らが拠点を守ってきてくれたアスピドケロンも参加する。


 1歩歩けば街は壊れ、1度暴れれば大陸が割れるなんて言われるアスピドケロンだが、こうして話しているとやはりギャルである。


 オタクにもお爺さん(ウロボロス)にも優しいギャル。この世界に存在していたのか........人間じゃないけど。


 おれはアスピドケロンの暴れっぷりを見たことが無いのでなんとも言えないが、ファフニール曰く“そこら辺の厄災級魔物程度は容易にすり潰せる”らしい。


 強さ的にはファフニールの方が強いらしいが、この人外魔境の傭兵団の中でもトップクラスの実力者なのだとか。


 まぁ、体当たりするだけで大抵の魔物や人は消し飛ぶわな。俺も真正面からアスピドケロンのタックルを受け止められるとは思えないし。


 「この阿呆が暴れ回っても責任なぞ取れんぞ団長殿。アスピドケロンは加減を知らんからな。1度暴れると大陸の形が変わる」

 「昔暴れていた時はどんな感じだったんだ?俺は、文献で少し読んだ程度しか知らないんだ」

 「それはもう恐ろしかったぞ。あの頃は儂も一緒になって暴れていたが、儂よりも確実に多くの国を滅ぼしているからな。口から熱線を吐けば周囲の街や山は消し飛び、歩けば大地震を起こして家屋を破壊する。正しく破壊の権化だったわい」

 「その言い方は酷くない?私は普通に暴れてただけなのにぃー」


 普通に暴れるってなんだよ。


 暴れている時点で普通じゃないよ。


 俺は心の中でそうツッコミを入れつつ、ウロボロスの顔がマジなのを見てアスピドケロンの破壊力が凄まじい事を察する。


 あれ?もしかしてアスピドケロンを暴れさせた方がやばいんじゃね?


 戦いの余波だけで人類を滅亡させることが出来そうなウロボロスの言い方に若干の不安を抱きつつも、今更やる気満々なアスピドケロンに“きみはお留守番ね”とか言えないので黙っておく。


 アスピドケロンには、人が少なく被害が出てもそこまで影響がなさそうな場所で頑張って貰うとするか。


 「それにしても今回の戦いは大変そうだよね。人類の祖アドム........だっけ?と愉快な仲間たち。マルネスちゃんの見立てでは厄災級魔物に加えて、更に戦力があるんでしょ?」

 「大魔王アザトース、その眷属たる悪魔達。そして俺たちの同郷と何人かのミスリル冒険者。更に厄災級魔物と表舞台には出てきていない勢力。考えられるだけでもごまんとある。俺達は自分ができることをするしかないよ」

 「まぁ、負けることは無いだろうがな。団長殿がその気になればたった一人で全てを終わらせられる」

 「いや、その時はこの星そのものが無くなってるからね?」


 確かに俺の切り札を使えば、今からでも全てが終わる。


 しかし、それは文字通りこの欲し全てが終わってしまうのだ。


 人類を守る為の戦いなのに、星そのものを消したら意味が無いでしょうが。


 女神イージスに怒られるどころの話ではないよ。助走をつけて顔面に思いっきり拳が飛んでくるよ。


 俺がツッコミを入れると、ウロボロスは楽しそうに笑う。


 「フハハ!!安心しろ。その時はリンドブルムに頼んで新たな星でも作るとするか。魔力供給は儂ができるし、新たな神として団長殿が世界に君臨できるぞ!!」

 「いやいいわ。絶対楽しくないし、何よりリンドブルムの作る星は岩しかないから住めないじゃん。水も食料も何もかもがないよ」

 「それはアレだ。ファフニールとニーズヘッグに頑張ってもらえば多分行ける。お?そう考えると悪くない話だな。団長殿が新たな神として世界を創成できなくもないぞ」

 「勘弁してくれよ。お前たちの面倒を見るだけでもヒーヒー言ってんのに、更に世界の管理とか俺には無理だ」

 「おー、団長さんが神様かー。ちょっと楽しそうだねそれ」

 「アスピドケロンちゃん?話聞いてる?」

 「人も厳選してイスの異能に放り込めば繁殖はできるし、これは楽しそうだな」

 「いいねぇ!!私はその世界でいちばん大きなお山さんになるよ!!」


 ワイワイと盛り上がり始めるアスピドケロンとウロボロス。


 おーい、人の話を聞けー?


 なんで俺がこの世界を滅ぼして、新たな星の創成主になる前提の話をしてるんだよ。


 でも、言われてみればウロボロスとリンドブルムが力を合わせれば星自体は作れちゃうんだよな。


 もしかしたら、この世界を作った神はリンドブルムとウロボロスの力を持っていたのかもしれない。


 「惑星の名は“ジン”だな!!ちょっと楽しくなってきたぞ。皆を呼んでいろいろと話し合う価値が有りそうだ!!」

 「魔術?とか言うのを使えば水も確保できるし、植物とかも作れそう。あれ?団長さんが新たな神になれる日も近いじゃん」

 「あら?面白そうな話をしてるわね 」


 ウロボロスとアスピドケロンが盛り上がっていると、アンスールがやってくる。


 良かった。アンスールならこの話を止めてくれそうだ。


 「なんの話しをしているの?」

 「儂とリンドブルムで世界を作り、団長殿を神とする話だ」

 「何それすごく面白そうじゃない。ちょっと詳しく話して頂戴」


 急にワクワクした表情で話を聞き始めるアンスール。


 ダメだ。アンスールもこの話に興味を持ってしまった。


 そして、いつの間にか厄災級魔物達が集まりに集まりだして新たな星を作る妄想が始まってしまう。


 結局、この日から割とマジめに新たな星を作ろうとか言うの頭の悪い計画を本気で厄災級魔物達は練り始めるのであった。

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