女神への宣戦布告
シャワーを浴びて龍二が光司を連れて帰ってくる。
いつもの部屋で待っていた俺たちは、龍二が来るまでの暇つぶしとしてオセロをしていた。
久々に花音とオセロをやったが、相変わらず花音は強い。
俺のことを熟知しているだけあって、やりたいことを先回りして潰しに来ていた。
「人様が大魔王アザトースについて考えているってのに、お前らは呑気にボードゲームか?いいご身分だな」
「いつ来るか分からないんだから、暇つぶししてても問題ないだろ?ちょっと待っててくれ。後五分ぐらいで終わるから」
「相変わらずだね。僕はコーランの世話を投げ出してきたというのに」
「パパは大変だな。聖女様に怒られない事を祈ってるよ」
「ハハハ。割と怒られてるよ。なんせ赤ん坊の面倒を見るのは初めてだからね。色々な人に話を聞きながら育てているけど、毎度泣かれて大変だよ」
口ではそう言いつつも、顔は幸せそうな光司。
正直、この幸せの絶頂の中で大魔王アザトースとの戦いを任せたくは無いのだが、現実はそう甘くはない。
相手の戦力が少なければ加勢しても問題ないが、相手の数次第では光司に全てを任せることになるのだ。
コーラン君の父親を危険な目に合わせたくは無いが、そうも言ってられない。
アドムのヤツめ。クソ面倒な事を押し付けてきた上に、光司の幸せな時間を取り上げようとするとは不愉快だ。
「んー、私のギリ負けかな........降参するよ」
「よしよし、ギリギリ勝った。久々にオセロの花音とやったけど、やっぱり強いな」
「えへへ、そりゃ仁のことは知り尽くしているからね。とは言っても、中々勝てないけど」
「仁相手にこういうボードゲームで勝つのは至難の業だからな........俺は勝った試しがないし」
「そんなに強いのかい?」
「強いなんてもんじゃない。こいつの婆さんは遊びの天才でな。純粋な実力もさることながら、イカサマまでなんでもござれだ。そんな婆さんの遊び相手をしていた仁は、マジで勝てん。後でやって見るといいさ。俺は仁に銀貨3枚な」
「賭けにならないよそれ」
花音はそう言いながら、オセロ版を片付ける。
そして、俺の横に移動するとゆっくりと体を解した。
「さて、本題に入ろうか。俺達がこの世界に呼ばれた原因でもあり、この世界の敵である大魔王アザトースについて」
「分かりやすく頼むぞ。俺達はお前と違って何も知らないんだからな」
龍二と光司も席に座ると、俺は大魔王アザトースの事やその裏で画策する人類の祖アドムの話を事細かに説明する。
彼らの目的や計画、そして今まで裏で俺達を操ってきていたこと、更には俺たちの同郷が恐らく手を貸していることなど、わかっている範囲のことは全て話した。
「........つまり、女神を殺すためにこの世界の人々を殺すと?」
「そういう事だ。俺達も長い事この世界にいるから、守りたい人は多いだろう?どう足掻いても戦わざるを得ない」
「そうだな。アイリスとかイージス教の敬虔なる信徒だし、聖女様に至っては女神様の声を聞ける唯一の人だ。その人類の祖とやらが狙わないわけが無い」
「騎士団の人たちも狙われるね。それに、クラスメイト達が協力している事も問題だよ」
「最悪、クラスメイト同士で殺し合うことになる」
事の重大さに気づいた2人は、神妙な顔でどうしたものかと顔をしかめる。
この2人は俺たち以上に守るべき人が多い。神聖皇国の人々との繋がりが多い2人にとって、この事案は相当な問題だ。
イージス教の聖都とも言えるこの地に、アドムが来ないわけが無いのだから。
「戦う以外に選択肢がないのはわかったが、どうするんだ?教皇様に話を伝えたとしても、できることは限られているぞ」
「お前らは大魔王アザトースに対して対策を立ててくれればそれでいいよ。あとは俺達が何とかする」
「いいのかい?聞いた話では、相当な戦力がいるらしいけど」
「問題ない........とは言いきれないけど、ある程度は対策している。俺にこの情報を流した協力者が秘策を持ってるらしいからな。それだよりではあるが」
「その人は信頼できるのかい?」
「できる。というか、裏切り者だったとしてもやることは変わらないさ。俺達の持つ全戦力でアドムとその愉快な仲間たちを叩き潰すしかない」
マルネスが裏切り者だったらもうどうしようも無いな。
俺はそう思いつつも、マルネスが裏切り者ならそもそも俺達に情報を流さないからそれは無いと確信する。
何も言わずに背中を指した方が効率的だし確実だもなぁ........
「ともかく、対策を頼んだ。大魔王アザトース以外は任せてもらって構わないから」
「分かった。聞いた話猶予が少ない。何とかアイリスを説得して上手くやるよ」
「またリアンヌに怒られそうだ........でもやらないと2人とも死ぬ可能性があるからね。やらざるを得ないよ」
「頑張れパパ」
「ファイトだぞパパ」
「バカにしてるだろ君たち」
半笑いで光司を鼓舞する俺達に対し、顔をしかめる光司。
これで今やれることは全てやった。後は、奴らが本格的に動き出して表に出てくるまで待つとしよう。
その間に対策と万が一の時のことを考えておかないとな。
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人類の祖アドムが計画を動かし始めてから数ヶ月後。
アドム達は女神の目を盗んで順調に小さな村から人々を消し去っていた。
小さな村ほど教会の力は大きく、信仰心も強い。
弱き人々ほど自分よりも上位の存在に縋るのだ。
暫くは順調だった計画だが、ここに来てついに女神の目に止まってしまう。
同じく神の位を持つ(元だが)大魔王アザトースが、その視線に気づいた。
「バレたな。神の視線を感じる」
「思っていたよりも早いね。あと10個ぐらいは村を壊せると思っていたのに」
「それだけ女神も貴様らの動きを見ていたのだろう。あまり長い時間をかけると、女神が手を打ってくるぞ」
「そうだね。そろそろ僕たちも表に出て暴れるとしようか。神聖皇国は既に警戒されているだろうから、先ずは彼女の願いを叶えてあげよう。信者は他の国に比べて少なめだけど、それでも多くの人々が女神を信仰しているからね」
アドムはそう言うと、ゆっくりと立ち上がって両手を広げる。
そして、天を見てこの世界を見ているであろう女神に宣戦布告した。
「さぁ、戦いを始めよう」
この章はこれにてお終いです。次は最終章‼︎(のはず)
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