動き出すマルネス
不死王と話をつけてきた俺は、一旦拠点に帰ると花音を連れて神聖皇国へと向かう。
手紙で龍二達に“大魔王アザトースの復活”を伝えてはいたが、詳しい話を全くしていないので今頃どうしたらいいから困惑していることだろう。
何も対策を立ててない状態での戦闘は危険なので、龍二達を説得して万が一に備えてもらう必要があった。
マルネスも大魔王アザトースは光司に任せるつもりでいる様だし、光司達が大魔王アザトースに負けるとかなり面倒になる。
元神の魔王に人間の刃が届くのかどうかは知らないが、そこは光司達を信じるしか無かった。
「街の中に入るのは顔パスだから楽でいいな。しかも、優先的に入れてくれるし」
「私達はこの国の英雄様だからね。それはそうと、ココ最近は忙しすぎるよ。あっち行ったりこっち行ったり........休む暇がありゃしない」
「それは仕方がないさ。俺達も急いで準備しないと。相手は待ってくれないんだし」
「マルネスの話では既に動きだしているって言ってたもんねぇ。女神に見つかる前に数を減らすため、コソコソと小さな村から滅ぼしているんだっけ?」
「らしいな。信者を消せば、それだけ女神の力を削ぎ落とせる。曲がりなりにも女神を信仰していた正教会国なんかは俺たちが滅ぼしたから、女神の力は既にかなり低いだろうよ」
まぁ、それでもこの世界の人々を殺しているということは、未だ女神を殺せるだけ弱くなっていないという事だが。
世界の人口の五分の一近くが滅んだというのに、それでも尚女神には勝てないと判断している。
女神様の強さってどのぐらいなんだろうな?
ファフニールやラファエルは“そもそもの生物としての格が違いすぎる”と言っていたが、俺は女神をこの目で見たことがない。
一体どれほど女神の力が膨大なのか、俺には予想ができなかった。
「平和に過ごしたいねぇ........天使との戦争が終わったかと思えば、次はまた魔王だよ。いいよそう言う使い回しの展開。漫画とかを読んでいるとちょっと面白いけど、当事者になるとため息すら出ないよ」
「それはそう。大魔王アザトース、空気読めよ。もうお前は死んでるんだよ」
今更大魔王とかもういいんだよ。お前の登場パートは終わってるんだよ。
面倒事ばかり持ち込んできやがって。
漫画の世界なら読んでいて楽しいが、花音の言う通り当事者になると全く笑えない。
あぁ、平穏に暮らしたい。
アゼル共和国で教師として、エレノラや他の生徒たちの世話を焼いていた時が1番平和で楽しかったな........
そんな事を思いつつ歩いていると、大聖堂が見えてくる。
今回は俺たちの顔をしっている門番だったので、顔パスで中に入れて貰えた。
サインと握手を求められたが、この程度なら朝飯前。
死ぬほど書いてきたサインと、手慣れた握手を済ませると子供達の案内に沿って龍二に会いに行く。
どうやら今日は訓練場で体を動かしているようだった。
「よう。四日ぶりぐらいか?」
「........お前、あの訳の分からん手紙はなんだよ」
ほんのりと汗をかき、息の荒い龍二。
なんだろう。こんなにも憎しみを込めて睨まれていると言うのに、普通にイケメンなの辞めてくれないかな。
俺は神の不条理さに嘆きつつも、声を落として周囲に聞こえないようにしながら話した。
「俺も慌ててたからな。だけどあの情報はおそらく確実だ。何らかの対策を講じないと不味い」
「魔王は既に討伐されたんじゃないのか........?」
「あぁ、魔王は討伐されたよ。“大魔王アザトース”は死んでないけど」
「意味分かんねぇよ。取り敢えず、光司も呼んでくるからいつもの部屋で待ってろ」
龍二はそう言うと、近くにあった布で汗を拭きながら訓練場を出ていく。
表向きには平和になったと言うのに訓練を怠らないなんて、龍二は真面目なんだな。
そんな真面目さがモテる秘訣なのだろうか。
「龍二も頑張り屋さんだね。私達よりは圧倒的に弱いけど、普通にミスリル級冒険者ぐらいの強さはあるって言うのに」
「多少は訓練しないと身体がなまるからな。とは言え、子供たちの報告によると毎日最低でも一時間は訓練しているらしいが」
「ほんと、あぁいう真面目さは龍二のいいところだよ。私たちが迷惑かけても縁を切らないし、良い友人を持ったと言えるね」
「龍二からしたら切っても切れない腐れ縁で困ってるだろうけどな。異世界にまで繋がる縁だ。たとえ神でも断ち切れないだろうよ」
龍二には小さい頃から迷惑ばかりかけている。
1度龍二を助けた事こそあったが、俺たちの方がその何倍も迷惑かけてるからな。
花音の言う通り、本当にいい友人を持った。
出来れば、アイリス団長と末永く幸せに暮らして欲しいものである。
「俺達は待つとするか。いつものってことは、龍二がよくいる部屋だよな?」
「多分そうだね。光司も呼んでくるらしいから、しばらく待ってよう。新米パパさんは大変だねぇ」
そう言いながら俺達はのんびりと歩き始める。
取り敢えず知っている事は全て話すとするか。人類の祖アドムとやり合う日は近いだろうし、それまでにできる限り戦力を整えなければ。
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仁の拠点で盛大な歓迎を受けたマルネスは、自分たちの仲間が集まるとある場所に来ていた。
普段は全く使わない魔道具を引っ張り出し、
とある島のとある場所に飛んだマルネスは、そこに集まっていた厄災級魔物たちを見てまずはホッとした。
「良かった。全員居るみたいだね」
「遂にやつが動き出したと言うのに、この召集をポカするバカは居ないわよ........カーバンクルは怪しかったけど」
「キューキュー!!」
額に紫色の宝石をはめ込み、黄色いウサギのような姿のカーバンクルは“心外な!!”とリヴァイアサンに抗議する。
「普段の行いが悪すぎるんだよアンタは。もう少し落ち着いて欲しいわ」
「キュー!!」
ぴょんぴょんと跳ねながら、可愛らしく怒るカーバンクル。
この姿を見ただけでは、だれもが厄災級魔物だとは思わない。
しかし、カーバンクルはこの中で最も国を滅ぼしてきた実績を持つのである。
マルネスは相変わらず仲の良い厄災級魔物たちを見ながら、手を2回ほど叩いた。
「はいはい。喧嘩しない。世界最強との協力関係を結べた。私達も動き出そう。あのクソッタレなゴミ野郎を燃やして灰にしてやるんだ」
「いいわね。昔から気に入らなかったのよ。あの人間」
「キュー!!」
「では行こう。これは、世界を守る戦いだよ」
マルネスはそう言うと、仲間達と共に本格的に動き始めた。
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