団員の一人

 

 ニーズヘッグの背中に揺られながらのんびりと空を飛ぶ事数時間。


 不死王が拠点をとする瘴気に溢れたとある森に、俺とニーズヘッグはやって来ていた。


 相も変わらず不気味で黒ずむ森の近くに降り立つと、既に俺たちの気配を察していたのか不死王が出迎えてくれる。


 「オ久シブリデス。ジンサン、ニーズヘッグサン」

 「久しぶりだね不死王。悪いな連絡も無しに急に来ちゃって」

 「貴方々ナラ、大歓迎デスヨ。ドウゾコチラヘ」


 不死王はそう言うと、慣れた手つきで俺達を森の奥にひっそりと佇む小屋に案内する。


 以前来た時の何も変わらないな。


 六番大天使を殺したからと言って成仏するわけでもなければ、さらなる欲望を見せる訳でもない。


 元が聖職者の人間だったと言うこともあり、あまり欲はないのかもしれないな。


 「ササ、ドウゾオ掛ケ下サイ。最近、オ茶入レニ、ハマッテイルノデスヨ」

 「へぇ、それは楽しみだけど、自分で入れたお茶とか飲めるの?俺はアンデッドになったことないから分からないけど、味覚とかあるのか?」

 「少シダケナラ、感ジルノデスヨ。飲マズ食ワズデモ、生キテ行ケマスガ、ヤハリ、趣味ハ生活ヲ豊カニシテクレマスカラ」

 「あー、それは分かりますね。私も趣味を見つけてからは退屈がなくなりましたし、やはり趣味と言うのは人間であろうと魔物であろうと必要不可欠なものですよ」


 体格的に小屋の中には入れないニーズヘッグは、小屋の外でのんびりと羽を休めながら会話に入ってくる。


 ニーズヘッグも趣味は人間観察。ウチの団員達の様子を見るのかとても楽しいらしい。


 普段からワチャワチャ動く団員達を見ていると、とても和むのだとか。


 ちなみに、見ていて1番楽しいのは俺。


 稀にニーズヘッグでも予想できない行動を取るため、それを見て楽しむのが日課になっているそうだ。


 人を見世物のように言うのはやめて欲しいが、ニーズヘッグが楽しんでいるなら特に言うことは無い。


 ニーズヘッグ以外にも、巨体過ぎて動けないアスピドケロンとかは同じような趣味を持っているからな。


 「アノニーズヘッグサンガ、趣味ヲ持ツトハ........人生長生キスルモノデスネ」

 「ちょっと失礼じゃないですか?私だって趣味の1つ2つは持ちますよ」


 そんなことを話しながら待っていると、不死王が紅茶を入れ終えてテーブルに戻ってくる。


 出された紅茶は、とてもでは無いが魔物が入れた物には見えなかった。


 普通にいい香りがするし、何より瘴気に犯されていない。


 前も飲んだが、それ以上ニーズヘッグ香りが立っていて美味しそうである。


 「ありがとう不死王」

 「イエイエ、私以外ノ人ニ飲マセル機会ハ、中々ナイノデ有難イデスヨ。基本、ココを訪レルノハ団長サンカ、迷子ノ人間デスカラネ」

 「明らかに見た目のやばい森に自らの意思で入る人は早々居ないよ。この瘴気だけで普通の人間は死ぬだろうし」

 「アハハ。ソノ通リデス。迷イ込ンダ人間ハ、1時間ト持タズニ同胞トナッテシマイマス。私モ出来ル限リ人間ヲ殺シタクハ無イノデスガ、限界ガアリマスカラネ」


 不死王の言葉を聴きながら、俺は紅茶を啜る。


 うん。普通に美味い。少し味が濃いので、出来れば茶菓子とか欲しいな。


 甘いお菓子と渋い紅茶のハーモニーがあれば、この紅茶は完璧になれるだろう。


 「ドウデス?」

 「美味しいよ。強いて言うなら、茶菓子があれば最高だったかな。甘さと渋さの緩急があったら、もっと美味しくなる」

 「アハハ。今度ハ茶菓子モ用意シテオキマショウ。手ニ入レルノガ少々難シイデスガ」

 「今度買ってきてあげるよ。必要なものがあれば持ってくるぞ」

 「本当デスカ?ソレハ助カリマス」


 不死王は嬉しそうに頷くと、分かりやすく笑顔になる。


 この戦いが終わったら、幾らでも買ってやるからな。


 「ソレデ、今日ノゴ要件ハ?」

 「人類の祖アドムを知っているか?」

 「........人類ノ祖アドム?聞イタコトノ無イ名前デスネ」

 「かつてこの世界が創成された時に、女神の手によって作られた全人類の祖先。かつてはこの世界を管理し、神々の権能を人の器に埋め込む仕事をしていたそうだ」

 「ホウ?」


 何がなんやらと言った顔で首を傾げる不死王。


 女神が抹消した存在なのだから、知らなくても仕方がない。


 俺だってつい三日前ぐらいに知った話だしな。


 「そいつはとにかく不真面目だったらしくてな。妻のニヴと一緒に女神の怒りを買って追放されたらしい。とある島にな。そして、その島から今は既に脱出している」

 「ホウ。女神様ノ怒リヲ買ウトハ、随分ナ背信者ダナ」

 「背信者所じゃない。奴は自分を追放した女神を恨み、女神を殺そうと画策している。俺もつい先日知ったことだから詳しい事は分かってないが、少なくとも大魔王アザトースとその眷属である悪魔達も協力しているそうだ」

 「大魔王アザトース........滅ボサレタノデハナイカ?」


 不死王は1度魔王と戦っている。


 嫉妬の魔王レヴィアタン。


 首の長いネッシーのような魔王と戦い、普通に勝利しているのだ。


 今考えると、個人で魔王を討伐できるって相当強いな。さすがは厄災級魔物。その名は伊達じゃない。


 「どうも自身の死を偽装したらしい。やり方は知らんけどな。そして、長らく闇に隠れていた奴らは動き始めた。俺達と協力関係の奴からの情報では、既に人間を殺し回っているらしい」

 「人間ヲ?何故?」

 「女神の力の源は、人々ノ信仰心。人間の数が減れば、それだけ信仰する力も減る。奴らは女神の力を削ぐために、人々を殺し回っているんだよ」

 「ナンホド。ソレニ対抗スル為ノ戦略集メ、ト言ウ訳カ」

 「話が早くて助かるよ。それで、どうだ?俺たちに力を貸してくれないか?」


 不死王の戦力は大きい。


 不死者達だけでも一国どころか数国纏めて消し飛ばせるほどの軍勢だ。


 戦いにおいては個の力も重要だが、数もかなり重要。どれだけ雑魚でも圧倒的な数があれば時として強大な個を撃ち破るのだ。


 不死王は紅茶の入ったカップをグイッと飲み干すと、席を立って手を差し出す。


 「元ヨリ、私ハ貴方ノ依頼ヲ断ルツモリハ無イ。共ニ戦オウ」

 「悪いな。せっかく楽しんでいた余生の邪魔をして」

 「アハハ。邪魔ダナンテトンデモナイ。私ハコノ傭兵団ノ一員ノツモリデスヨ」

 「そういえばそんなこと言ってたな。ともかく、よろしく不死王」

 「エェ、ヨロシクオ願イシマス」


 そう言って手を握る俺達。


 これで不死王と言う強大な戦力を確保した。後は、光司と龍二に話を持っていかないとな。

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