理解しない

 

 マルネスとの話も終わり、拠点ではささやかなパーティーが開かれることとなった。


 同盟関係のマルネスをもてなす為のパーティーだったのだが、結局は自分達が騒ぎたいだけの厄災級魔物達が好き勝手に暴れるだけのパーティーとなる。


 あまりにも煩かったので、途中から“騒ぎたければイスの世界に行け”と言った程だ。


 厄災級魔物は騒ぐ時も規模感が違いすぎて困るな。


 とはいえ、マルネスも結構楽しそうにしていたのでパーティーは成功と言えるだろう。


 あの短い時間で料理やら準備やらをしてくれたアンスールと三姉妹、そして獣人組には感謝しかない。


 そして翌日、マルネスは仲間である五体の厄災旧魔物を集めるために一旦バルサルへと帰り、俺達はこの戦争に参加してくれるであろう厄災級魔物の所に話をしに行く準備をしていた。


 「悪いなニーズヘッグ。本当は一人で行ってもいいんだけど、ニーズヘッグが居た方が話が早いと思ってな」

 「気にしないでください団長さん。私は団長さんの手足なのですから、好きな時に好きなように使っていただいて構いませんよ」

 「そう言ってくれると助かるよ。不死王ノーライフキングはニーズヘッグに畏怖しているからな」

 「なんと言うか、不死王も断りづらいですよね。私と私よりも強い団長さんに頼まれ事をされたら、不死王も断れませんよ........断った時が怖い」


 人をヤクザみたいに言うんじゃねぇ。


 確かに不死王の助けは必要としているが、だからといって“手伝わなきゃ殺す”って訳じゃないんだから。


 不死王はニーズヘッグを恐れているので、話が通しやすいと考え連れていくものの脅す気は一切無い。


 別に断ってくれても構わないのだ。断るだけなら殺さない。


 敵対するなら話は別だが。


 「不死王がビビってたらニーズヘッグのせいだな。俺はそんなに恐ろしくない」

 「アハハ。確かに団長さんの普段の姿は怖くないですね。少し機嫌が悪い時は滅茶苦茶怖いですが」

 「........そんなに?」

 「カノンさんとアンスール以外は割と恐れてますよ?だって僅かに殺気が漏れてるんですから。そりゃ怖いとも思うでしょう。機嫌が悪くなっただけで殺気をばらまくなんて」


 ニーズヘッグはそう言うと、頭を下げて“乗れ”と促してくる。


 俺、機嫌が悪い時はさっきが漏れるのか........全然気づいていなかった。


 俺は滅多に機嫌が悪くなったり怒ったりしないから、余計に怖く思えるんだろうな。


 そんなことを思いながら、俺はニーズヘッグの頭に乗る。


 「そんなに怖かったのか........」

 「だいぶショック受けてますね。とは言っても、団長さんが不機嫌な時や怒るのは中々ないので皆団長さんのことは好きですよ。優しい方だともわかってますしね」

 「アレか?優しい奴ほど怒った時のギャップがすごいってやつか?」

 「あながち間違ってはないと思いますよ。普段優しいからこそ怒った時が怖い。その点で言うと、アンスールはマジで怖いですけどね」


 いつもニコニコとしているアンスール。


 思えば、アンスールが怒ってるところとか見たことないな。


 まだ出会って間もない頃によく注意はされていたが、怒られたことは無い。


 両目を長い髪で隠してはいるが、その奥から感じる暖かな視線は当時辛い思いを良くしていた俺と花音を癒してくれていた。


 もちろん、人懐っこく俺と花音にベタベタするイスも。


 アンスールが怒った姿........ダメだ想像できねぇ。


 「アンスールって何をしたら怒るんだろうな?」

 「昔、メデューサが怒らせてましたよ。遊び半分で島の者を石に変えていたら、誤ってアンスールの私物を石にした時とか。あれは私が生きてきた中で五本の指に入るぐらい怖かったです」


 そう言ってブルリと体を震わせるニーズヘッグ。


 ちょっと見てみたい気もするが、ニーズヘッグがそこまで言うとなると恐ろしすぎて怖い。


 パンドラの箱を開けてもろくな目にあわないのは歴史が証明しているし、俺はいつもニコニコの穏やかなアンスールを見ているとしよう。


 ところで──────────


 「ニーズヘッグ。お前指は3本だろ」

 「アハハ!!団長さん達と過ごす内に、人間の方に言葉を合わせるようになってしまったんですよ。それにほら、両手を合わせれば六本ありますから」

 「そういう問題?」

 「えぇ、そういう問題です」


 ニーズヘッグは機嫌良さそうに笑うと、空に飛び出す。


 さて、不死王を仲間に加えるために行くとしますか。


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 仁に中指を突き立てられ追い返されたアドム。


 彼は夢から覚めると、イラつきを抑えられず近くの壁を思いっきり殴った。


 「クソ!!なぜ理解しない!!」


 ドガァァァン!!


 と、殴った衝撃で壁に穴が開き、隠れ家の一部が外の空気と触れる。


 あまりにも大きな音だった為、隣で寝ていた魔女........もとい“ニヴ”は飛び起きた。


 「びっくりした........どうしたんですか?」

 「奴らを仲間に引き入れるのを失敗した。僕に中指を突き立てて“とっとと帰れ”って言ってね」

 「........それはそれは」


 アドム達は仁が女神に恨みがあると信じて疑わなかった。


 それもそのはず。


 普通に考えれば、自分の都合で勝手に呼び出して魔王と戦わせるなんて事を許せるはずもない。


 例えどれだけ上手く生き残ろうとも、家族と引き剥がされ平穏な日常を奪い去った罪は忘れることがないのだ。


 仁も花音と離れ離れになっていたら女神に恨みを持っただろうが、幸い花音もこの世界に来ている。


 家族の事は確かに悲しんではいたが、あまりに家族との関わりが薄かった仁は女神に抗う程馬鹿では無いのだ。


 1発ぐらい顔面を思いっきり殴ってやりたいとは思っているが。


 「あの傲慢で人の人生をも嘲笑う女神に鉄槌を下すチャンスだと言うのに、一体何を考えているんだあの愚か者は。自分の平穏と生きてきた故郷を女神の都合で勝手に無くされたことに怒ってないのか?!」

 「私なら殺しますね。だからこそ、こうして殺すための計画を立てた訳ですし」

 「ともかく、奴らは敵となった。女神を殺す前にや奴らを殺さないといけないぞ。無理に女神を先に殺しに行けば、背後から剣を突き立てられる」

 「面倒になりましたね。どうします?」

 「........今はまだ小さな村から消していこう。奴らは気づいたが、女神はまだ気づいてない。常にこの世界を見ているほど、女神は暇じゃないからね」


 アドムはそう言うと、ゆっくりと立ち上がって外の空気を吸う。


 世界の命運を賭けた戦いが起こる日は近い。

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