マルネスの戦力

 

 団員達との挨拶も順調に進み、最後にファフニールの紹介となった。


 原初の竜、世界の管理者であり団員の中でも頭ひとつ抜けて強いファフニールが最後を飾るのは自然とも言えるだろう。


 「初めまして。炎の原初たる竜ファフニールよ。貴方のことは仲間からよく聞かされていたよ」

 「初めましてだ。小娘よ。どうせ原初の海竜リヴァイアサンからだろう?そして何を言っていたのかも大体想像がつく。我の悪口ばかりだっただろう」

 「ハハハ。殆どはそうでしたね。ですが、彼女はこうも言ってましたよ。“女神様に対する忠誠心だけは本物。たとえ世界全てが女神様の敵になろうとも、原初の竜ファフニールだけは女神様の為に戦うだろう”と」

 「フハハ。買い被りすぎた。我とて時と場合によっては女神様の元で戦うのを拒否することもあるわ。団長殿を殺せと言われたりしたら、抗うだろうよ」


 嬉しいことを言ってくれるね。


 何万年と過ごし、その身をこの世界のために捧げてきたファフニールがたかが10年ちょっとしか付き合いのない人間に肩入れしている。


 それだけ、ファフニールにとってこの10年間は楽しいものだったのだろう。


 俺は思わず小さく笑みが零れるが、その笑みをファフニールに見せることは無い。


 見せてしまえば、ファフニールは嬉々として馬鹿にしてくるだろうからな。


 「原初の竜すらも手懐けるとは、やっぱり君はイカレてる。あの壊れた人形と夫婦をしている時点で頭が可笑しいんだけどね」

 「誰が壊れた人形かなぁ?マルネス、アドムとやらと殺り合う前に貴方と殺り合う必要がありそうだねぇ」

 「ふん。そこの頭の狂った自由人を除けば、全世界の人々が君の事を“頭がおかしい”と評価するだろうよ。さて、真面目な話をしよう」


 いつものように花音を煽り、花音がその喧嘩を買ったところでマルネスは真面目な顔をして語り始める。


 毎度思うが、花音ってそんなに狂人か?


 団員にも昔花音について聞いたことがあったのだが、ほぼ全員から“ちょっとおかしい”とは言われていたけど。


 俺は昔からずっと花音と一緒に居たから、正直カノンのどこがおかしいのかよく分からない。


 絵に関しては滅茶苦茶だとは思うけど。


 「計16体の厄災級魔物に加え、ミスリル冒険者以上の戦力を持ったダークエルフと獣人、そして厄災級魔物よりも強い人間が二人。更には天使まで。正直、私が予想していた戦力よりも遥かに大きい。今分かっている奴の戦力は大きく分けて三つ。アドムとニヴの2人と、大魔王アザトース。そして、大魔王アザトースが使役している悪魔達だ。恐らくだが、他にも多くの戦力を抱えている。ジンの予想では異界からの訪問者も手を貸しているようだし、分かっている戦力だけでも手こずるのは間違いないだろう」

 「マルネスの戦力は?」

 「私を含めて6名いる。原初の海流リヴァイアサンを始めとし、その他に4名。そのどれもが厄災級魔物ではあるが........あまり戦闘向きな奴らじゃない」


 つまり、五体の厄災級魔物を仲間にしているのか。


 普通にすげぇな。


 「名前は?」

 「“大蛇”ユラン。“輝きの宝石”カーバンクル。“双頭”オルトロス。“鬼火”ジャックオーランタン。そして“原初の海竜”リヴァイアサンだ。カーバンクルとジャックオーランタンは戦闘よりも補助に向いている能力だし、ユランもオルトロスもそこまで強いわけじゃない。武闘派はリヴァイアサンだけだね」

 「いや、すごいメンツだなおい」


 知らない名前もあるにはあるが、“輝きの宝石”カーバンクルと“双頭”オルトロスはかなり有名な厄災級魔物だ。


 しかも、“戦闘向きでは無い”とか言っているが余裕で国を滅ぼしている。


 “輝きの宝石”カーバンクルはその額に見るもの全てを魅了すると言われている宝石をつけている小さな幻獣で、かつてカーバンクルを見つけて捕獲しようとした国が次々と不幸に見舞われて滅んだ。


 個人的なイメージとしては、某パズルゲーに出てくる“グーググー!!”と鳴く黄色いヤツなのだが、この世界ではどんな見た目をしているんだろうな。


 もしかしたら、ファイヤーとかアイスストームとか使えるのかもしれん........パン4円とか。


 “双頭”オルトロスはその二つ名の通り頭が二つある黒い犬で、鬣はなんと全て蛇でできているらしい。


 メデューサと同じだな。


 確か、文献によればオルトロスはその鬣の蛇と頭を使って国を消し炭にしたのだとか。


 運良く生き残った人が恐怖ながらに描いた本のため、よく要領を得ない話だったが、ともかく国を滅ぼせるだけの力はあるのだ。


 マルネスもその気になれば世界征服できそうだな。


 「フハハ。カーバンクルか。懐かしいな」

 「知ってるのか?」

 「もちろんだとも。とにかく気分屋で、あっちこっちにフラフラと歩いては災害と繁栄をもたらした歩く厄災だ。恐らく、我よりもタチが悪く我以上に自由人だぞ」

 「そんなに酷いのか........ファフニールが自由人って言うって事は相当だな」

 「実際、ファフニールさんの言う通りだよ。いつも人の話を聞かずどこかにフラフラと行くから困る。どっかの誰かさんと同じ感じだよ」

 「そのどっかの誰かさんもヤベェ奴だな」

 「........皮肉を言ったんだけどね?」


 俺はフラフラと歩いて災害や繁栄をもたらすなんて事はしないから。


 それにしても、カーバンクルか。


 ちょっと会うのが楽しみだな。


 「あやつを手懐けるとは、中々やるではないかマルネス」

 「大変だったよ。まず話を聞いてくれないからね。追いかけると悲惨な目に合うし、やってらんないよ」

 「フハハ!!すばしっこいから尚更だな!!我も本気で殺そうかと迷った事が何度かあったわ!!」

 「それは........すごいね」


 カーバンクル談義に花を咲かせるファフニールとマルネス。


 マルネスもこの中で上手くやっていけそうだな。協力者として団員と仲が良くなるのはいい事だ。


 俺はそう思いつつ、不死王にも連絡を取ってこの戦争に参加してもらわないとなと思うのだった。


 彼は元聖職者。女神に仇なす背信者に鉄槌を食らわせる事は得意中の得意だろうし、何より彼の戦力は頼りになる。


 この話が終わったら早速手紙を出すとしよう。借りがあるから、きっと参加してくれるはずだ。

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