原初の海竜

 

 イスがドラゴンだった事に驚き頭を抱えたマルネスだが、ずっとこうしているわけにもいかない。


 ある程度回復したマルネスを乗せて、俺達は拠点へと戻ってきていた。


 「あれが俺達の拠点だ」

 「あの滅茶苦茶大きな建物が見えるところかい?おかしいな。君達が現れてからここら周辺は偵察したのにあんなもの見つからなかったぞ」

 「どうやって偵察したのかは知らんけど、結界が張ってあるからな。厄災級魔物達が集まる場所だ。そう簡単に見つかっても困る」


 イスの背中から拠点を見下ろすマルネスの表情は、呆れと驚きを含んでいた。


 結界の中に入れば簡単に見つけられる拠点だが、その結界に入るまでが大変である。


 マルネスがどのような偵察をしたのかは分からないが、ウロボロスの結界は相当優秀だったんだな。


 「既に厄災級魔物達が見えてるね。凄いや、有名所ばかりでそのどれもが世界最強クラスだぞコレ」

 「輪廻の輪ウロボロス。死毒ヨルムンガンド。強大な粉砕者ジャバウォック。原初の竜ファフニール。終焉を知る者ニーズヘッグ。流星リンドブルム。真祖スンダル・ボロン。同じく真祖ストリゴイ。神狼フェンリル。月狼マーナガルム。地獄の番犬ケルベロス。自己像幻視ドッペルゲンガー。蛇の女王メデューサ。蜘蛛の女王アラクネ。浮島アスピドケロン。そしてイス。計十六名の厄災級魔物がここにいる。みんな俺達の仲間だ」

 「........君はこの世界を支配するつもりかい?たった一体で国々を滅ぼせる厄災の魔物を16体も従えるとか正気じゃない」

 「凄いだろう?みんな追放楽園に居たから、仲間にしてきた」

 「いや、そんな軽いノリで仲間にできるようなメンツじゃないんだけど........」


 でも、うちの厄災級魔物達はみんな“暇だし行くわ”ぐらいのノリで仲間になってるんだよなぁ。


 初めてであった厄災旧魔物がこんなにもフレンドリーでノリがいいから、俺の中では厄災級魔物は良い奴みたいな感じになっている。


 後、団員では無いが不死王も割とノリが良かったし。


 「まぁ、話してみるといいよ。多分マルネスの思ってる厄災級魔物とは全く違うから」

 「皆基本ノリいいもんねぇ」


 俺はイスに降りるように指示を出し、拠点前の広場に降り立つ。


 既にマルネスの来訪を伝えてあった為か、団員総出で出迎えてくれた。


 しかも、既に立食パーティーの準備を終えて。


 早すぎやろ。マルネスを連れてくるのに30分ぐらいしか時間が無かったはずなのだが、いつの間にこんなにも多くの料理を作ったんだ。


 アンスールは料理が得意だからと言って用意できる量を超えている気がする。


 「お帰りジン、カノン。その人がマルネスかしら?」

 「ただいま。アンスール。そうだ。このロリババァが今回の協力者であり、共闘相手“賢者の魔導マジックマスター”マルネスだ。失礼のないようにな」


 お前が1番マルネスに対して失礼だろとか言うマジレスは受け付けない。


 アンスールは何か言いたげな顔をしていたが、直ぐにニッコリと笑うとマルネスに軽く頭を下げた。


 「団長が世話になってるわね。私はアンスール。“蜘蛛の女王”アラクネよ。アンスールと呼んで頂戴」

 「こちらこそ、ジンとカノンには世話になっています。大魔術師マーリンが高弟マルネスです。よろしくお願いしますアンスールさん」


 若干含みのある“世話になっています”だったが、一先ずお互いに握手を交わす。


 マルネス、普段の言動からは考えられないぐらい丁寧だな。


 「フハハ、アレがマルネスか。随分と面白い術を持っているな」

 「分かるのか。マルネスは大魔術師マーリンが刻んだ“老化止め”の魔術を起動しているらしい。相当高度に隠蔽しているから、俺は言われるまで気づかなかったぞ」

 「世界の理を強引に捻じ曲げる術だ。世界の管理者たる我が気づかないわけかなろう」

 「流石はファフニール。世界の管理者たるお前から見てマルネスはどう見える?」

 「フハハ、何も分からん。しかし、長い時を生きてきたが故の風格は感じる。ずいぶんと面白そうな人生を歩んでいそうだな」


 他の団員と話をするマルネスを見ているファフニールはそう言うと、少しだけ目を細めてなにかに気づく。


 そして、天を見上げて小さくため息をついた。


 ファフニールがこんな反応をするとは珍しい。一体何があったのだろうか。


 「あぁ、懐かしい匂いだと思ったら、こやつ、原初の1人と会っているな。しかも、その欠片まで所持している。あぁ、いやな記憶が思い出されるぞ........」

 「急にどうしたファフニール。マルネスを見てなにか気づいたのか?」


 凄まじい程に嫌そうな顔をするファフニール。


 俺はこの10年間でファフニールが、ここまで嫌そうな顔をしている所を見たことがない。


 一体何に気づいたというのだろうか。


 ファフニールに質問を飛ばすと、ファフニールは心底嫌そうな顔をしながら渋々語り始める。


 口に出すのも嫌だって感じだな。


 「我の他にも原初の管理者がいるのは知っているな?」

 「あー、確かファフニール以外に三体の原初の竜がいるって言ってたな」

 「そうだ。我は2体とは仲が良かったのだが、残る一体とはとてつもなく仲が悪いのだ。なぜだかわかるか?」

 「さぁ?ファフニールが適当すぎるから?」

 「フハハ。あながち間違いでは無い。奴はとてつもなく真面目で頭が固く、口を開けば“女神様の為”と言うような奴だった。我のように最低限の仕事をしている奴は気に食わなかったんだろうな」

 「話を聞く限り、ファフニールが悪く思えるけどな」

 「フハハ!!それは違いない」

 「それで?その原初の名は?」

 「“原初の海竜”リヴァイアサン。水を司る原初の竜の名よ」


 “原初の海竜”リヴァイアサン。


 ファフニールと並ぶほど有名な厄災級魔物であり、これと言って大きな被害を出した訳では無いが人々に恐れられる海の魔物。


 文献では、キングクラーケンと言う海に生息するクラゲの最上級魔物を餌にしていたり、嵐を伴って船を破壊し尽くすとも言われている。


 その真偽は不明だが少なくともファフニールと並ぶ猛者であり、今回の戦いでは心強い仲間になってくれそうだ。


 「あー、頭が痛くなってきた。あやつと顔を合わせて良かったことが一度もない。喧嘩ばかりだったからなぁ........」

 「なんというか、ファフニールも交流関係で悩まされてた時があったんだな」

 「フハハ。我とて知能と感情を持つ生き物よ。多少はそういうこともある」


 意外と人間らしいファフニール。


 そのリヴァイアサンとであった時が少しだけ楽しみだな。

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