そんな馬鹿な⁉︎

 

 未だに独り身で男の1人も作った事の無いマルネスを涙目にさせながらも、一先ず俺達の拠点にいる総戦力を見てもらう為に俺はマルネスを拠点に招待した。


 マルネスが裏切る可能性についても考えたのだが、マルネスが裏切った所で彼女にメリットが何一つない。


 それに、戦力を見られた程度で負ける気もしない。


 例え俺達以外の厄災級魔物全てが立ち塞がろうとも、俺達が勝つ。


 まぁ、あとは単純にマルネスが裏切り者でアドムと繋がっていようがいまいが敵対は避けられないと言うのもあるが。


 もう1回中指を突き立ててやりたいものだ。


 あの透かした顔が歪むのを見るのは、とても気分が良かったからな。


 「大体の位置は分かっていたけど、やはり“浮島”アスピドケロンの麓に拠点を構えていたんだね」

 「人が来ないからな。後、ウチの団員に知り合いが居たんだ。話をつけるのは簡単だったよ」

 「羨ましい話だよ。私が最初仲間集めをした時は、“人間ごときが調子に乗るな”って言われることが多かったからね。殺されかけたことも何度もあったよ」

 「よく生きてたな。厄災級魔物がその気になれば逃げるのすら困難だろうに」

 「私は仮にも大魔道士マーリン様の弟子さ。逃げるだけなら方法はあるんだよ」


 マルネスはそう言うと、昔のことを思い出したのか苦い顔をして天を見上げる。


 俺達のように最初から友好的な魔物が相手なら話も楽だが、基本的に魔物というのは人類を殺して食料にするのだ。


 俺は体質のお陰でベオークと仲良くなりアンスールに助けられたが、マルネスにそんな特異体質は無いのだろう。


 ほんと、蜘蛛と蛇と心霊現象に好かれる体質でよかったよ。


 前の世界にいた時は、そのせいで偉い目にあったりもしたけど。


 学校な机の中に蜘蛛がワラワラと出てきたり、蛇が何故か俺の部屋で寝ていたり。夜になればラップ音があちこちで鳴り響くし、金縛りとかしょっちゅうだ。


 この体質を憎んだ事も多々あったものの、今となっては大きな力になっている。


 ありがとう親父、お袋。


 二人のおかげで俺はこの世界で生き延びれたよ。


 「アスピドケロンを仲間に加えようとは思わなかったのか?アイツも厄災級魔物だけど」

 「最初は思ったさ。だけど、考えてもみたまへ。あのクソでかい巨体で歩かれた、私達が全てを破壊し尽くす権化となる。人類を守る為の集まりを作ろうとしているのに、その人類を歩くだけで殺せる魔物を仲間に加えようとは思わないだろう?」

 「まぁ、それはそうだな」

 「それに、アスピドケロンは過去に大暴れしてこの世界の大陸の形を変えている。凶暴すぎて近づくに近づけないのさ」


 あのギャル口調のアスピドケロンが凶暴........?


 確かにウロボロスが何かをやらかすと結構怖い顔で怒るのだが、うちの団員の中では最も凶暴からかけ離れていると言ってもいいほど温厚なやつだ。


 偶に話をしに行くと、すごく喜んでくれるしいつもニコニコしている。


 アレか、歳をとると丸くなるって奴か。


 アスピドケロンは女の子だから、間違ってもそんな事口にしないが。


 「マルネス。アスピちゃんに“クソでかい”は言わない方がいいよ。あの子、結構繊細だから」

 「........繊細?」

 「話してみればわかるよ。意外と繊細で、健気で可愛い子だよ。私もよく頭の上に乗せて貰うし、私達の団員の中では1番温厚まであるからね」

 「温厚?たった一息で国を滅ぼした破壊の権化が........?私の知っているアスピドケロンとは随分とかけはなれているんだな」

 「時間が経てば人は変わる。魔物も然りって訳だ........お、来たな」


 バルサルの町を出て森の中をしばらく歩いていると、空から大きな翼を広げて降りてくる一体のドラゴンがやってくる。


 今回の送り迎えを担当してくれる、我らが娘のイスだ。


 マルネスは一瞬警戒こそしたものの、俺と花音が普段通りなのを見て警戒を解く。


 それでも若干歩幅が小さくなっているのを見るに、完全に警戒心を取り払うことは出来ていないのだろう。


 しかし大丈夫。


 このドラゴンは、マルネスもよく知っている子なのだから。


 イスはドラゴンの状態から人に変身すると、満面の笑みで俺と花音の元にやって来た。


 「パパ、ママ!!時間通りなの!!」

 「よしよし偉いぞイス。今日はマルネスを乗せて飛ぶからよろしくな」

 「マルネス久しぶりなの!!」

 「........え?ごめん。訳わかんないんだけど。なんでイスちゃんがドラゴンになってるの?」


 訳が分からず混乱するマルネス。


 人間だと思っていた子が、実はドラゴンでしたなんて驚くわな。


 この世界では魔物が人化することは無い。


 ドッペルゲンガーの様に、人に化ける魔物というのは居るもののそのどれもが人型の魔物である。


 しかし、イスは完全にドラゴンの姿から人の姿に変わっているのだ。質量保存の法則をガン無視するどころか、この世界の法則に余裕で抗っている。


 そりゃ、マルネスも困惑するだろう。


 「イスはドラゴンなんだ。人の形態にもなれる特殊なドラゴン。それがイスなんだよ」

 「いやいやいや。そんなドラゴン聞いたことも無ければ私の見てきた文献にも一つも載ってなかった!!魔物の種族は?!」

 「えーと、確か蒼黒氷竜だった気がする」

 「厄災級魔物じゃないか!!しかも、三万年ほど前に存在した“氷帝”!!数多の青竜ブルードラゴンを従え、とある大国を滅ぼしたと言われる災厄の魔物だぞ?!その後何者かによって殺されたのか、寿命を迎えたのか死体が発見されたとあったけどその子孫だったの?!」


 すげぇ、俺の知らない情報がバンバン出てくるんだけど。


 イスの御先祖様ってそんなに滅茶苦茶なドラゴンだったんだな。


 「だけど、文献には人になれるとは書いてなかった。1体どうなってんの?!」

 「いや、俺に言われても困る。追放楽園で暮らしていた時に、卵を渡されて孵化させたらこうなったとしか言えんし........」

 「そうだねぇ。それ以外のことは何もしてないねぇ。気づいたら人になれてたし」

 「そんな馬鹿な?!というか、そもそも人の手でドラゴンの卵を孵化させる........のはできるか。あぁ、頭がおかしくなりそうだ」


 頭を抱えて蹲るマルネス。


 可愛い人の子だと思っていたらドラゴンだったのが、そんなに驚きだったのだろうか。


 今日のマルネスは本当に面白いな。


 俺はそう思いながら、マルネスが復活するのを待つのだった。

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