騒ぐマルネス

 

 ファフニール達にマルネスの歓迎をお願いした俺たちは、再びマルネスの元を訪れていた。


 こんなに短期間で何度もマルネスの店に足を運ぶのは初めてだな。


 多い時でも週一程度だったのに、今では2日で3回も訪れている。


 人生何があるのか分からんものだと思いつつ、俺は欠伸を噛み締めた。


 「また来るとは何かあったのかい?」

 「夢の中でアドムに会ったんだ。お陰で寝不足だよ」

 「........何?アドムと会っただって?」


 いつも通り陽気なマルネスの顔が険しくなる。


 そりゃ、今から敵対する相手と会ったとなれば顔の1つや2つ顰めたくもなるだろう。


 俺だって顔をしかめる。


 マルネスは険しい顔をしながら、若干声のトーンを落として話を続けた。


 「夢の中で会ったって事は、恐らく大魔王アザトースの力を借りたな。2500年ほど前に暴れた大魔王の力の1つが確か“夢に干渉できる”だったはずだ。当時は私も街ではなく、洞窟に隠れていたから事実かどうかは知らないけどね」

 「事実だったらしいな。アドム本人が言っていたよ。“大魔王アザトースの力で俺な夢に干渉している”って。そこで奴らの今までの計画を聞いた。どうも、俺達はアドムの手のひらの上で踊らされていたらしい」


 最初の干渉は弾かれたらしいが、追放楽園の結界破壊、魔王(偽物)の討伐、全世界を巻き込んだ戦争、天使達との戦争、その全てがやつの計画通りだった。


 アドムはファフニール曰く運命に干渉できる。


 俺に直接干渉せずとも、俺の周りの人々に干渉すれば必然的に俺も動くことになるのだ。


 とてつもなく厄介な能力であり、元管理者らしいとも言える。


 「自分の計画を話していた時は随分と楽しそうに話していなかったか?お師匠様曰く、“死ぬほどウザイ奴”だったらしいからね。一度とある方法を使ってお師匠様とアドムは話した事があるそうだが、あそこまで嫌そうな顔をしているお師匠様を初めて見たよ」

 「ウザかった。と言うか、自然に人をイラつかせる天才だよ。途中で殺してやろうと何度思ったことか」

 「気の長い仁がそこまで言うって事は、相当ウザかったんだろうねぇ........私だったら夢の中だろうと手が出てるかも」

 「出会い頭に殴ったんだけど、夢の中だから殴れなかった。夢の世界はお互いに干渉出来ないらしい」

 「最悪じゃん」

 「最悪だよ。いけ好かないやつの話を大人しく聞くしか無いんだからな。我慢して計画やら情報やらを聞き出した俺を褒めて欲しいぐらいだ」


 今思い出してもイラッとする。


 自分の思い通りに事が進んで嬉しい気持ちは分からなくもないが、それを本人の前で嬉々として話すかね?普通。


 多分、あぁ言う性格も相まって女神の怒りを買ったのだろう。


 女神が創造したのだから、最もマシな性格にしろよ。


 「それで、奴は何かを語ったんだ?」

 「世界を巻き込んだ戦争は自分が仕込んだ事と話していたり、天使との戦争も自分が仕込んだとかだな。あ、あと1つ分かったことがある。推測でしかないが、相手側に俺達と同郷が居るぞ」

 「同郷........と言うと、異世界からの来訪者がアドムに手を貸していると?」

 「おそらくは。未だに前の世界に戻りたがっている奴も多い。アドムは適当なことを言って、上手く垂らしこんだんじゃないのか?」

 「それは厄介だな........勇者も戻りたがっていたら魔王を相手する奴がいなくなる。それは流石に困るぞ」


 そうか、マルネスは光司がどんな奴か知らないからそう考えるのも無理はないか。


 光司は前の世界に帰る方法を探してはいるものの、自分が帰るつもりは一切ない。


 既にこの世界に嫁さんと子供がいる上に、傍から見てもラブラブな新婚夫婦なのだから当たり前だろう。


 多分“地球に帰るわ”とか言ったら聖女様に殺されるぞ。いやマジで。


 聖女様、温厚そうに見えて怒るとえげつない程怖いらしいからな........


 光司に取り入ろうとしたシスター相手に嫉妬して、釘を刺しに行った事があるらしいのだが、それはもう聖女の名を冠する者とは思えないほどの鬼の形相だったらしい(龍二談)。


 それだけ光司は愛されているということだが、浮気なんてした日には刺されそうだ。


 マルネスの言葉に俺も花音も首を横に振って否定する。


 既にこちらの世界で守るものがあるのだから、光司がアドムに手を貸すことは無いのだ。


 「ないない。光司はアドムの味方になることは絶対にないよ。アイツ、聖女様と自分の子供が大好きだもん」

 「敵対は無いねぇ。寧ろ、戦場に聖女ちゃんを出さないために死ぬ気で戦ってくれるよ」

 「........聖女とは政略結婚と聞いたんだが?」

 「あのラブラブが演技だったら神でも騙せるよ。それぐらいアイツらは愛し合ってる。相手の居ないマルネスには分からんだろうけどな」

 「おっと?急に言葉の暴力で殴ってくるとはいい度胸じゃないか。アドムを殺す前にお前とやり合うのもいいかもな?」

 「戦力が足りないって泣きついていた癖によく言うよ」


 額に青筋を浮かべて怒りを露わにするマルネスを見て面白がる俺たち。


 最近真面目な話ばかりだったが、やはりマルネスに話こうして言葉でおちょくるのが1番落ち着く。


 「マルネス今まで男とかいた事ないの?もう何千年と生きてるんでしょ?」

 「嫌味か?嫌味なのか?私は今の今まで独り身だよ!!まだ12の時にアドムの存在を知って、それ以降ずっと奴らと戦うための準備をしてきたんだから!!」

 「その仲間集めの時に誰かと結ばれても良かったのにねぇ........やっぱりロリな上にババァなマルネスに需要がないんじゃ........」

 「おいカノン?言っていいことと悪いことがあるぞ?泣くよ?6000年以上生きてきたババァが年甲斐もなく泣きわめくよ?」

 「だ、大丈夫だマルネス。お前のような変態でどうしようもないロリババァでも愛してくれる人はきっと居るって」

 「フォローになってねぇよ!!なんで今から共闘する仲間にこんなこと言われなきゃならんのだ!!」


 若干涙目になりながらワーワー騒ぐマルネスを少し可愛いなと思いつつ、俺達は波乱の前の静けさの中笑うのだった。

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