敵対者達

 

 アドム達との取引があったと思われるラファエルに話を聞くため、ラファエルを呼び出した。


 以前にもこんなことがあった気がするな。前の時も裏切るのでは無いかと思ってファフニールやらニーズヘッグを呼んだ気がする。


 ラファエルが万が一裏切り者だった時のため、この傭兵団の最高戦力を呼んだ俺はラファエルがやってくるのを待っていた。


 「ラファエルが裏切り者かもしれん........か。我の見解ではそんなことないと思うのだがな」

 「俺もそう思う。ラファエルが裏切っているなら黒百合さんも裏切り者の可能性が高くなるが、黒百合さんはあまりそういう方向に頭が回らないタイプだ。必然とラファエルの裏切りの可能性も低くなると思うよ」

 「念の為という事ですかね?」

 「そうだな。後はアドムについて何か知っていれば話してもらいたい。アドムが過去に何をやったのかの情報は粗方集まったが、現在の戦力については全く分からんし」


 相手の戦力差が分からないのは、戦争において致命的すぎる欠点だ。


 相手の戦力が分かっていれば、作戦も立てやすく戦いやすい。


 しかし、何もかもが不透明だとどうしようもない。


 相手に先手を取られてズルズルと負ける。そんな事も有り得るのだ。


 戦争において最も大切なのは情報。この世界で何度も戦争を経験してきた俺だからこそ言える結論である。


 既に集まっている厄災級魔物達と話しながらしばらく待っていると、ラファエルが姿を現す。


 “ちょっと来てくれ”としか言っていないので、ラファエルはこれから何が起こるのかよく分かっていない顔をしていた。


 この時点で白な気もするけどな。


 「急に呼び出してどうしたの?団長さん」

 「悪いなラファエル。お前に幾つか聞きたい事があるんだ」

 「ふーん。その割には豪勢な面子だね。もしかして、私何かやらかしちゃった?」

 「大丈夫。今はまだやらかしてない」


 ラファエルもこの面子を見て何となく察したのか、若干顔に怯えが出ている。


 そんなに怯え無くても大丈夫だよ。ラファエルが裏切り者でない限りは........ね。


 「以前、ラファエルは天使を足止めする際に誰かと取引をしたらしいな?」

 「うん。魔女と取引したね」

 「その取引内容や相手の話を聞かせてくれるか?」

 「魔女のこと?」

 「魔女が何なのかすら俺は知らんからな」


 魔女って誰やねん。


 また知らんやつの名前が出てきたな。


 「うーん。取引の内容は、怪我人を治すこと。なんか目の見えない老人の目を直して欲しいって取引しに来たから直してあげたんだよ。その後大きな怪我をしてたから、それの治癒もしたね」

 「老人?名前は?」

 「確か........剣聖?とか言ってたかな」


 ここであのジジィの名前が出てくるのか。


 子供たちが探し回っても一向に見つからなかった剣聖の跡。それが、こんな所で見つかるとは思ってなかった。


 そりゃ見つからないわけだ。アドムや魔王の様に隠れられたら、いくら密偵に優れた子供達とは言えど探し出すのは難しい。


 未だに剣聖の弟子の居場所しか分かってなかったのだが、これで剣聖がどこにいるのかはだいたい掴めたな。


 少なくとも、味方では無い。


 「後、女の子も治したね。そっちは確か聖弓って呼ばれてたはず」

 「聖弓?って確か連邦国のミスリル冒険者だったよな?」

 「そうだね。ドワーフとの戦争に参加してたはずだよ。ミスリル冒険者同士の戦いに勝利した後、その怪我のせいで寝込んでたって聞いたね。しかも、その後姿を消している。まさかラファエルの元で治癒したとは思ってなかったけど」


 となると、聖弓もアドムの仲間に加わったと考えて良さそうだ。


 彼女自身が繋がっていなくとも、恩を売りつけて仲間にするぐらいはやってくるだろう。


 と言うか、そんなに重要な情報を持っているなら話してくれよ。


 知っていても何か出来る訳では無いが、子供達に無駄な仕事をさせずに済むんだからさ。


 「後知っていることは?」

 「んー、特にはないかな。魔女が死ぬほどウザイってことぐらい」

 「人類の祖アドムについては?」

 「なんにも知らないよ?というか、誰だっけ?」


 本気で首を傾げるラファエル。


 これが演技なら大したものだが、ラファエルの性格上こういう場面で嘘はつかないし付けない。


 たとえ嘘をついたとしても、彼女の嘘は分かりやすいのだ。


 ラファエルは白。この傭兵団に裏切り者は一人もいない。


 「次の戦争相手だ。どうやら女神イージスを殺そうとしているらしい」

 「団長さん、戦争が本当に好きだね。ともかく、女神様を殺そうとするとは中々に恐れ知らずなんだね。私は女神様のことあまり好きじゃないけど、流石に殺そうとは思わないよ。だってどう頑張っても勝てないし」

 「........なぜそう思う?」

 「神と天使、そもそも生物としての格が違いすぎるよ。ゴブリンがドラゴンに喧嘩を売っているのも同然なんだから。どれだけゴブリンが強かろうと、所詮はゴブリンでしょ?ドラゴンに勝てるわけが無い」


 なかなかに辛辣な言葉を吐くラファエルだが、彼女の言葉には確信が入っていた。


 ファフニールと同じく、女神を人が殺すことは出来ないと思っているのか。


 アドムはどうやって女神を殺すつもりなんだろうな。


 勝ち目があるから戦いに挑むのだろうが、ファフニール達を創造した相手に勝てるのかと言われたら首を傾げる。


 実際に見なければ分からないが、少なくともファフニールは“無理だ”と断言していた。


 元神の魔王に何とかしてもらうのか?その可能性が高そうではあるが、勇者に1度負けてる魔王なんて信用ならんだろうに。


 「白だな。それで、団長殿。これからどうするのだ?」

 「一先ずマルネスに結論を言いに行く。後は向こうと上手く話を合わせないとな。あ、マルネスを迎える準備だけしておいてくれ」

 「フハハ!!盛大にもてなしてやろう。誰かの記念日なのではないかと勘違いするほどにな!!」

 「まぁ、料理とか作るのはアンスールさん達の仕事になってしまうので、私達はただ盛り上げるだけですけどね........」

 「どれだけ盛大にもてなそうとしてんだよ。普通でいいよ普通で」


 俺はそう言うと、何をしようかと話始める厄災級魔物達に呆れながらバルサルへと向かう準備を始める。


 剣聖も聖弓も敵か。となると、剣聖を助けた謎の奴も敵。


 なんで毎回俺の周りには敵が集まってくるんだろう?


 俺は溜息を付くと、平和に暮らしたいと思うのだった。

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