また話を聞こう

 

 ファフニールとのんびり話していると、日が明けて太陽が世界を照らす。


 本当に昨日は驚きと困惑の連続だった。


 女神に反旗を翻す者たちに、世界の管理者、マルネスの正体。


 人類の祖アドムの計画と、討伐したはずの魔王が生きていた事実。


 この情報だけで世界を動かせてしまいそうなほどである。


 俺は欠伸をしながらファフニールの頭の上からおりると、宮殿へと戻った。


 そろそろ皆が身を覚ます時間だ。マルネスを迎える準備をしなければな。


 「おはよう仁。私が寝ている時に起きてコソコソ動くなんて、もしかして浮気かな?」

 「馬鹿言え。浮気なんてした日には命が無いわ。それに、俺は花音一筋だよ」

 「えへへ。それで、珍しく早起きだねぇ。何かあったの?」


 冗談を交えつつ、朝の挨拶をする花音。


 俺は寝ている時の事についていろいろと話した。


 「──────────という訳で、アドムには中指突き立てて来た」

 「いいねぇ。話を聞いている限りウザそうな奴だし、そんぐらいの態度がちょうどいいでしょ。それにしても、異能や魔法が神様の権能だったなんてビックリだよ」

 「そうだな。神の権能をバラバラにして人に埋め込んでいるらしい。昔はアドムの管理下だったが、今は別のやつが管理しているんだろうな」

 「亜神だね。ファフニールが言ってたし」

 「だろうな。受け取った神の権能の量が多ければ多いほど、力は増す........らしい。俺達は器としてはかなり大きかったわけだ」

 「見る目があるねぇ。私達ほど人としての器が大きな人類もそうそう居ないよ」


 思ってもないことを口にする花音。


 俺達よりも人としての器が大きいヤツなんてごまんといるだろうに。


 人の器が異能の器に関係あるならば、俺達に振り回されまくっているにも関わらず、友人を辞めない龍二とか神になれるぞ。


 龍二は人としての器が物凄く大きいからな。


 光司に至っては神の中でも最上位の最高神にすらなれそうである。全知全能の神ゼウスとかになれるんじゃね?


 「ともかく、俺達はやるべきことをやろう。先ずはマルネスを呼んで戦力の確認だ。マルネス曰く、厄災級魔物を何体か仲間にしているみたいだしな」

 「私たちと同じだねぇ。厄災級魔物がどれだけいるんだろう?もしかしたら、ファフニールと同じ“原初”のドラゴンだったりして」

 「有り得そうだな。ファフニールとその同僚は女神の手によって作られた者だし、世界の均衡を保つための存在だ。今は予備としてこの世界に居るらしいが、世界を守る使命は変わらんだろ」

 「だといいけどね」

 「あ、後、相手の戦力に恐らくだが俺たちの同郷が居るぞ」

 「え?」


 思わぬ発言に、思わず目を見開く花音。


 俺たちの同郷。つまり、地球からやってきた者。


 俺がこの星がどのように出来たかを問われた際、俺の答えをアドムは誰かに聞こうとしていた。


 つまり、地球の誕生を知っている奴が居るのだ。そして、そんなことを知っているのは地球人以外に有り得ない。


 そして、この世界で地球人と言えば女神の手によって召喚されたクラスメイト達だ。


 未だに前の世界に帰りたがっているクラスメイトは多いと聞く、人類の祖アドムの口車に乗せられて女神に反抗しようとしている奴が居てもおかしくは無い。


 アドムの目的は女神を殺すことだし、クラスメイトも全員が全員女神に恨みを持ってない訳でもないしな。


 「クラスメイトの中にアドムと繋がっている人がいるってこと?」

 「恐らくは。もしかしたら、過去を見られる者が居るのかもしれんが、クラスメイトの方が可能性は高い。龍二や光司は間違いなくアドムの話に乗らないから、あるとすれば他の連中だろうな」

 「地球に帰りたがっている子は可能性が高いわけか........どうする?子供達にお願いして全員殺す?」

 「いやいや、流石に怪しいだけで殺すのはちょっとな。仮にもクラスメイトで同郷なんだ。知らない中じゃないし、何よりあくまでも予想だ。それに、クラスメイトの中にアドムと繋がっている奴がいたとしても、俺たちの敵では無いさ」

 「龍二と光司以外は雑魚だもんね。あの二人が敵対しなければそれでいいのか」

 「そういう事だ。確定してから動いても遅くはないさ」


 それに、女神を恨む気持ちも分からなくもない。


 俺は運良く花音と一緒にこの世界に来れたから良かったが、もし花音がいなければなんとしてでも地球に戻る手段を考えていただろうからな。


 その為に女神を殺す手段を取っていたかもしれない。


 そう思うと、アドムと手を組む気持ちも分からなくはない。俺たちの前に敵として現れるなら容赦はしないが、それまでは見逃してやるつもりだった。


 「それと、ラファエルに話を聞かないとな」

 「どうして?」

 「恐らくはアドム達と一度取引している。黒百合さんの件でな。アドムは俺たちを使って天使を始末した。そして、その提案を持ってきたのはラファエルだ。奴とラファエルが繋がっている可能性は高い」

 「裏切り者って事かな?」


 僅かに殺気立つ花音。


 俺は花音の殺気を抑えてもらうために軽く頭を撫でながら、首を横に振った。


 「どちらかと言えば、一時的に利用した可能性の方が高い。黒百合さんを守るために、アドムと手を組んだ訳だ」

 「私達の情報を流す為じゃなくて?」

 「黒百合さんへの溺愛を花音も見てるだろ?あれは本物だよ」


 黒百合さんのためにアドム達を利用する。


 それが最善手だったのだろうから、特に文句は無い。


 しかし、話は聞いておかなければわならない。もし、裏切り者であれば、何らかの対策を立てる必要があるからな。


 ラファエルの異能は俺ですら殺せない(ファフニール曰く)。殺せないのであれば、無力化するしかない。


 しかも、場合によっては黒百合さんまで敵となる。出来れば、仲間でありたいものだ。


 「マルネスよりも先にラファエルに話を聞かないとね。前みたいに呼び出す?」

 「あぁ、アスピドケロンとウロボロス、そしてニーズヘッグとファフニールを呼んでくるか。あの4人がいれば、逃がすことはまず無いだろうし」

 「私としては敵じゃないといいんだけどねぇ」

 「俺もだ。最悪黒百合さんとも殺り合う羽目になる。それは勘弁願いたい」


 俺はそう言うと、ラファエルを呼びに宮殿内を歩くのだった。

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