お前は一回怒られろ
目が覚めるとそこは見慣れた天井だった。
俺の隣では花音がスースーと寝息を立てて眠っており、花音の隣にはいつの間にかイスがやってきて眠っている。
どうやら夢から覚めたようだな。
日はまだ昇っていないが、二度寝する気にはなれなかった俺は花音とイスを起こさないようにゆっくりとベッドから出て宮殿を出る。
まだ暗い空と冷たい風は、微妙にこんがらがっている頭をゆっくりと整理してくれた。
「........ファフニールのところに行くか」
人類の祖アドムとの敵対は確定。正直向こうの条件次第では引き受けても良かったのだが、多くの人々が死ぬ中に親しいものまで含まれている時点で選択肢はない。
さらに言えば、女神を殺した後の話も打算的で信用ができなかった。
あと単純に嫌い。
自分の手のひらの上で踊っていた事を、本人に楽しそうに伝えてる辺り性格が終わってる。
アドムに悪気は無いのであろうが、むしろそっちの方が質が悪かった。
ナチュラルに人をイラつかせる天才だよアイツ。ファフニールが“嫌い”という気持ちも分かる気がする。
ぐるぐると考え事をしながら、ファフニールの気配がする場所に足を運ぶ。
いつもの場所に行くと、ファフニールの姿があった。
俺の気配に気づいたファフニールはゆっくりと目を開けると、静かに口を開く。
「こんなに早起きとは健康的ではないか。どうしたのだ?団長殿」
「人類の祖アドムに会った。夢の中でな」
「ほう........?夢の中で。やつにそんな力は無かったはずだが........」
「大魔王アザトースの力を使ったらしい。どうやら人の夢に干渉できるらしいな。人の寝ている時間を不愉快にするという点においては、魔王と言っても遜色ないぞ」
「フハハ。団長殿は寝るのが好きだからな。確かに眠りの一時を邪魔されるのは不愉快だ。それで、我のところに何の用だ?」
「アドムから大体の話は聞いた。どうやら、運命に干渉して俺達を上手い様に操っていたらしい........多少言葉を濁していたのを見るに、俺に干渉したと言うよりは俺の周りの人に干渉した可能性が高いけどな」
「そうだろうな。奴の能力を持ってしても、団長殿に干渉するのは難しい。精々この先起こる未来をほんの数秒見るのが限界だろうな」
ファフニールはそういうと、身体を起こして俺に頭を下げる。
“乗れ”ということか。
初めてあった頃は、その背中に乗せてすらくれなかったのに随分と甘くなったものだ。
何気にファフニールって可愛いんだよな。いつも尊大な態度をとっているが、時にこうして甘えてくる。
もう少し自由奔放さを無くしてくれれば、俺も困らずに済むのに。
そう思いながら、俺はファフニールの頭に飛び乗るとあぐらを描いて座る。
ついでに、ファフニールの頭を優しく撫でてやった。
「やつはなんと言っていた?」
「この世界に呼ばれて直ぐに接触を図り、失敗。その後、俺と花音が追放楽園にやってくる様に手引きして、追放楽園から脱出。そして人類全部を巻き込んだ戦争を間接的に起こし、多くの信仰者を自分の手を汚さずして始末。更に、天使達までも俺達に処理させたって事を堂々と語っていたよ。後、管理者の話もしてた」
「ふむ。相変わらず裏でコソコソと動くのが上手いやつだ。あの島に我が来た時点で始末しておくべきだったな」
「それは言えてる。お陰で俺達は人類の存続をかけて戦う羽目になったんだからな」
「フハハ。流石に女神様がお作りになられた監獄を壊す訳にも行かなかったからな。まぁ、何万年と閉じ込められた退屈さで最終的に団長殿が結界を壊すのを黙認したが」
そういえばそうじゃん。
ファフニールのやつはあの島が女神の手によって作られ、人類の祖の監獄だと言うのを知っていたのに俺が結界を壊すのを黙認してたじゃん。
やはりファフニールは適当すぎる。
本当にこんなので世界を管理できていたのか?
「その黙認のお陰で、今こうして苦労してるんだけどな」
「フハハ!!どんな運命を辿ろうとも、この未来に近い結果になっていたと思うぞ。アドムの事だ。恐らく結界を壊す手段は既に持っていたのだろう」
「あー、それらしい事は言ってたな」
「だろう?なら、団長殿が壊そうと変わることは無い」
そういう問題じゃない気もするが、ファフニールがそう言うならそういうことにしておこう。
今思えば、女神も女神だよな。追放楽園が壊されたとなれば、俺に文句を言ってきても不思議では無いというのに。
それともあれか?外敵やらなんやらで忙しかったのか?
女神の仕事がどのようなものかは知らないが、少なくとも四六時中この世界を見張っている訳では無いのだろう。
気づいた時には既に手遅れだった。なんてこともあるかもしれない。
そう考えると、俺は女神にかなり迷惑かけてそうだな。
俺も女神に文句は言いたいが、女神も俺に文句があるのかもしれん。
もしくは、単純に女神がポンコツだったか。
「女神様も俺達のような自由人に振り回されて頭を抱えているかもな」
「フハハ!!その可能性は大いにあるぞ。女神イージス様は寛大で我のように適当な仕事をしていても文句も言わないお方だが、少し抜けているところもある。仕事をせず更には女神様に向かって喧嘩腰だったアドムに対しても随分と気長に接していたのだからな」
「........あのナチュラルに人をイラつかせる天才と気長に接することが出来るとか、神が何かか?」
「女神様だからな。だからこそ当時は驚いたものだ。アドムとニヴに本気で起こる女神様を初めてみた時は、正直怖かったぞ。真面目に仕事をやろうと思ったときでもあるな」
「........ファフニールが怒られなくてよかったな」
「我は仕事こそ適当だが、最低限はやっていたからな。この世界の炎を全て管理する。それだけは真面目にやっていた」
へぇ、ファフニールはこの世界の炎を管理していたのか。
恐らくだが、神の権能を使って上手いことやっていたのだろう。
そりゃ普通の炎と違うわけだわな。神の操る炎とそこら辺の焚き火が同じだったら笑いものだし。
「それ以外の仕事は?」
「サボったり適当にやったりしてた。我とアドムの違いは、最低限をやったかやってないかだと思うぞ」
「ファフニールも1回女神に怒られた方がいいかもな」
「フハハ!!言えてるな」
愉快そうに笑うファフニールと、それにつられて笑う俺。
そろそろ夜が明ける。まずはマルネスをここに呼び出して、戦力の確認をするとしよう。
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