勝手にやってろ

 

 人類の祖アドムから異能と魔法についての話を聞いた俺は、少しだけ楽しくなりながらも相手の情報を抜き出そうと模索する。


 既に一つ情報が聞き出せている。


 この調子で頑張るとしよう。


 「で、なんで俺に接触しようとしたんだ?」

 「僕達は仮にも管理者。僕の担当はこの神の権能が主な仕事だった。そして、神の権能が与えられる時期やどのような人に与えられるのかも、ある程度絞りこめるのさ」

 「........つまり、お前が求めていた異能を最も持つ可能性があったのが俺だと?」

 「そういう事になるね。とはいえ、所詮は確率の問題だ。今回は上手くいったけど、普通に外れていた可能性もあったと思うよ」


 俺の異能“天秤崩壊ヴァーゲ・ルーイン”がアドム達に必要だったと言うわけか。


 いやこの言い方だと、“あった方が便利”と考えていたと言った方が近い気がするな。


 無くても問題は無いが、あった方が何かと都合がいい。


 アドムはそう言っている気がした。


 「まぁ、接触は失敗しちゃったけど、幸い君は上手くやってくれた。僕の権能も多少使ったが、めでたく追放楽園に招待できたわけだ」


 やはり、俺が流れ着いた島は追放楽園だったのか。


 当時は気づかなかったし、疑問も持たなかったがよくよく考えれば可笑しい事だらけだったもんな。


 霧の結界はともかく、あまりにも厄災級魔物が集まりすぎていた。


 「........俺からすればいい迷惑だったがな」

 「アハハハハ!!結果的に君は強くなれたじゃないか。それに、僕が呼んだ厄災級魔物達をほぼ皆連れ出して傭兵団まで作ってしまった。流石に予想外だったよ。君には魔物に好かれる性質でもあるのかい?」

 「かもな」

 「本当なら、僕が説得するつもりだったんだけど........これに関しては何も言わないでおこう」


 アドムはそう言うと、椅子を前後逆にして背もたれに腕を載せる。


 「もし、俺が結界を壊さなかったらどうしてたんだ?」

 「他の方法で壊すさ。その時はかなり動きづらいだろうけど、君達に島からだす代わりに計画を手伝えと持ちかけてね」


 マッチポンプじゃねぇか。


 自分で勝手に呼んでおいて、勝手に助けて恩を売る。


 マッチポンプ以外の何物でもない。


 そりゃファフニールが嫌うわけだ。コイツは自由すぎる上に単純にタチが悪い。


 今の発言だけで、俺もコイツのことが嫌いになったぞ。


 「そして、君達は僕達の代わりに女神の力を削ってくれた。女神の力の源は信仰心。君が起こした世界大戦で多くに人が死に、女神の力はかつてないほど弱まっている」

 「あれも運命を操作したと?」

 「少し違うが、ほぼ合ってるよ。君は僕の掌の上で踊ってくれたのさ」


 腹の立つ言い方だな。本人に自覚は無いのだろうが、人をイラつかせる天才なのかもしれん。


 この場で殴り殺せてたら、今すぐにでも殴り殺しているというのに。


 俺は湧きあがる苛立ちを抑えながら、静かにアドムに質問を投げかけた。


 「天使のことに関してもお前が干渉したのか」

 「もちろん。天使は神々の使徒。僕達が女神を殺そうと動けば、奴らは間違いなく動く。だから取引をもちかけて君たちに消してもらったのさ。流石に僕達が動くと女神にバレるからね」


 おそらく、その取引相手はラファエルだな。


 彼女が天使との戦争を提案していたし、黒百合さんは真面目だからこの話には乗らない。


 乗ったとしても、きっと話す。


 今はアル中でどうしようもなく堕ちてしまったが、彼女はかなり真面目で正直者なのだ。


 後でラファエルに話を聞かなければならないな。


 「今までの経緯は大体わかった。それで?今回俺に接触してきた理由は?」

 「ここまで話している時点で君も察しているのだろう?僕達と手を取り、あの憎き女神を殺そう。君の異能があれば、女神を殺せる確率はグンと跳ね上がる」


 やはりマルネスが言っていた様に、アドム達の目的は女神イージスの抹殺か。


 俺は即座に断る前に、いつくかの質問をする事にした。


 まだ情報を引き出せる。


 「女神はこの世界を外敵から守っていると聞いた。女神を殺したら今度はその外敵に支配されるんじゃないのか?」

 「その点は問題ないさ。僕達には堕ちた神がいるからね」

 「........堕ちた神?」

 「大魔王アザトース。彼はもともと神なのさ。そして、彼は神々との戦いに敗れ、この地に逃げ延びた。その後、この世界を支配して再び神になろうとしたところで、女神に見つかったけどね」


 初耳なんですけど。


 大魔王アザトースって元神なのかよ。


 本当に今日はいろいろなことを知れるな。そして、神との戦わされる光司達が不憫で仕方がない。


 第一子が生まれたばかりだと言うのに、あいつも大変だ。


 と言うか、一度神々との戦いに敗れたなら信頼できなくね?外敵が神だとしたら、また負けるやん。


 そうは思いつつも、俺は黙っておく。


 これ以上この話を聞く意味は無いしな。


 「女神を殺すということは、女神の力を削ぎ落とすんだよな?今生きている人々はどうなる?」

 「大切な人でもいるなら、その人は殺さないであげよう。とは言え、全世界の人が大切だからとか言われると困るけどね。それに、君も女神には恨みの一つや二つはあるだろう?僕と手を組めばその恨みを果たせるぞ」


 確かに文句は言いたい。


 人の人生を勝手にいじくっておきながら、あの女神は特に何も言ってこない。


 ごめんなさいの一言もないのだ。一発顔面を殴ってやりたい気持ちはある。


 しかしながら、俺はそれ以上にこの世界な事が気に入っていた。


 地球にいた頃なら間違いなくこんなに楽しい生活を送ることは出来なかっただろうし、こんな愉快な出会いもなかった。


 教師をしたり、子育てしたり、自由奔放な厄災級魔物達に振り回されながら笑ったり........


 だからお前にはこの言葉を送ろう。


 これが俺の........否、答えだ。


 「1人で勝手にやってろfuck野郎。そんなつまんねぇことに俺達を巻き込むんしねぇ」


 中指を立て、ベッと舌を出す。


 尚、周りを巻き込んでの復讐とか思いっきり俺じゃんとか思ったりしたが、それはそれ、これはこれである。


 「.......それは僕たちと敵対するということかい?」

 「それ以外に何がある?ウチの可愛い教え子や教え子の大切な人まで殺すんだろう?なら、やり合うしか道はねぇ。何より俺は女神に恨みはないんだよ」


 文句はあるけど。


 「後悔するぞ。僕達に楯突いたこと」

 「言ってろバーカ。第一、ウチにファフニールがいる時点で敵対は決まってんだよ。少しは頭を使ったら?人類の祖(笑)さん」

 「........殺す」


 アドムはそう言うと、白い部屋から消えていく。


 さて、そろそろ目覚める時だろう。対策をしっかりと建てなければ。

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