星の誕生
人類の祖アドム。
マルネスとファフニールの話によれば今を生きる人々の最初の祖先であり、この世界の人類の父。
女神の手によって創造された創世記時代から生きる“元”世界の管理者。
何を管理していたのか、どのような仕事だったのかは不明だが、彼とその妻ニヴは世界の管理を怠り女神イージスの逆鱗に触れた。
そして、俺と花音が行き着いたあの霧で覆われた島“追放楽園”に閉じ込められ、女神への復讐を誓った人間である。
マルネスが“接触を図ってくる”とは言っていたが、まさかこんなに早く接触してくるとは思わなかった。
しかも、夢の中で出てくるとは、想定外も想定外である。
「人類の祖アドム........か」
「僕の名前は知っているのか──────────」
アドムが何かを言いかけたが、俺は一切聞く耳を持たなかった。
殺すべき相手がノコノコたやって来てくれたのだから、この場で殺すのが最適だろう。
先手必勝。
アドムと敵対すると決めた以上は、手加減などする必要は無い。
俺はアドムの頭を弾き飛ばす勢いで拳を振るったが、虚しくも拳は空を切る。
確実に殴ったはずなのに、手応えが一切無かった。
「........干渉できないのか」
「殴りかかってくるとはビックリだよ。僕は君に嫌われるようなことをした覚えはないんだけどね。それと、この世界は夢の中。たとえ僕を殴れたとしても、現実の僕にダメージは無いよ」
「あっそ。で、何の用だ?」
「まぁまぁ、そう焦らないで。時間はたっぷりあるんだからさ」
アドムはそう言うと、指をパチンと鳴らして椅子を2つ用意する。
ここに座れということだろう。この夢の中から覚める方法も、アドムを殺す方法も見つからない現状では大人しく座る以外に選択肢が無さそうだ。
異能も使えないようだしな。
俺は大人しく座ると、アドムを見る。
見た目は普通の人間。しかし、相手は創世記から生きている上にファフニールと同じ元管理者だ。
油断はしない方がいいだろう。
「さて、どこから話そうかな。君は覚えているかい?僕が君に初めて話しかけた時のことを」
「全く。初対面じゃないのか?」
「“初めまして。久しぶり”と言っただろう?僕は君に接触している」
そんな記憶はないんだがな。
俺が首を傾げると、アドムは少し楽しそうに笑いながら話した。
「君達が女神イージスに呼ばれてこの世界に来たあの日、僕は大魔王アザトースの力を使って今回のような夢の中での接触を図ったんだ。まぁ、当時はアザトースも力の殆どが使えなくて、君の魔力抵抗を膨大過ぎたから弾かれちゃったけどね」
「........」
「君だけ最後まで寝ていただろう?あれはアザトースの力と僕の力を使ったが故の弊害だ。君の嫁さんは気づいていたようだが、他の人は君に気づかず起こすこともなかった」
「よく女神にバレなかったな」
「女神と言えど世界への干渉には大きな力を使う。君達をこの地に召喚した時点で、女神は寝ていただろうよ。事実、過去にも勇者を召喚したが、あの時も監視の目が外れていた」
どうやら俺は、この世界に来た時から既にアドムと魔王に目をつけられていたらしい。
実際にこうして顔を合わせるのは初めてだが、彼からしたら久しぶりとなるのだろう。
と言うか、気づけよぽんこつ女神。お前の敵が召喚した勇者様にちょっかい掛けてたんだぞ。
俺は女神って実はポンコツなのでは?と言う疑問を持ちつつも、アドム他の話を続けた。
この場で殺せないのであれば、多くの情報を引き出すべきだ。
重要なことを話すかどうかはともかく、奴らの戦力や計画を少しでも聞き出そう。
「なぜ俺に接触しようとしたんだ?」
「最初の時の話だね?君はこの星がどうやってできたかを知っているかい?」
「星と星がぶつかり、その破片が重力によって押し固められたんじゃないのか?」
「........???」
俺の回答に今度はアドムが首を傾げる。
しまった。この世界は地球とは違う法則で動いているのを忘れていた。
地球は星と星の衝突によって長い年月をかけて出来上がった奇跡の星だが、魔法や魔術、神が存在するこの世界では科学的思考は受け入れられない。
俺は慌てて訂正した。
「すまない。今のは忘れてくれ。俺の世界では星々はそうやって作られたと考えられているんだ」
「へぇ、面白い話だね。今度彼にも聞いてみよう。さて、話を戻すがこの世界は元々神々の決戦の地だったんだ。神というのは力が強すぎるからね。ある程度制限をつけた上で、神々の喧嘩場として使われていた........らしい」
「らしい?」
「僕も女神から聞かされた程度なんだ。産まれる前の話の真偽は確かめようが無いだろう?」
それは確かにそうだな。
俺達も宇宙は膨大なエネルギーの爆発によって産まれた(ビッグバン理論)なんて言われていたりするが、真偽は不明だ。
何百億年前の事なんざ、結局は推測でしかない。
「神々の喧嘩は凄まじくてね。相手の命を刈り取るんだ。喧嘩と言うより、殺し合いだね。そして、殺された神々はこの地に眠る。だけど、神の権能は神が死のうとも残るんだ。あまりにも多くの権能で溢れかえった現状を見て、さすがの神々もこれはマズいと感じたんだろうね。権能を管理する為に、女神イージスが管理者を作ったんだ」
なるほど?
ちょっと規模感が大きすぎてピンと来ないが、要は元々殺し合い地だったこの世界は、神の権能とやらを管理する場所に変わったのか。
そして、ファフニールの様な管理者が生まれたと。
ファフニールの野郎。こんな重要な話聞いてないぞ。
相変わらず言葉が抜けている。起きたら説教してやらねば。
「それで、管理者として創造されたのがお前達という訳か」
「話が早くて助かるよ。厳密には少し違ったりもするけど、大まかには合っている。そして管理者は神の権能をその身に宿し、他の権能を管理し始めた。とは言え、神に成り代わった訳では無い僕達では限界がある。だから、僕の子供達にもその仕事を任せることにしたのさ。神の権能の力を分けてね」
アドムの子供。つまり、人間に神の権能を管理させ始めたというわけか。
「それが“異能”や“魔法”。今の人々がそう呼ぶ1つの才能は元々神々の権能なのさ」
「........へぇ、今も人間は権能を管理してんだな」
「その通り。そして、人が管理できる権能の量には個人差がある。同じような異能なのに出力が違ったりするだろう?魔法も同じ。能力の差はその器の大きさに違いがあるのさ」
なるほど。今までなんとも思わず使っていた異能や魔法は、そんな歴史があって今に至るのか。
世界の真相を聞いている感じがしてちょっと楽しくなりかけている俺は、このまま大人しくアドムの話を聞くことにするのだった。
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