the second contact
マルネスと共同歩調を取ることにした俺達は、簡単な情報交換と今後の計画について話し合った。
情報はマルネスが上手くやってくれるらしいので、俺達はできる限り人類が殺されるのを阻止しつつ人類の祖アドムと大魔王アザトースを始末しなければならない。
一先ず話を終えた俺達は、光司と龍二に向けて手紙を送っておいた。
「信じられないだろうな。大魔王アザトースがまだ生きているなんて」
「信じられないだろうねぇ。私達ですらまだ半信半疑なのに、アドムの話すら聞かされず“大魔王アザトースに備えろ”だけ伝わっても困るよ」
「とは言え、俺達も話せることは少ない。マルネスの情報もあくまで向こうの動きが何となくわかるだけだし、戦力がどのぐらいなのかもさっぱりだ。少なくとも、何体かの厄災級魔物が奴らの味方をしているということだけは分かっているけどな」
「大魔術師マーリンがアドム仕込んだ魔術だっけ?バレないように隠蔽に隠蔽を重ねるのにリソースを吐きすぎて、盗み出せる情報がとんでもなく少ないんだとか」
「偉大なる先人様が未来に向けて残したひとつの種だ。その種にマルネスはたった一人で水を注いでいたんだな」
あの飄々とした雰囲気で何も考えてなさそうなマルネスは、たった一人で世界の危機と戦い続けていたんだな。
普通にすごいと思うし、尊敬もできる。
まぁ、それはそれとしてあの変態性は救いようがないので態度は変えないが。
「一先ずやれることをやろう。子供たちに調べさせてはいるけど多分情報は出てこないし、俺達ができるのは戦力増強と戦闘になった場合の作戦だ」
「もしかしたら、ヌーレはこの先の未来を見たのかもねぇ。となると、地下室も早めに作った方がいい」
そう言えば、ヌーレが面白いことを言ってたな。
花音の言う通り、ヌーレはおそらくこの先の未来を見たのだろう。そう考えれば、地下室は早めに作った方がいい。
それも、特大で街の住民全員が入れるぐらいの。
「ドッペルに急がせるか。ヌーレは守らないとな」
「あの子の未来を守る責任が私たちにはあるからねぇ........でも、今日はもう遅いから寝よっか」
「そうだな。さすがに今日は疲れた」
人類の祖、女神への復讐者、マルネスの正体、管理者とバックアップ。
たった一日で世界の深淵を覗いた気分だ。この世界に来てから否、今までの人生の中でいちばん疲れたかもしれん。
俺は花音と一緒に横になると、そのまま闇の中に意識を落とすのだった。
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神聖皇国の大聖堂。その一室では、龍二と光司が頭を抱えていた。
その理由はつい昨日、急に拠点へと帰った親友からよこされた手紙である。
「要点を端折りすぎだろ!!こんなのどうしろってんだ!!」
「大魔王アザトースは生きている........か。龍二君。これは信用できるのかい?」
送られてきた手紙の内容は実に簡素で、大魔王アザトースが実は生きていると言うことだけ。
その後どうするのか、何がどういう経緯でそれを知ったのか。それすらも分からず、そもそもこの手紙の内容が真実なのかも疑わしい。
しかし、龍二は疑っていなかった。
「あいつがこんな所でつまらん嘘はつかん。だが、それは俺があのバカクソマヌケのオタンコナスの事をよく知ってるからだ。何も知らない奴からしたら、何を寝言をの言われんのがオチだよ」
「思いつく限りの暴言を吐くね。僕も信じてない訳じゃないが、証拠がないとどうしようもない」
「全く、俺たちにどうしろってんだよ」
龍二も仁との付き合いは長い。
嘘をついている訳では無いだろうしこの話は真実なのだろうが、大魔王アザトースが生きていると言われただけではどうすることも出来ない。
彼らは軍人であり、この事実を伝えたとしても動くことは出来ないのだ。
「一先ず、信頼出来る奴らにこの事を話そう。聖女様........はやめておくか」
「何故?僕はいいと思うけど」
「子育て中だろうが。赤子の夜泣きにで毎日起こされてんのに、こんな訳の分からん話を持ってこられても困るだろ」
「それは........そうだね。でも、後で知ったら知ったで怒られるのは僕なんだけど」
「それはお前が何とかしろ。頑張れパパ」
「そんなぁ........」
龍二と光司。
この世界に来た異界の人間達は、この情報を元に密かに対策を立て始めるのだった。
嘘ならばそれでいい。だが、この手紙が真実だった場合は、この世界が再び混沌に落ちるのだ。
それを阻止しなければ、平和な世は訪れない。
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目が覚めると、そこは白い何も無い空間だった。
1人ぽつんと何も無い空間に立ち、静かな時だけが流れる。
あれ?おかしいな。俺はついさっき花音と一緒に寝てたはずなのだが。
あれか。夢か。
今回は人生初の体験が多いな。夢の中で夢だと気づくアレだろう?
確か“明晰夢”とか言うやつ。
初めての体験に少しだけ感動していると、俺の背後から声をかけられた。
「やぁ」
その声に振り向けば、一人の男が。
短めの白髪と青い透き通った目。身長は170cm程で、俺よりも少し高い。
初めて見る相手なのに、俺は何となくこいつを知っているような気がした。
以前もどこかであったような、そうでないような。
記憶の底から頑張って思い起こしてみるものの、やはり何も思い出せない。
「えーと、無言のままだと流石に困るんだけど」
「お前は........お前は誰だ?」
「うんうん。ちゃんと話せるね。君の魔力は大きすぎる上に干渉を容易く弾くから、もしかしたら上手くいってないのかと焦ったよ。初めまして。そして久しぶり。僕は──────────」
その男は僅かに笑う。
今から面白いことが起ると言わんばかりに。
その不気味さは、なんとも言えない妙な感覚だった。
だが俺の本能が言っている。
“こいつが、コイツこそが──────────”
「──────────アドム。又の名を人類の祖にして怠惰なる管理者さ」
“──────────俺たちの敵”なのだと。
一話目のタイトル伏線回収。これがやりたいが為に600話以上書いたといっても過言ではない。
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