よろしい、ならば戦争だ

 

 ファフニールから聞き出した話は、どれも規模が大きく驚くものばかりだった。


 世界の管理者という訳の分からん役職はもちろんのこと、人類の祖アドムとニヴの話、ファフニール以外の管理者の話、創世記と呼ばれる全てが創造された時の話。


 どれもが御伽噺のようなものであり、聞いている俺達では到底理解できない世界の神秘がそこには眠っている。


 「要は女神イージスはこの世界に干渉できるにはできるものの、生殺与奪の権は握って無いと?」

 「そういうことだ。女神イージス様はあくまでもこの世界を外敵から守るのが仕事。この星の管理は我らの仕事というわけだ」

 「........どうしてファフニールはその職をおりたの?聞いていた話、ファフニールはちゃんと仕事をしていたみたいだけど」

 「フハハ。我らよりも優秀な管理者を見つけたからだ」


 ファフニールはそう言うと、天を見上げて欠伸をする。


 ファフニールの話を聞く限り、多少問題こそあれどファフニール達は仕事をしていた。


 人類の祖アドムとニヴは最初からダメダメだったらしいが、少なくともファフニールや他の原初の竜が解雇されるとは考えにくい。


 と言うか、ファフニールってちゃんと仕事してたんだな。


 うちの傭兵団での生活を見ていると全く仕事ができる様には見えないが。


 「神のなり損ない“亜神”。奴らが管理を名乗り出たのだ。女神イージス様はこの世界に干渉する事が難しいが、なり損ないなら簡単に出来る。しかも、その力は我らよりも優れているとなれば、そちらに任せるのが筋というものだろう?」

 「まぁ、アドムとニヴのことを考えたら、もっと優秀なやつに任せたいわな」

 「それが精霊だ。精霊はこの世界の全てを管理できるだけの力があり、何より数が多い。精霊は世界の管理者なのだよ」


 へぇ、何となく当たり前と思っていた精霊もそんな背景があるのか。


 イスと仲のいいサラも、ファフニールと同じ“管理者”ということになるのだが、多分サラは何も知らないんだろうな。


 あの子、自由奔放だし。


 「精霊の出現により、我ら原初や人類の祖は精霊が滅んだ時のバックアップとしてこの世界を生きている。アドム達に関しては、普通に邪魔者扱いされていたがな」

 「精霊ってすごいんだな........と言うか、なんでこういう事を話してくれなかったんだ?」

 「聞いてこなかっただろう?それに、アドムに関しては話したくなかった。やつのことは嫌いだし、下手をすると団長殿を巻き込むことになったからな。残念ながら、話さずとも巻き込まれてしまっているが。団長殿、厄災の星の元にでも生まれたのか?少し暇になったと思えば、また巻き込まれているとは愉快だな」

 「出来れば俺も平穏に暮らしたいよ。残念ながらそれを許してくれる世界ではないって事だ」

 「フハハハハ!!世界に好かれているのか嫌われているのか分からんな!!ともかく、我としてはアドムとの敵対を選んだ方がいいと伝えておこう。女神を殺すなんぞできやしない。そもそも生命体としての格が違いすぎるわ」

 「ならほったらかしてもいいんじゃ?」

 「恐らくダメだな。女神の力の源は人々の信仰心。奴らは間違いなくその力を削ぎ落とすために人々を殺し回るぞ」


 ファフニールの話を聞くに、女神イージスはファフニールの生みの親。


 ファフニールは女神イージスをかなり好いている傾向があるし、もし女神と敵対する道を選べばファフニールは俺達の敵となるだろう。


 本音を言えば、この争いに関わりたくない。しかし、関わらざるを得ない。


 ファフニールの話を聞くに、女神イージスはこの世界を外敵から守ってくれているそうだ。


 八百万の神という言葉がある通り、神がごまんといる(らしい)世界で神の庇護下にない星はほかの神によって管理される可能性がある。


 その神様が心優しい神ならともかく、邪神のような相手であればこの星に存在する生命は全てが滅ぼされるだろう。


 俺は平穏を望むし、新たな神様をガチャする気は無い。


 女神イージスに恨みなんてないしな。だからといって、守ってやる義理もないのだが。


 出来れば静観していたい。が、俺達が今まで関わってきた人々が殺されるとなれば動かざるを得ない。


 「そうか、信仰心が力となるなら、信仰する人々を殺せばいいのか........となると、新たに神の首がすげ変わる前にこの世界が滅ぶな」

 「出来れば関わりたくないけどねぇ........下手したら龍二やアイリスちゃん、リーゼンお嬢様なんかも死ぬとなると戦わないといけないねぇ」

 「マルネスもそれをわかった上で協力を申し出たんだろうな。お師匠様が愛した世界を壊す訳には行かないと言うわけだ。この世界は人々の集まりによって形成されているからな」

 「となると、アドムとの敵対は確定的だねぇ。向こうから接触があった場合、仁はNOと答えれる?」

 「向こうの条件次第なところもあるが、ファフニールのことを考えればNO以外に選択肢がない。俺、なんやかんや言ってファフニールのことも好きだからな」

 「フハハ!!照れるではないか!!もし、敵対を選ぶというのであれば、我も持てる限りの力を貸そう。かつての同僚たちにも声をかけてやる」


 ファフニールはくねくねと尻尾を揺らしながら、嬉しそうに吠える。


 その姿は、飼い主に褒められて喜ぶ犬の様だった。


 ファフニールは嬉しそうにしつつ、俺たちの後ろに視線を向ける。


 先程から盗み聞きしていた手癖の悪い団員たちに向かってニッと笑うと、ファフニールは声を張り上げる。


 「フハハハハ!!皆もそれでいいな?次の我らの仕事は、女神イージス様を守りこの世界を救うことだ!!」

 「話を聞く限り、私達もあの島に勝手に呼ばれたのよね?ならぶち殺す理由もあるわ」

 「hya!!団長さんたちに会えた事は感謝していますが、それとこれとは話が別デース!!ぶっ殺す」

 「私達は団長さんが決めた命令に従う。それが私達のあり方」

 「我々は団長さんの奴隷なので。どのようなご指示でも」

 「お酒飲めなくなるのは困るから、私も戦うよ。ね?ラファ」

 「そうだねー。シュナがお酒が飲めずに悲しむ姿は見たくないかも」


 ゾロゾロと森の奥からやってくる団員達。


 気づけば、全員がこの場に集まり、それぞれの思いを口にしていた。


 厄災級魔物達は監獄に呼ばれた事への怒りを、三姉妹や獣人組は俺と傭兵団への忠誠を、天使組は酒のため。


 その思いはそれぞれだが、この傭兵団の意思は固まった。


 「よろしい、ならば戦争だ。どこぞの女神に変わって、俺達が神の鉄槌を振り下ろしてやろう」


 俺はニッと笑うと、そう言う。


 巻き込まれたとはいえ、戦争は戦争。


 俺達、戦争屋傭兵が輝く時だ。

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