世界の管理者

 

 マルネスから規模のでかい話をされまだ微妙に頭が混乱する中、俺達は1度拠点へと帰ってきていた。


 マルネスから協力を要請された案件は、明らかに俺の判断だけで決めていいものでは無い。


 マルネスの口ぶりからするに、相手はとてつもなく強い相手であり下手をすれば団員を死なせる可能性もある。


 先ずは色々と知っていそうなファフニールに話を聞いてみるべきだ。


 「あら、おかえりなさい。その様子からすると、マルネスとやらは殺さなかったのね」

 「ただいまアンスール。別に敵では無さそうだったからな........今後の展開次第ではあるけど」

 「ただいま。所でファフニールはいる?」

 「居るわよ。子供達の隠密がバレていた事を知って、警戒しているみたい」


 ファフニールも子供たちの隠密能力がどれほどのものか知っている。


 ファフニールですら警戒に値するマルネスは、ある意味すごいな。


 「どこにいる?」

 「いつもの場所よ。寝転がってはいるけど、警戒心がものすごく強くなってたわね」

 「ありがとう。ちょっと行ってくる」

 「........何かあったみたいね」

 「後で話すよ。ファフニールに色々と確認することがあるから、それが終われば皆にも話す」


 アンスールはクスッと笑うと、俺と花音に軽いハグをする。


 その腕の中の温かさは、もう会えない母親の温もりを感じた。


 「久々にハグしたけど、貴方たちは暖かいわね」

 「アンスールの腕の中ほどじゃないさ」

 「急にどうしたの?」

 「何となくそうしたくなっただけよ。ほら、さっさと行くといいわ。急ぎの要件なんでしょ?」


 少しだけ頬を赤らめて“あっちに行け”と手を振るアンスール。


 なんだろう。すごく可愛いんだけど。


 アンスールもこんな表情できるんだな。


 花音も同じことを思った様で、少し驚いている。


 やはり俺たちの中にあるアンスールのイメージは“ママ”なんだよなぁ。


 「アンスールにしては珍しい顔だったねぇ。ちょっと可愛かった」

 「だな。普段冷静なだけに、ちょっとギャップ萌えがあったな」


 そんなことを話しながら、拠点の中でも少し開けた場所に足を運ぶ。


 ファフニールが拠点に居る時に良く寝床として使っている広場には、アンスールに言われた通りファフニールが警戒心剥き出しで目を閉じていた。


 俺がかなり慌てて全員を呼び出した為か、ファフニールもただ事ではないと思ったのだろう。


 普段はあんなに自由人なのに、今回ばかりは真面目である。


 「子供達の監視がバレていたそうだな」

 「おはようファフニール。そうなんだよ。しかも、ご丁寧に伝言を残してね。まぁ、そっちについては今は問題ない。問題は、その伝言主から告げられた話だ。ファフニール、“人類の祖”アドムって知ってるか?」


 俺がその名を口にすると、ファフニールは目を軽く見開く。


 その反応で知っていることは明らかだったが、僅かに殺気を感じる辺り少し不安だ。


 アドムとはるか昔に何か確執があるのかも知れない。


 「団長殿の口からその名が聞ける日が来るとは........長生きはするものだな」

 「知っているのか」

 「知っているも何も、アドムは女神イージス様の手によって作られた最初の人間だ。我と同じく、管理者としてな」

 「........ん?ファフニールと同じ?」

 「そうだ。我も女神イージス様の手によって想像された最初の竜であり、“炎”を司る管理者だったのだ。今は既にその地位を降りているがな」


 それは初耳である。


 ファフニールって女神の手によって想像された竜だったのか。そして、“炎”の管理者だったと。


 ........そもそも、管理者ってなんだ?


 おそらく炎を管理するのが仕事なのだろうが、炎を管理すると言われてもピンと来ない。


 俺はファフニールに疑問をぶつけることにした。


 「なぁ、ファフニール。管理者ってなんだ?」

 「管理者は管理者よ。そうだな........例えるなら焚き火の炎を維持しているような感じだ。実際には違うが、焚き火の炎を消さず、他の場所に飛び火させず管理する。そんな感じだと思ってくれればいい」

 「なるほど。何となく分かった。んで、マルネス曰く、そのアドムと愉快な仲間達が女神イージスに復讐を果たさんと動き始めたらしい。討伐したと思われた大魔王アザトースまで引き連れてな」

 「奴のやりそうな事だな。追放楽園は団長殿の手によって破壊され、自由に動けるようになったのが原因か?」


 うん。この話し方から察するに、追放楽園は俺達が流されたあの島で間違いなさそうだな。


 女神イージスの怒りを買ったアドムとニヴが追放された孤島。霧の結界によって覆われ、脱出不可能の世界。


 あそこの名前を“追放楽園”と呼ぶらしい。


 「追放楽園っていう俺たちが居たあの孤島だよな?」

 「そうだ。アドムとニヴの怠惰によって管理を怠り、更には神の如く己を振舞った罰があの地だ。奴の能力を考えるに、我らもやつによって呼び出されたのだろうな」

 「あの島に俺たち以外の人を見たことがないって言ってたのに........」

 「見たことは無いぞ。どこに隠れていたのかは知らんが、姿は見ていない。我は奴らの事が死ぬほど嫌いだからな。出逢えば殺されるとでも思ったのだろうよ」


 ガハハと笑うファフニール。


 ファフニールはアドムのことが嫌いなのか。


 多分、話にも出したくないほど嫌いだったんだろうなぁ........それはともかく、少し気になる話をしていたな。


 「能力によって呼び出されたって?」

 「やつは運命に干渉できる。使い方次第ではあるが、他人の運命に干渉すれば自らが望む行動を取らせることも可能なのだ。もちろん、万能では無いが........敵対するならば気をつけた方がいい。幾ら団長殿とはいえ、危険だ」

 「運命に干渉って事は、俺達があの島に流れ着いたのも偶然ではなくて必然と言う訳か。ファフニールや他の厄災級魔物達も?」

 「恐らくそうだろうな。我が追放楽園に来た時は怒り狂ったものだ。島を全て破壊しようかとも考えたが、流石に女神様のお造りになられた監獄を破壊する気にはなれなくてな........」


 なるほど。俺達もアドムに呼ばれてあの地へと流れ着いたのか。


 俺は運良く女神の結界を破る術を持っていたから良かったものの、もしこの能力に目覚めることがなければあの島に閉じ込められていたのだろう。


 なんだか少しイラついてきたぞ。人の人生に勝手に干渉した上に、ちゃっかり脱獄に成功しているのだから。


 マルネス曰く、向こうからの接触があるらしい。


 その時は文句の一つや二つ言ってやるとするか。いや、もう殴ってもいいかもしれん。


 俺はそんなことを思いながら、ファフニールに聞きたいことを聞き続けるのだった。

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