女神の敵

 

 大魔術師マーリン。


 人によっては大賢者とも呼ぶその人の名は、かつて魔術の基礎を作った偉大なるい人である。


 まだ人類が異能トレント魔法しか使えなかった時代、かの大魔術師はその異能と魔法を再現しようと魔術という新たな力を生み出した。


 そして彼の魔術は様々なことに利用され、彼のいた国は大国へと成り上がったのである。


 しかしながら、形あるものいつかは崩れる。数万年ほど前に国は消滅し、大魔術師の名前と滅んだ国だけが残るようになっていた。


 そんな魔術師の弟子を名乗るマルネス。彼女が嘘を言っているようには見えないが、疑問が多く残る。


 「マーリンが高弟?かの大国は数万年前に滅んだし、マーリンも相当前に亡くなった人だと聞いたが?」

 「どう考えても年齢が合わないねぇ。ついに妄想癖まで出てきちゃったのかな?」

 「こんな所でつまらん嘘はつかないよ。私は本当に偉大なる大魔術師マーリンの高弟さ。今の今まで生きているのは、お師匠様と兄弟子の2人が私にとある魔術をかけたからだ」


 マルネスはそういうと、服をめくって背中を見せる。


 その背中に描かれていたのは、魔法陣だった。


 幾何学的で綺麗な魔法陣ではあるが、俺が知っている魔術のどれにも当てはまらない魔術。しかも、相当手の込んだ魔術であり、ご丁寧に隠蔽までしてあるのがわかる。


 魔術を使っていれば魔力の流れが見えるはずなのに、全くと言っていいほど見えなかった。


 「この魔術はお師匠様と兄弟子達が生涯をかけて作った“老化を止める”魔術だ。このおかげで私は今の今まで生きてこられている........消費魔力が多すぎて、本来の力の10分の1も出せないけどね」

 「........老化を止める魔術なんてあるのか。明らかに失われた古代技術ロストテクノロジーだな」

 「結界や転移系魔術なんかもロストテクノロジーだもんねぇ。しかも、それよりもさらに上の魔術だよ。複雑すぎて再現が難しそう」


 とんでもない代物が出てきたものだ。老化を止める魔術。


 世界各国に散らばる権力者たちが、喉から手が出るほど欲しがりそうである。


 マルネスの言う通りの魔術ならば、確かに何万年という歳月を生きていけるだろう。


 ロリババアロリババアと言ってきたが、本当にロリババアだとは思わなかったが。


 「とりあえず、マルネスがロリババアなのは分かった。で?マルネスが止めなきゃ行けない相手って誰だよ」

 「前に言っただろう?“人類の祖”、そしてやつが集めた愉快な仲間たちだ」


 ここでその名が出てくるのか。


 以前は相当警戒しながらこの名を告げたが、今は警戒はしているものの以前ほどでは無い。


 この名を聞かれても問題無くなったのか、それともマルネスを監視する何かが消えているのか。


 一先ず、俺はマルネスの話を聞き続けることにした。


 「人類の祖、その名もアドム。この世界に散らばる人類の最も最初の人だ。女神イージスによってこの世界の管理者として作られたと、お師匠様は言っていたよ」

 「........聞いた事の無い名前だな。この世界最初の人間ならば、歴史の書に乗っていてもいいと思うんだが?」

 「女神イージスに創造されたなら、確かに文献に乗ってても良さそうだよねぇ。私達は別世界の人間だからともかく、この世界の人々からしたら父親同然ってことでしょ?」


 この世界は女神イージスへの信仰心が厚い。


 女神イージスが直接作りだした人間ならば、その話がどこかにあっても不思議では無いのだが、そんな話を聞いたことなど1度もなかった。


 「それには理由があるんだよ。人類の祖アドムとその妻ニヴは、女神の怒りを買ったと語っていたそうだ。理由は........ちょっと忘れちゃったけど、女神の怒りを買った2人は管理者から外されてこの世界のどこかに封印された。確か追放楽園とか言ってたかな?女神が直接張った迷いの結界によって、霧の中から外に出られないらしい。女神は制約によって生命を殺傷することは出来ないと聞くし、これが精一杯できる処置だったんだろうね」


 追放楽園。


 聞いた事の無い楽園だな。ただ、ちょっとだけ心当たりがあったりする。


 俺が迷い込んだ島。確か霧に覆われて脱出できなかったよな?もしかして、あそこって追放楽園だったりする?


 「ねぇ、仁。私、その追放楽園に何となく心当たりがあるんだけど」

 「奇遇だな花音。俺もだ」


 そりゃ普通に脱出しようとしてもできないわけだ。神の力を持った者が貼った結界を何とかするのは無理がある。


 俺の異能が結界を壊せたから良かったものの、結界が壊せなかったらやばかったかもしれん。


 と言うか、追放楽園にアドムなる人物が居るとか聞いたことないんだが?


 またファフニールのやつがなにか隠していたに違いない。後で問いただそう。


 「その人類の祖が俺たちの敵になると?」

 「正確には女神の敵となる。私は女神がどうなろうが知ったこっちゃないが、この世界は女神の管理の元で何とか回っているんだ........実感はないだろうけどね。そして、人類の祖たるアドムと女神に恨みを持つ1部の者達が女神を殺そうとしているのさ。私のお師匠様も話をもちかけられたと言っていた。だから、女神によって消された存在を知っているし、奴らの目的も知っている。お師匠様は女神を死ぬほど嫌っていたからね」


 女神に追放され、女神を殺す。


 俺も似たような事をした覚えがあるから人のことを言えないが、アドムと言う奴も主人公してんな。


 なろう主人公かよ。


 「で、その人類の祖が動き始めたから俺達にも止めるのを手伝えと?」

 「そうだ。私もある程度の戦力はあるけど、ハッキリ言って勝てるとは思えない。私達には君たちが必要なんだよジン。女神イージスのために働くのは癪だろうが、女神イージスが死ねばこの世界は滅ぶ」

 「........少し考えさせてくれ」


 これだけ大きな案件を、俺一人で同行するのは難しい。


 ファフニールに聞きたいこともあるし、1度団員に話を聞いた方が良さそうだ。


 微妙に頭の中がこんがらがってるしな。


 「分かった。できる限り早い決断をしてくれ。きっと向こう側からも接触がある。どちらを選ぼうとも、私は君を尊重しよう。敵となれば殺すけどね」

 「ハッ!!出来もしないことをよく言うぜ」


 俺はそう言うと、花音を連れて店を出る。


 まだ細かい話を聞こうと思ったが、今は皆に話を聞こう。


 これは、傭兵団皆で決めた方がいい案件だしな。

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