謎多き魔道具士
神聖皇国で龍二達に結婚を祝福された翌日。
本来ならば知り合いに顔を見せに行ったり観光をしたりするつもりだったのだが、それを辞めて急いで拠点に戻っていた。
その理由はアゼル共和国のバルサルに住む魔道具士、マルネスが原因である。
かなり優れた魔道具を作る人であり、中身は大分変わっているものの個人的には面白いと思っていたあのロリババァ。
しかし、慌てた様子で報告してきた子供達によるとどうも子供たちの存在に気づいていたと言う。
しかも、意味深な言伝を残して。
「昔から何かと謎が多かったやつだが、ここに来て隠そうとしなくなったな。“世界が滅ぶ。はよ来い”か........マルネスは一体何者だ?」
「そう言えば、私達が異世界から来た勇者である事も知ってたよね?.......ダークエルフの肌の色を隠す魔道具も見抜いてたし、只者では無いとは思っていたけど」
「まさか子供達の監視にまで気づいていたとはな。今までそんな素振りを一切見せてこなかっただけに、不気味で怪しい」
マルネスには不審な点が多い。
子供達でも調べられない経歴。長年バルサルの街に住んでいるマルネスだが、彼女はバルサル生まれの魔道具士ではない。
ある時ふらっと現れて、バルサルに住み着いているのは分かっている。
が、それ以前の足取りが全く掴めないのだ。
以前にもマルネスを怪しんで子供達に色々と調べさせたが、結局分かったのはバルサルに住み始めて以降の話だけである。
しかも、彼女はバルサルから出ていないというのに俺達が異世界から来た勇者だという事も知っていた。
まさか拠点に何か仕掛けられているのではないかと、厄災級魔物達まで使って調べたが何もなし。
痕跡すら見当たらなかったのを覚えている。
しかし、マルネスはここに来て正体を現した。
今までの関わりから敵ではないだろうが、油断はできないな。
「一旦拠点に帰ってから情報を精査しよう。黒百合さん。二日酔いのところ悪いが、手伝ってもらうぞ」
「分かってるよ。私の居場所が脅かされているんだもんね........おえっ、キモチワルイ」
「今までラファちゃんに甘えてきたツケが回ってきたねぇ。これを機に少しはお酒を控えたら?」
「それは無理。お酒は私の生き甲斐」
「生き甲斐って.......昔なら考えられなかったセリフだな」
「今は今、昔は昔だよ仁くん」
マルネスのことを色々と考えてはいるが、結局のところ本人に聞かなければ真相は分からない。
万が一に備えた対策だけは立てつつ、イスの世界で待つこと2時間。遂に世界の霧は晴れて拠点に戻ってきた。
拠点に戻ると、いつものようにアンスールが出迎えてくれる。
緊急事態だと言うのに、相変わらず優しい笑みを浮かべて微笑んでいた。
「おかえりジン、カノン、シュナ。シルフォード達が今までに見た事がないぐらい慌ててたわよ」
「だろうな。今まで見つかってないと思っていたものがバレてたんだ。しかも、ご丁寧に言伝まで残していやがる。俺も慌ててるさ」
「そう。もし私の力が必要なら言いなさい。どんな状況になろうとも、一度だけなら全てをひっくり返せるから」
「もしもの時は頼むよ。ほかの厄災達にも伝えておいてくれ。すぐに動ける状況にしておけってな」
「えぇ、分かったわ。シルフォード達は仕事場に居るから、混乱を上手く収めてちょうだい。慌てすぎて見ているこっちが心配だわ」
「分かった。ありがとうアンスール」
ほんと、いつになってもアンスールには頭が上がらない。
俺はアンスールに礼を言うと、急いで宮殿内にあるシルフォード達の仕事部屋に足を運んだ。
黒百合さんだけは二日酔いでまともに動けないので、彼女は放置だ。
いつものようにラファエルが何とかしてくれるだろう。
俺は仕事部屋の扉を開き、ドタバタとしている獣人組とダークエルフ姉妹に声をかける。
「状況は?」
「だ、団長さん。私達は後でいいから、ベオークを止めてきて!!」
「........ん?ベオークがどうした?」
「マルネスを監視していた子供たちに向かって相当お怒りなんだよ!!私達が止めようと必死になったけど、言うことを聞いてくれない!!厄災のみんなも“ベオークに任せる”って言って止めないし!!」
「.......厄災共め。さらわぬ神に祟なしってか?」
「ベオークが怒るって相当だねぇ。急いだ方がいいかも」
「あぁもう!!仕事を増やしてくれる」
シルフォード達から状況を聞きたいというのに、ベオークの奴が仕事を増やす。
ベオークはこの仕事にかなり誇りを持っていたから、その誇りを汚した子供たちが許せないのだろう。
しかし、今回ばかりは子供達が悪いと言うよりもマルネスが1枚上手だったという話だ。
それに、マルネスと話していて何も気づけなかった俺たちにも責任はある。
「ベオークの場所は?」
「シャー」
「屋上か。てっきり暗い部屋で叱っているのかと思ってた」
「闇の中に入って怒られてたら止めようがないからねぇ。それも気づけない辺り、相当おかんむりなのかも」
「かもな」
俺は急いで屋上に登ると、激怒しているベオークとそれに怯える子供達が見えてくる。
ベオークの方が体格は小さいはずなのだが、今回ばかりはその背中が大きく見えた。
「ベオーク、ストップ」
『ジン、邪魔』
「ベオーク?今は怒ってる場合じゃないし、怒られるようなこともしないよ。ヘタこいた訳でもないし」
『バレた時点でヘマしてる。いいから黙ってて』
ここまで口答えするベオークも珍しい。本当に滅茶苦茶怒っているんだな。
俺は何とかベオークを落ち着かせようと、ベオークを持ち上げて優しく頭を撫でる。
ベオークは少しだけ怒りが納まったのか、殺気が僅かに和らいだ。
『........こんな事でワタシを落ち着かせようとしても無駄』
「分かった分かった。怒るのは後でいいから、今は状況を知りたい。冷静になってくれ」
『........分かった』
「いい子いい子。ベオークはやればできる子だからねぇ。優先順位を間違えないようにしないと」
『バカにしてるだろカノン』
「バレた?こんなにご立腹なベオークなんて中々見れないからねぇ。少しはおちょくってあげないと」
『後で覚えておけ。寝てる時にシャーシャー吠えてやる』
「地味に嫌な嫌がらせだな........」
いつも通りに戻ったベオーク。
俺は怒られていた子供達にベオークに見られないよにこっそりと親指を立て、ベオークを連れて帰るのだった。
子供達も大変だな。
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