赤ん坊は最強

 

 その後もしばらく光司達と話し込んでいた。


 赤子と言うのはとても可愛く、軽くほっぺたを突けばキャッキャと笑うし泣いたりもする。


 この不自由さと丸い顔が可愛さを引き立てるのだろう。気づけば、この部屋のアイドルはコーラン君になっていた。


 「へぇ、帝国や聖王国のお偉いさんと話したりもするんだな。やっぱり世界を救った勇者様は大変だ」

 「僕と縁を結びたい人は多くてね。側室を付けようと企む人も多い。ほんと、勘弁願いたいよ」

 「神聖皇国は一夫多妻制って訳でもないけど、偉い人は一夫多妻をするみたいだしねぇ........」

 「日本の価値観を持つ僕たちにとっては迷惑極まりない話だよホント。政治とか興味無いし、僕はリアンヌとコーラン以外の人を愛するつもりは無い」


 サラッとかっこいいセリフを言い放ちながら、うんざりとした顔をする光司。


 10年近くこの世界で生きてきたとはいえ、生まれてからずっと培ってきた常識を今更書き換えようとは思わない。


 光司は勇者という立場があるので、聖女様と結婚してからも“側室にうちの娘はどうか”という話が入ってくるのだとか。


 「光司が望めばハーレムか。多くの男は羨ましがるだろうな」

 「そうとも言えないよ。ほかのクラスメイトにも色々と話が行くんだけど、家庭を持つクラスメイトの人達はそういう話を断るんだ。やっぱり、生まれながらの価値観っていうのは簡単には変えれられないらしい。仁君も龍二君も、話が来たら断るだろう?」

 「当たり前だな。側室や愛人を作ってみろ。アイリスに殺される未来しか見えんし、俺はアイリス以外に興味が無い」

 「それ、本人に言ってやれよ。俺も花音以外には興味無いな。友人としてならともかく、恋愛対象として他の人を見れない」

 「だろう?妄想ではハーレムを語ってたクラスメイトもいたけど、現実になると案外手を出さないものだよ」


 まぁ、ハーレムって実際にやったらくそ面倒そうだしな。


 男は楽しいかもしれんが、女の方はバチバチにやり合うことになるかもしれん。下手をすれば殺し合いに発展するだろうし、それを上手くコントロールなんてできるわけもない。


 ハーレム系の小説の様に上手くいくのは、あれが創作物だからだ。


 リアルハーレムとか面倒以外の何物でもない。


 「ラブラブだねぇ........お、指を掴んだ」

 「面と向かって言われると恥ずかしいですね。でもちょっと嬉しいです」

 「アイリスちゃんも連れてこようかな?きっと文句を言いつつも照れるアイリスちゃんが見られるよ」

 「それはいいですね。あの人、外ではかなりお堅い人ですから」

 「呼んでくるの?」

 「いやいいよ。イスもいつかいい人を見つけるのかね?」

 「私はパパとママ以外に興味はないの。傭兵のみんなは好きだけど」

 「ふふっ、イスちゃんみたいに親が大好きな子に育って欲しいですね」

 「難しいと思うよ。男の子だから反抗期とか来ると思うし“うるせぇクソババァ!!”とか言いかねない」

 「あら、そんなこと言った日にはお仕置待ったナシです。折檻部屋に閉じ込めて反省するまで出しませんよ」

 「聖女様、殺気が漏れてる漏れてる。コーランちゃん泣いちゃう」

 「おっと、想像しただけでちょっと怒れてきちゃいました。やっぱり、素直でいい子に育って欲しいですね」

 「全くだよ。イスほど優秀なら文句なしだよねぇ」


 俺たちの会話を盗み聞きしながら、遊び疲れたコーランに癒される花音と聖女様達。


 その会話は少し不穏で、ちょっとだけコーラン君が心配である。


 「光司、コーラン君に怒れるのか?」

 「........た、多分?」

 「無理だろ。光司、滅茶苦茶コーランに甘いからな。怒るのは聖女様の役目になると思うぞ」

 「そうして“ママ嫌い!!パパ大好き!!”になるのか........策士だな」

 「ちょ、馬鹿な事を言わないでくれよ。僕も怒らなきゃ行けない時は怒る」

 「どうやって?」

 「こう、“コラー”って」


 そう言いながら、少しだけ目付きを鋭くして腰に手を当てる光司。


 その姿は全くと言っていいほど怖くなく、むしろちょっと可愛かった。


 イケメンで可愛いとか反則か?コイツ。


 やはり神が生み出した勇者様の見た目は完璧である。


 「無理だな。聖女様に全てを任せよう」

 「光司、お前親向いてないよ」

 「えぇ!!結構真面目にやったんだけど?!」


 こうして、赤子の誕生を祝いつつこの日は過ぎていくのだった。


 ちなみに、御祝儀として白金貨を五枚ほど渡したのだが、後日“多すぎ”と怒られることとなる。


 なんか俺、毎回御祝儀で怒られてる気がするのだが、気のせいか?


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 深く闇の中に沈むもの達。


 何万年という月日がたった今、彼らは遂に表舞台に姿を表そうとしていた。


 「必要な者は揃った。出来れば欲しい物もいくつかあったけど、まぁ、なくても問題ない」

 「ってことは、ついに動くのか。待ち遠しかったぜ」

 「あぁ、僕達の復讐劇が始まるんだ。彼らにも協力を仰ぎたいが、それよりも先にやるべきことがある」


 影はそう言うと、集まった者達を見渡す。


 この場に悪魔はいない。彼らは既に仕事の配置に着き、影の命令を今か今かの待ち望んでいる。


 手始めは小さな村から。女神の目を欺けるだけ欺き、できる限り戦力を落とすのが目的である。


 「先ずは行動で示さないとね」

 「もし、敵対の道を選んだらどういたしましょう?」

 「敵対するとなれば容赦はしない。追放の楽園に居た者達に勝てるだけの戦力も整えた。全部は無理だったが、かなりの戦力になっている。たとえ世界最強と持て囃されようとも、僕たちの価値は揺るがない」

 「勇者は我がやろう。2500年前の借りをやつに返させてもらう」

 「........目の前にいるだろうに」

 「こやつは今は同士それに、中々に話せるやつだ。我はこの世界で唯一この人間だけは気に入っている」

 「いや、もう人間じゃないんだけどね?まぁ、いいけど」


 魔王も復活し、力もかなり取り戻した。


 できるなら一撃で全てを終わらせたいが、その動きは女神に察知される。


 となれば、バレない程度にコソコソと頑張る他ない。


 影はゆっくりと両手を広げると、ニッと笑って宣誓した。


 「では始めよう。僕達の復讐劇。あの傲慢なる女神に鉄槌を下す時が来た!!観客は、この世界に生きる全ての生命だ」


 この日、とある田舎村は壊滅し、闇に蠢くもの達が動き始めた。

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