5年ぶりの親友
新米兵士に疑われるという小さなトラブルこそあれど、俺達は無事に大聖堂に入ることが出来た。
既に暴食の魔王から受けた被害も復興し、以前よりも神聖さが増したかのように思えるこの大聖堂内を歩き龍二とアイリス団長を探す。
場所は既に子供達が把握しているので、見つけ出すのはさほど時間がかからないだろう。
「そういえば、結婚してから龍二に会うのは初めてだな」
「5年ぶりだもんね。龍二、かなり怒ってそう」
「間違いなく怒ってるだろうな。身内だけの結婚式に呼ばなかったし」
龍二達には、俺と花音が結婚した事を手紙でしか伝えてない。
厄災級魔物が10体近くも居るような傭兵団の結婚式に龍二だけを呼ぶ訳にも行かず、更には魔物として扱われるダークエルフまで居るのだ。
明かしてはならない秘密が多すぎて、呼ぶに呼べないのは仕方がない。
その後は、学園の教員として仕事に忙しく、神聖皇国に訪れる機会なんてなかった。
龍二達が先に結婚せず、俺たちが先に結婚してたらこういう事にはならなかっただろうにな。
さて、そんな訳で親友からの愛ある拳に怯えながらも子供たちに連れられてやってきたのは、普段龍二達とよく話す部屋。
どうやらここにいつものメンバーがいるらしい。
俺はコンコンと2回ノックすると、部屋の中から声が聞こえてきた。
「誰だ?」
俺はその問に答えるかのように扉を勢いよく開ける。
さぁ、5年ぶりの再開だ。
「やぁやぁ、元気にしていたかい?我が親友よ」
「........仁じゃないか!!久しぶりだな!!」
「お?これは予想外過ぎる来客だ。世界最強様のお出ましとはな」
「バカ弟子が来るとは........と言うか、来るなら一報ぐらい寄越せ」
「ふん。相変わらず成長しない弟弟子だ」
俺達を見て即こちらに駆け寄ってくる龍二と、それを見ながら俺たちの来訪に驚くアイリス団長達。
両手を大きく広げて出迎えてくれた龍二にハグをし返すと、龍二は離れる瞬間に割と勢いのいいボディーブローを俺に放ってきた。
「ゴフッ........何すんだよ」
「いやー、お前らに出会ったら1発殴ろうと思ってな。その薬指にハマったリングはなんだ?ん?俺はそのことを祝った覚えは無いぞ?」
「呼んでないからねぇ」
「呼べよ!!もう20年近くも親友やってんだぞ?!いつ結婚すんのかなって楽しみにしてたのに、俺をハブるんじゃねぇ!!」
「仕方がないだろ?龍二達まで呼ぶとウチの傭兵団の拠点とかバレるし、何より話せない情報が多すぎる。俺だって出来れば龍二やアイリス団長も呼びたかったけど、我慢したんだ」
「なら二回開け!!その後5年近くも音沙汰なしになりやがって。死んだとは思わなかったが、寂しかったんだぞ!!」
「龍二、面倒臭い女の子みたい」
「花音、シャラップ!!」
久々に会えたことで怒りを爆発させる龍二。
しかし、その怒りに嫌な感情は入っておらず、顔は笑顔であった。
口では怒りつつも、龍二の周りに流れる雰囲気は暖かい。やはり、デキル男はひと味違うな。
「リュウジのヤツ、お前達が結婚したのを知ってから煩かったんだぞ?嫁であるわたしが嫉妬するぐらいには、お前達のことを毎日呟いてた」
「それを私に相談しに来る団長の相手をさせられる私の気持ちにもなって欲しいですけどね。おいバカ弟子。お前のせいで私も苦労したんだぞ」
「いや、それは知らないですよ師匠。師匠はいい加減相手を見つけては?」
「........随分と生意気な口を聞くようになったな。全く、誰に似たんだか」
「師匠のお陰ですよ」
「おい!!弟弟子!!師匠に失礼な態度をとるんじゃない!!」
「はいはい。ニーナ姉も元気そうでなによりですよ」
何年経とうと仲の良さそうな二人を見ながら、俺はようやく殴るのを辞めた龍二と向き合う。
龍二にはかなりの迷惑をかけてきたからな。偶にはその苦労でも労ってやろう。
「んじゃ、今夜飯でも行くか?」
「俺に奢らせろよ........あれ?所で黒百合さんはどうしたんだよ。確か、お前達と一緒にいたよな?」
「あー、黒百合さんは“面倒い”って言って来ないよ。あの人、俺達と一緒に行動するようになっからダメ人間まっしぐらだ」
「マジかよ。あのクソ真面目な黒百合さんが?どこぞの自由人と狂人に毒されたのか?」
「かもしれんな。最近の黒百合さんは仕事を終えたらすぐに酒を飲んだくれるダメ人間だ。酷い日は昼間っから傭兵ギルドに行って酒を飲んでたりするし」
「おいおい。俺の知ってる黒百合さんとは思えない言動だな」
「朱那ちゃん、りっぱなアル中だからね。今となっては酒がないと生きていけないらしいよ」
ほんと、黒百合さんは堕天してからさらに酷くなっている。
仕事はちゃんとやるし、元がものすごく優秀なのでラナーですら舌を巻くほどなのに、仕事以外がとにかく酷い。
四六時中酒を飲んでは、ラファエルといちゃくつのだから。
酒癖が悪くないことが唯一の救いだが、立派なアル中になってしまった黒百合さんを治すことは出来ないだろう。
「会いたいなら呼ぼうか?黒百合さんも飯を奢るって言えば来ると思うぞ」
「お前に任せるよ。まぁ、形はどうあれ、黒百合さんも元気そうなら良かった。で、急に現れた訳だが、用事はなんだ?」
「光司と聖女様の間に子供が出来たと聞いてな。顔を見に来たのとお祝いに」
「........その情報、まだ一部の人間にしか知らされてないはずなんだが........まぁいいや。光司似合いたいんだろ?あいつもお前たちに会いたがってたし、着いてこいよ。案内してやる」
「助かるよ」
龍二はそう言うと、アイリス団長達に“ちょっと行ってくる”とだけ言って部屋を出る。
俺達もその後ろを着いていく事にした。
「光司ももう父親だ。時の流れは早いねぇ」
「だな。この世界に来てから9年か?俺達も歳を食った」
「個人的にはこの生活は気に入ってるがな。給料もいいし、今は比較的安全だ。俺が定年退職するまでは平和でいて欲しいぜ」
「だな。しばらく戦争は懲り懲りだ。平和に暮らしたいよ」
こうして、他愛もない会話をしながら光司に会いに行くのだった。
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