顔バレしてない

 

 神聖皇国の首都をフラフラと歩く俺達。


 6年前にあった戦争で多少なりとも疲弊したこの国だが、街を行き交う人々の顔は笑顔に溢れていた。


 戦勝国ということもあり、大きな大戦が終わった後は特に被害もない。


 教皇を新たに選出する際に色々と問題こそあったものの、この国がその程度で力を失うわけもなかった。


 こうして、この世界でも最大級の大国として存在している訳だが、人々を見ていると目立つものがある。


 「6年たった今でも服とか売られてんだな........」

 「てっきりブームは去ったと思ったんだけどねぇ。未だに私達の着ている服があるんだねぇ........」

 「びっくりなの」


 街の中を走り回る子供たち。彼らの服装は影の英雄と呼ばれ、この国を救ったとも言われる偉大なる傭兵の格好をしている。


 ハッキリ言って恥ずかしい。


 これでは俺が大人になってもコスプレしてるヤバい大人に見えてしまう。


 まぁ、今更な気もするが。


 「あと何年ぐらいこの光景が続くんだろうな」

 「さぁ?この世界は地球と違って情報の出回り方が遅いから、もしかしたらもう5年は続くかもね」

 「それは勘弁して欲しい。歌で語り継がれるのはともかく、子供にコスプレされて語り継がれるのはちょっとな」

 「あはは。有名人も大変だねぇ。とは言え、こうして堂々と街中を歩いても囲まれなくなった辺り、少しづつブームは過ぎ去ってるようだけどね」

 「単純に俺たちの顔を忘れてきたということだな。6年も経てば普通は忘れるもんだ」


 そんなことを話しながら大聖堂の入口にやってくると、門番をしていた兵がこちらに気づく。


 「止まれ。何者だ」

 「傭兵団“揺レ動ク者グングニル”だ。勇者様と聖女様の間に子供が出来たと聞いてな。その祝いに来た」

 「またこの手か........」


 門番はボソリと呟くと、槍をこちらに向けてくる。


 まさか疑われるとは思ってなかった俺達は、その行動に驚きつつも冷静に話した。


 恐らく、新兵なんだろうな。本来新兵が門番をやることは無いはずなのだが、大聖堂内で何かあったのだろうか。


 「俺たちの顔を知らない新兵か?」

 「ふざけるな。俺は3年目だ」

 「新兵じゃん。まだまだ青いねぇ」

 「なんだと?!」


 新兵と言われて顔を赤くする門番。


 門番を新兵にやらせるなら、ベテランが一人着いているはずなのだか見あたらないな。


 トイレか?


 「貴様らは英雄を偽った罪で捕らえる。大人しくしておけ!!」

 「辞めとけ。俺たちを捕えると、お前の立場が悪くなるぞ。本物かどうか分からないなら、他の人を呼んでこい。過去の大戦を経験したベテランをな」

 「そうそう。私たちを捕まえてもいいけど、その時怒られるのは君だよ。これは私たちのために言ってるんじゃなくて、君のために行ってるんだ。大人しく待っててあげるから人を呼んできたら?」

 「そのすきに逃げる魂胆だろ!!そんな手に引っかかると思うのか?」


 うーむ。大戦を生き残った軍人なら誰もが俺たちの顔を知っているはずなのだが、六年という月日が経てば新たに入ってきた兵も多くいる。


 彼らは名前こそ知っていても、俺たちの顔は分からないよなぁ........


 どうしたものかと悩んでいると、1人のオッサンが慌ててこちらにやってきた。


 彼は見覚えがある。確か、一緒に飯を食っていた1人だったはずだ。


 名前は........忘れちゃったけど。


 「こ、“黒滅”様?!どうしてこんなところに」

 「久しぶり。光司と聖女様の間に子供が出来たと聞いてね。そのお祝いに来た」

 「そうですか。勇者様と聖女様のご子息ということもあり、大聖堂内ではかなり手厚く育てております。皆そのお顔を拝見したいと職務を放棄しているので、代わりに私やこの馬鹿が代わりにやる羽目になってるんですよ」

 「そいつは大変だな。光司に行っておくよ。お前の赤ん坊が人気すぎて職場が回ってないってな」

 「アッハッハ!!是非ともお願いしますよ。勇者様は優しすぎますからね」


 おっさんはそう言いつつ、新兵の頭を殴ると無理やり頭を下げさせる。


 ゴン!!と鈍い音がしたが、大丈夫か?


 「黒滅様や黒鎖さんを見分けられなかったコイツを許してやってください。影の英雄が好きなくせに、顔を見分けられないバカでして........」

 「気にしてないよ。むしろ、仕事熱心でいいじゃないか。そんなに怒ってやらないでくれ」

 「ほんとすいません。おい、お前も謝れ」

 「も、申し訳ありませんでした........」

 「6年も経てば俺たちの顔を知らない世代が出てきても仕方が無いさ。これからも頑張れよ」


 俺はそう言うと、頭を下げられていた新兵の背中を軽く叩く。


 殴られるのかと思ったのか、彼はビクッと体を揺らした。


 そんなに恐れることかね?まぁ、今回はサプライズで来てるから連絡入れなかった俺達も悪いっちゃ悪いけど。


 「じゃ、行くか」

 「はーい。またねー」

 「バイバイなの」


 そう言って俺たちは、大聖堂へと足を踏み入れる。


 かつて暴食の魔王に滅ぼされた大聖堂は、戦争をあいだに挟んで綺麗に復興していた。


 初めてここに来た時よりも綺麗になっていそうだな。


 「またこの手か........ねぇ。俺たちになりすまして大聖堂に入ろうとする輩が多いらしい。道理で疑われたわけだ」

 「教皇からここの出入りを自由にできる何かを貰った方がいいかもね。フシコさんならきっと分かってくれるだろうし」

 「パパとママに成り済ますとか、万死に値するの。ちょっと探して始末してくるの」

 「やめなさいイス。気持ちは嬉しいけど、イスが手を汚す程じゃないよ」


 余程俺達のなりすましが出たことが許せないのか、若干殺気立つイス。


 リーゼンやメレッタ曰く、重度のファザコンとマザコンと言われるだけあって、俺達に対する愛が重い。


 親離れする日は来るのかね?それ以前に、俺と花音が子離れ出来るか怪しいけど。


 未だにイスとは一緒に寝ることも多いしな。


 俺はそんな事を思いつつ、イスを落ち着かせるために優しく頭を撫でる。


 何時もの様にひんやりとしたイスの頭は、とても気持ちよかった。


 「俺達のなりすましに関しては子供たちに任せよう。始末するかは子供たち次第って事で」

 「それ、間違いなく死ぬよ?あの子たちも仁のこと大好きだし........」

 「まぁ、それは俺達を使って悪いことを考えたやつが悪い。さて、まずは我が親友に逢いに行くかね。龍二は元気かな?」


 俺はそう言うと、子供たちの指示に従って龍二に会いに行くのだった。

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