親友に会いに

 

 ダラダラとした毎日を過ごす中、俺は花音とイスを連れて神聖皇国にやってきていた。


 世界中を巻き込んだ戦争が集結してから5年。もうすぐ六年を迎えるというその日、実にめでたい話を聞いたのでやってきたのである。


 「勇者様と聖女様との間に出来た子供ねぇ。光司もこの世界に完全に骨を埋める気らしいな」

 「でも、子供達の話を聞く限り未だに前の世界に戻る方法を探しているんだよね?」

 「この世界に来てから9年と言う月日がたった今でも、元の世界に戻りたいクラスメイトは多いんだろうよ。光司は優しいからな。自分は戻る気が無いにしても、方法を探す手伝いはできるんだろ」

 「戻った所でな部分もあるけどねぇ........想像力を少し働かせれば、今前の世界に戻ったとしても待っているのは面倒事だけだよ」


 花音はそう言いつつ、隣を歩くイスの頭を撫でる。


 花音の言う通り、元の世界に戻れたとしてもそこに俺達の居場所は無いだろう。


 もし、地球とこの世界に流れる月日が同じだとして、七年後の地球に戻れたとしても俺達は行方不明者扱い。


 運良く親が生きており、住む場所を変えていなかったとしても、親は故人として俺達を見ることは間違いない。


 その後待っているのは事情聴取やマスコミの取材。1人だけ帰ったのならば、俺達がどこに行ったのかまで聞かれる羽目になる。


 そして、“異世界にいました”なんて話は誰も信じないだろう。


 その証拠として魔法や異能を見せようものなら、今度は人体実験の施設に送り込まれる可能性だってある。


 不死身の人間が人体実験を何度も繰り返され、辛い思いをする漫画を俺は知っているのだ。


 この世界は俺達を待ってくれるほど優しくもなければ、周りにいる人間も優しくない。


 戻った所で、地球で幸せに暮らせるはずも無いのだ。


 最悪の場合は、更なる未来や過去に飛ばされる可能性だってある。その未来や過去では何があるのか、そう考えるだけでもリスクとリターンが合ってない。


 戦国時代とかに飛ばされたら、まだこっちの世界の方がマシだろうしな。


 運良く異世界召喚された直後なんかに戻れても意味は無い。集団神隠しの事件の1人として、色々な事情を聞かれることとなるし、何より年齢が合わなくなるのだから。


 「戻りたいって気持ちは分からなくもないがな。こちらの世界での生活も安定し、老後まで安泰ならこっちの方がマシに思える。リスクを取るにしても、そのリスクがあまりにも重いからな」

 「人間、諦めが肝心だよ。諦めない心が大切なんて言うけど、それはリスクとリターンを考えなきゃね」

 「パパとママは帰るつもりは無いの?」

 「「無い」」

 「えへへ、そっか」


 分かりきった質問をするイスは、嬉しそうに笑うと俺の花音の手を握る。


 ドラゴンが人化しているイスは、当初の身長と全く変わっておらず未だに可愛いままだ。


 もうすぐ10歳になるというのに、未だに俺と花音にベッタリな可愛い子である。


 初めこそいろいろと戸惑った育児だったが、こうして思い返すといい思い出だな。


 まぁ、俺と花音は強くなる必要があったから夜中イスの面倒を見る時以外はアンスールに任せていたりしたのだけれど。


 あれ?こうして見ると、イスの育ての親ってアンスールなんじゃね?


 「そういえば、龍二とアイリスちゃんは子供を作らないのかな?あの二人ももういい歳でしょ?」

 「俺と花音はイスが居るからともかく、あの二人の年齢を考えるともう子供がいてもいいよな。俺はそれよりも師匠の方が心配だけど」

 「未だに独り身だもんね。あの人。ニーナも独り立ちできるようになったんだから、男でも作ればいいのに」


 龍二とアイリス団長の仲は良好で、子供たちの調べ曰く2人を見ていた団員が砂糖を口から吐き出すほどらしい。


 それ程にまで仲のいい2人だが、未だに子供は授かってない。


 その理由としては、未だに現役の軍人というのがあるのかもしれないな。アイリス団長と龍二はかなり重要な役職についているし、育休なんて取れる余裕がないのかもしれん。


 シンナス副団長に関しては、既に行き遅れだった。


 俺達がこの世界に来た時には既に二十代半ばだったのだから、今の年齢は30過ぎ。この世界での結婚年齢は大体15~20なので、行き遅れも行き遅れだ。


 弟子のニーナも若干怪しいが、それ以上な師匠は行き遅れている。


 師匠、30過ぎても滅茶苦茶美人で男軍人からはかなりの人気があるのだが、如何せんニーナのことが好きすぎて男を寄せ付けないんだとか。


 相変わらずである。


 「ほかのクラスメイトも家庭を持つやつが多くなったよな。地球にいた頃なら間違いなく結婚出来てなかっただろうに」

 「主に金銭的な面でね。こっちの世界での私達の扱いはかなりいいから、金銭面で困ることは無いし、何より勇者としてのネームバリューもある。そう考えれば、よってくる人も多いからねぇ」

 「やっぱある程度の金は必要だよな。何をするにも必要だし」

 「子供が生まれればお金が必要になるし、生活も厳しくなっていく。地球にいた頃なら、間違いなく金銭面で苦労しているだろうねぇ。私たちは全く苦労しないけど」

 「その分、最初の2年間は苦労したけどな。最上級魔物や厄災級魔物の蔓延る島でのサバイバルだぞ?この世界でも経験できないだろうな」

 「確かにあの2年間は大変だったねぇ........生きるのに必死だった」


 今思い返せば、マジで文明からかけ離れた世界で2年間過ごしてきたんだよな。


 まだこちらの世界にすら慣れてない状況で、ほとんど知識もなしにサバイバル生活とかよく生きてこれたな。


 あの島でベオークやアンスールに出会ってなければ、どうなっていたか分かったものではない。


 未だに俺も花音もアンスールには頭が上がらないし、ウチの傭兵団の真の支配者はアンスールなのかもしれない。


 今はイスの遊び相手をしたり、趣味の裁縫をしたりとオカン要素が強くなっているが。


 「........アンスールになにか特別なお土産でも買ってくか。日頃の感謝を込めて」

 「そうだね。私達全員が最もお世話になってる厄災級魔物だし。アンスールがいなかったらと思うとゾッとするよ。きっと仁はワイバーンに噛み殺されてた」

 

 未だに俺の体に残る傷であるワイバーンの噛み跡。


 そうえば、アンスールに命を助けて貰ってもいるんだったな。


 やはりいつまでたってもアンスールには頭が上がらない。


 そんなことを思いながら、俺達は龍二と光司が待つ大聖堂に向かうのだった。

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