崩れ始める世界
教会でヌーレに真実を話しモヒカンから地下室作成の依頼を受けた後、俺達はマルネスの営む魔道具店に足を運んでいた。
暇つぶしと言えばここ、マルネスの魔道具店と言うほどには頻繁に訪れており、教師の仕事が終わった今ではよく顔を出している。
相も変わらず変な魔道具ばかり作る彼女は、今日もいつも通りの調子だった。
「やぁやぁ、世界最強親子君達。世界が平和で暇をしているのかい?」
「これが平和と言うには少し怪しいがな。ドワーフ連合国は小国連合と戦争をしている最中だし、合衆国も最近動きがおかしい。大国から目を逸らしたとしても、中小国同士の戦争が目立つからな」
「それは仕方がない話だよ。人間、2人集まれば喧嘩が起きて、3人集まれば派閥が出来るなんて言われる程だ。国という人々の集まりがある時点で、戦争は避けられない。それこそ、1つの国に全てを合併してしまうか、この世界に生きる人類を皆殺しにしない限りはね」
「恐ろしい話だ。俺は戦争があったとしても人が多い方がいいな。美味い飯が食えなくなる」
「アッハッハッハッハッ!!実に君らしい回答だよ。で、今日も暇つぶしかい?」
盛大に笑うマルネスは、そう言いながら新作の魔道具を取りだして俺に見せてくる。
ドッペルと似た様な性格も持つ彼女の目は、新しい玩具を貰った子供のように輝いていた。
「見て見て。私が作った最新の魔道具。すごいだろ?」
「いや、その箱だけじゃ何が何だか分からんって。俺は別に魔道具に精通している訳でもないんでな。どんな魔道具なんだ?」
「フッフッフ。見て驚け!!こいつに魔力を送ると........」
マルネスはそう言いながら魔力を箱に流し込むと、箱はガシャガシャと動き始めて変形していく。
何それかっけぇ!!
今までイカサマコインとかただ回るだけのよく分からん変な魔道具しか作っていたのを見たことがない俺にとって、この箱から変形する魔道具はかなり興味を引いた。
変形したあとの形は、人型の人形。正直人型の人形の出来はイマイチだったが、箱からの変形機能があるとなれば全然許せる。
やべぇ、ちょっと欲しいかも........
「仁が珍しく“これちょっと欲しい”って思ってるねぇ。マルネスの魔道具に興味を引かれてる」
「珍しいの。パパ、あまり魔道具に興味無いのに」
「エドストルの義手のときですら、こんなにテンション上がってなかったのにねぇ。まぁ、あの時はテンションをあげられる雰囲気じゃなかったけど」
珍しく魔道具にテンションが上がっている俺を見て、保護者のような視線を送ってくる花音とイス。
いやでも見てくれよ。変形の仕方が滅茶苦茶カッコイイじゃないか!!
エドストルの義手も変形するしかっこいいのだが、花音の言う通り今でもエドストルの腕の話は少しタブーなところがある。
本人は気にしてなさそうだったが、周りの人はどうしても気を使ってしまうのは仕方がないのだ。
事実、エドストルが腕を失う原因を作ってしまったシルフォードなんかは、傍から見ても相当気を使っているのがわかる。
義手になってから5年近くの月日が経つと言うのに、未だにシルフォードはエドストルに謝っていたという話も聞いていた。
「かっこいいだろう?久々にコスト度外視のアホ魔道具を作りたくなってね。使い道もない玩具の魔道具だが、私は満足だよ」
「かっこいいわ。普通にかっけぇ。これ幾らで売ってくれる?」
「んー、結構貴重な素材を使っているし、何より技術料がとんでもないぞ。普通に買おうとしたら白金貨が必要なレベルだ」
「白金貨........」
俺はちらりと花音を見る。
白金貨なんざ今や数千枚単位で持っている。子供達が毎日せかせかと世界を脅かす組織などから金を引っ張ってくるお陰で、生涯とんでもないほどの豪遊をしても生きていけるほどには金があるのだ。
そして、俺達の金銭感覚は未だに庶民。使わなければ、溜まる一方である。
た、偶には衝動買い溶かしてもいいんじゃないかな?許されない?
そんな目で花音を見るが、花音は大きく首を横に振った。
「ダメだよ仁。最初は綺麗に飾るけど、途中から埃を被るのが目に見えるから。どうしても欲しいなら、ドッペルにお願いしたら?」
「........うぅ」
「そんなに可愛い目で見てもダメ。仁、昔も玩具を衝動買いしては結局遊んでなかったでしょ」
「うぐっ........」
花音の言う通り、昔はよく衝動買いしては金を無駄にしていた記憶がある。
俺は肩をガックシと落とすと、潔く魔道具を買うのを諦めることにした。
「へぇ、世界最強の傭兵と言えど、嫁さんには敵わないんだね。家計を握る嫁は強いよ」
「こういう面では花音に逆らえないさ。逆らったあとが怖いし........」
「君も大変そうだ。ちょっと見ていて面白いね」
マルネスは静かに笑うと人形を箱に戻して欠伸をするのだった。
........ドッペルにお願いして作ってもらうかな。
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闇の中で動く者達は、そろそろ陽の当たる世界へと足を踏み入れようとしていた。
影と魔女、そして大魔王アザトースと人形は、洞窟のいちばん広い場所に集まって会議を進める。
「必要なものは全て揃った。欲しいものもあるにはあったけど、まぁ、あれば便利程度だから問題もない。そろそろ動き始めよう」
「いいんじゃないでしょうか。世界大戦を起こし、多くの人々は死にました。また増え始める前に、叩くべきです」
「悪魔達にも頑張ってもらうとするか。絶対にやるべき事は、信仰者達を滅ぼす事。そして、彼らの勧誘だ。勧誘に関してはまだ先だけど、信仰者を滅ぼすのは影で動いても問題ない」
「勇者達はどうする?奴らはまだ生きているぞ」
「君と人形に任せる。とは言え、まだ派手に動く訳じゃないから僕達の動きは掴めないだろう。女神も確信がなければ信託を下さない。君の結界を頼りにしてるよ」
何千、何万年と待ち続けたこの日。
影はニッ笑うと、遂に計画を動かし始めた。
「では始めよう。“女神抹殺計画”の本格始動だ」
世界は再び動き始める。
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