借りは返した

 

 五年と言う長い歳月を戦ってきた人間会は、いとも容易く全滅した。


 獣人会との抗争の決着は実に呆気なかったと言えるだろう。


 僅か数分で全ての人間会関係者が死ぬのだから、子供達の暗殺能力は恐ろしい。


 何度も思った事だが、俺が出会っていちばん良かったと思うのはベオークとその子供達だ。


 「部下達に君の言う場所を全て確認させた。凄いね。てっきり二日三日は掛かるものだと思ってたよ」

 「世界最強の傭兵の戦力を舐めない方がいいぞ。俺達は世界中に散らばっているし、そな気になればほぼ全ての人類を皆殺しにできる」

 「あはは。君がその気になった時は、優しく殺してくれることを祈るよ。僕は痛いのが嫌いなんだ」


 人間会の全滅させたことを報告し、その確認に部下を向かわせたエーレンは緑茶を飲みながら笑う。


 この部屋にはジーニアスとアンセルもいたのだが、2人とも異様にエーレンを恐れていた。


 恐らく、見せしめとして殺した老害達の様が余りにも悲惨だったのだろう。


 裏社会で生きてきた彼らが恐れるとなると、相当酷い目に合わせたようだ。


 派手にやってんね。エーレンもこんな可愛い見た目をしているのに、やることがえげつない。


 「さて、君は約束通り仕事を果たした。言い値で君に報酬を払おう........と言っても、あまり吹っ掛けてくれるなよ?獣人会の財源は無限にあるわけじゃないからね」

 「安心しろ。今回だけは格安で受けてやるって約束なんでな。ジーニアスに借りがあるから、大銀貨2枚で手を打ってやるよ」


 今回、この抗争に参加した理由は過去にジーニアスに借りがあり、ジーニアスがその借りを行使したからだ。


 俺としてはタダで受けてやってもいいのだが、流石にボランティアでやるのは向こうも俺も気を使う。


 という訳で、大銀貨2枚程度は貰っておこうというつもりである。


 「安いね。幾らジーニアスに借りがあったとはいえ、もう少しふっかけられると思ってたよ」

 「あいにく、金には困ってないんでな。俺達の財産は小国の国家予算を余裕で超える。その気になれば国が買えるだろ」

 「アハハハハ!!世界を滅ぼせて国を買えるのか。本当に君たちを敵に回したくないね。何をどうやっても勝てる気がしないよ」

 「俺達に勝ちたいんなら、神でも呼び出すことだな」

 「魔王じゃだめなのかい?」

 「魔王は昔殺した」

 「........へぇ」


 淡々と告げる俺の言葉が真実だと感じ取ったのだろう。


 エーレンは、冗談だと笑い飛ばすことなく目を細めて頷くだけだった。


 「魔王を殺す傭兵か。かの有名な勇者様がほぼ全ての魔王を殺したと聞いていたが、どうも嘘が混じっているようだね。それはさておき、はい、報酬」


 エーレンはそういうと、金貨をこちらに投げてくる。


 俺はそれを受けとると、首を傾げた。


 「金額が多いぞ」

 「今後も仲良くしましょうって言う現れだと思ってくれ。僕達獣人会は君達“揺レ動ク者グングニル”と仲良くしたいんだ。あ、あとこれもあげる」


 エーレンはそう言うと、ゴソゴソと机の棚をいじってあるものを取り出した。


 某黄門様のドラマで使っているあの“目に入らぬか”とやる奴に似ている。


 獣人会の家紋が描かれた、ちょっと高級な紋所だ。


 「........なにこれ」

 「客人を示す物さ。これを持っていればどんな組でも自由に入れてくれるはずだよ。魔道具だから偽造出来ないし、こうして対応する魔道具にかざすと青く光る。もし、奥さんと上手くいかなかったり、一人の時間が欲しければ来るといい。僕が慰めてあげるし、そっとしておいてやろう」

 「........次に来る時は嫁さんも連れてきてやるよ。あまりの恐ろしさにきっとそんな口は叩けないはずだ」

 「そうかい?案外理解のある奥様かもしれないじゃないか。それにしても、君のような人間と付き合える人か。きっと心が広いんだろうな。君に対して」

 「否定はしないが、言うほど心は広くない。独創的な芸術センスがあるしな........」

 「ふふっ、今度連れてくるといいよ。観光目的で来てくれても大歓迎だ。君とは仲良くしていたいからね」

 「暇すぎてやることが無かったらまた来るよ。じゃ、世話になった」


 俺はそう言ってエーレンに背中を向ける。


 滞在期間5日という短い期間だったが、結構楽しめた。


 個性の強すぎる組長達との話も楽しかったし、意外と最古参のお爺さんであるガランは気さくな人である。


 招集よりも一日早く来たあのお爺さんは、俺を見つけるなり“飯に行こう”とか言って連れ出したからな。


 どうも、俺の事を孫だと思っているのかとても優しかった。


 エーレンにもかなり甘いようだし、あのおじいさんは子供が好きなのかもしれない。


 「次は正規の値段だからなジーニアス。借りは返した」

 「助かった。お前がいなければ俺は今頃天に昇って居ただろうよ」

 「お前が天に登れる分けないだろ。地獄に落ちるさ」

 「ハッハッハ!!だろうな。まぁ、気をつけて帰れよ。もし獣王国による時があれば俺の組に来るといい。手厚くもてなしてやる」

 「それは楽しみだ。アンセルも元気でな」

 「おう。再会を楽しみにしてる」


 俺はジーニアスの肩に軽く手を置くと、そのまま部屋を後にする。


 見送りの獣人がやってきたが、俺はそれを断ってそのまま空を飛んだ。


 「さて、帰るか。お土産も買ったし、花音達に怒られることは無いだろ」

 「シャー」

 「え?既に怒ってる?なんで?」

 「シャシャ」

 「帰ってくるのが遅すぎるから?んな理不尽な........」


 俺は花音に怒られることが決定した事に落ち込みながらも、どうやってご機嫌を取ろうかと考えながら拠点に帰るのだった。


 尚、俺が帰ってきたら花音に怒られた。理不尽である。


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 仁が本家の屋敷を出てから数時間後、獣人会に1人の客人がやってきていた。


 燃えたぎる闘志を燃やす獣王国の王“獣神”ザリウスが、獣人会にやってきたのである。


 「なんの御用で?」

 「人間会の連中が全滅した。お前の仕業だな?」

 「失礼な言い方だね。僕は国のために頑張ったんだけどな?」

 「誰を雇った?俺達が追っていたやつが不審な死を遂げた。気になって聞きに来るのも無理はないだろ」

 「それは秘密さ。雇ったのは事実だけど、自分で調べたら?脳筋国王」

 「........そうさせてもらう」


 この後、獣人会の影に黒滅の影があると知った獣王は、黒滅との面会を望むのだった。





この章はお終いです。

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