人間会殲滅
裏切り者の運命は最初から決まっていた。
裏社会に生きる彼らには、絶対的な上下関係がある。
ボスが黒と言えば黒。白といえば白。例えカラスが黒かろうと、ボスが“カラスは白い”と言えば白に変わるし、白猫がどれだけ純白な色をしていようと“黒猫だ”と言えば黒になる。
老害達は、エーレンに“黒”と判断された時点で何をしようが助かりようが無いのだ。
それをよく分かっているだろうに、老害達は騒ぎ続ける。
布を噛ませられてしまったので、ただ“うーうー”吠えるだけだったが。
「んじゃ、俺は人間会とやらを始末してくるよ」
「処刑を見ないのかい?」
「俺は傭兵。拷問や処刑を見るのは趣味じゃない。見せしめをやるのはお前の仕事だろう?俺の仕事は人間会を壊す事だ」
「残念。君にも気に入って貰えるような始末の付け方を考えてきたのに........」
「それは残念だ。精々気が済むまで壊しておけ」
老害達相手に殺気を放っていた姿はどこへやら。怒れる猛獣の姿はそこにはなく、あるのは可愛らしい猫の姿だけである。
確かに怖いな。この切り替えの速さには軽く戦慄するよ。
ウチの花音ほどでは無いけど。
俺はそう思いながらエーレンの頭を軽くなでると、エーレンは嬉しそうにしながら俺の手に頭を擦り付ける。
うん。猫だな。
「気をつけてね。どうも、人間会の連中は怪しい薬や魔道具を使っているらしい。もしかしたら、何者かが手助けをしているかもしれない」
「安心しろ。大体の調べはついてるし、その程度で負けるほど弱かない。お前も見せしめ、頑張ってな」
「おぉ、君からのエールはやる気が出るよ。どうだい?これが終わったあと僕を........」
「アホか。俺は妻帯者だっつーの」
俺はそう言いながら、いつの間にか捕まっている老害達の幹部を見る。
子供たちいわく、ここに呼び出して即拘束したらしいが、やり方がスマートだな。
今から壮絶な拷問が始まると思うと寒気がする。
きっとニコニコしながらエーレンは彼らを始末するはずだ。
「じゃ、張り切りすぎて怪我をしないようにな」
「いい報告待ってるよ。部下達はついて行かなくていいんだね?」
「足でまといなんざいらん。俺一人で十分だ。取り逃しも起きねぇよ」
「それは頼もしい。報酬は言い値で払ってあげる」
「そいつはどうも」
俺はエーレン立ちに背中を向けると、その場を立ち去る。
案内人として俺の横に着いていた獣人が、屋敷の外まで案内してくれた。
「案内ご苦労さま。戻っていいよ」
「........黒滅さん。奴らの始末、よろしくお願いします」
「任された。1人残らずきっちり始末してあげよう。首の一つや二つ、欲しい?」
「流石にそれは........要らないですかね」
「アッハッハッハッハッ!!それもそうか。俺も要らねぇしな」
俺は豪快に笑うと、屋敷を後にする。
暫く適当に歩いた後、俺は最近諜報関係ばかりで退屈しているであろう子供達に声をかけた。
ここなら監視の目がも無いし、声が漏れても問題ないだろう。
「さて、起きてるかー?」
「シャー」
「配置には着いてる?」
「シャシャ!!シャー!!」
「あはは。やる気十分だな。今回の仕事はお前達に任せよう。きっと驚くぞ。一斉に人間会の人間と、それに繋がっていた情報屋が死ぬんだからな。だが、周囲にお前達の菅田が目撃されるような事はあってはダメだ。気を付けろよ」
「シャー!!」
「え?既に忠告してあるし、人目につかないところに誘導してある?マジで有能だな。ウチの厄災共にも見習って欲しいぜ」
今回人間会の殲滅は俺ではなく子供たちに任せることにした。
諜報関係の仕事ばかりで暇しているというのもあるし、俺が暴れると色々と問題も起こるだろう。
俺が獣人なら、真正面なら殴りあってもいいんだがな。
今この国での人間の立場は弱い。そこにさらに人間が暴れに散らかして被害を出そうものなら、さらに立場が悪くなってしまう。
俺としては、この国が人間と仲良くしていて欲しいのだ。
俺は傭兵だが、世界平和を望むよ。鉄臭い世界で生きるのはあまり好きじゃない。
「やる気満々で良し。調べた感じ何者かが居たようだが........どうも撤収したみたいだしな。俺達からも隠れられるってのが引っかかるが、今は仕事に専念しよう」
「シャー」
「そうだな。綺麗に殺し、必要な情報は全部抜き取ってこい。では、状況を開始せよ!!」
「「「「「シャー!!」」」」」
ノリノリで作戦を始める俺達。
こんなノリで殲滅される組織も可哀想だなと少し同情しつつ、俺はいい報告が来るのを待つために適当なカフェに入るのだった。
........ここの紅茶うめぇな。
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ベオークから生まれた闇蜘蛛達は、潜伏のプロである。
生まれた時から長であるベオークに潜伏、暗殺、諜報の極意を叩き込まれ、一流の戦士として鍛え上げられてきた。
生物は視覚で多くの情報を得る。その視覚を掻い潜り、厄災級魔物が相手であろうと探されなければ気づかせずに潜伏できるだけの気配消し。
気配察知に優れた仁が相手でもそれなりに腰を入れて探知をしなければ探せないとなれば、ただの人間に闇蜘蛛達を探し出せるわけもない。
「この抗争が始まってから五年。我々の戦力もかなりのものになりましたね」
「獣人を憎む人間がそれだけ多いという事だ。たとえ戦えずとも、物資の搬入や情報収集など使い道は多くある。あの忌々しい敗戦の歴史が、我ら人間を強くしたのだ」
「おっしゃる通りで。神正世界戦争........人々は既にこの戦争が終わっていると思っていますが、まだ終わりではない。我ら人間会がその意志を受け継ぎ、未だに戦っているのですから」
「そうだ。1度は負けたが、まだ完全な敗北を喫したわけじゃない。この薬と魔道具があれば、我々は再び立ち上がれるのだ」
人間会に属するもの達の大半は、敗戦国の残存兵。
彼らに本来戦う力は残されてないのだが、それを悪魔が裏から手助けをした。
バレないようにひっそりと。姿かたちも見えぬ支援者だが、その存在に彼らが気づくことは無い。
本気で隠れた悪魔は、女神の目すらも欺ける。
そして、既に悪魔は手を引いた。
次に差し伸べられた手は、死へと誘う地獄の手。
「まだ我らは戦える。この先も戦い続けるのだ!!」
「えぇ、戦いましょ──────────」
この日、人間会の者達は不審死を遂げて全滅した。
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