獣人会2

 

 ジーニアスを守りながら、時たま襲ってくる人間会の奴らをボコしては捕らえていく。


 最初は捕まえたヤツを手土産にしようと思ったのだが、あまりにも数が多かったので必要そうな情報を持っているやつだけに絞った。


 拷問のやり方はあまり知らないが、とりあえず痛みを与えておけば簡単に吐く。


 しかし、捕らえた奴らのほとんどはろくな情報を持っていなかった。


 組織の末端連中なのだろう。必要最低限の情報だけ与えられて、ただ戦う兵士ばかりだった。


 これなら正直子供達に情報を集めさせた方が早い。


 あまり長居する気もなかった俺は、子供達にこっそりと命令して様々な情報を探ってもらうことにしたのだ


 「それにしても人気者だな。お熱いラブコールが止むことを知らないぜ」

 「今までの人生の中で1番人間にモテてるのは間違いない。そのラブコールのプレゼントが刃物や魔法でなければ、嬉しかったかもな」

 「ハッハッハ!!随分と過激なラブコールだ。浮気でもした?」

 「痴情の縺れでこんな事になったらもっとヤベーだろ。浮気した旦那をここまで殺意高く殺しにくるとか、愛されすぎてて泣けるね」


 血がある程度戻ってきたのか、隣の護衛の肩を借りずとも歩けるようになっているジーニアス。


 人間ならばまだまだふらついているだろうが、獣人特有の再生能力の高さが遺憾無く発揮されている。


 魔法に関しては人間よりも劣るが、肉体に関しては人間より圧倒的に上だな。


 俺のような例外を除けば、肉弾戦闘での戦いは獣人に分がある。


 その変わり、脳まで筋肉で埋まってるような奴だが。


 そんなことを思いながら、しばらくジーニアスの案内の元歩いていると大きな屋敷が目に入る。


 後ろ暗いことをしているにもかかわらず、こんなにも堂々と本陣を構えるココこそが、獣人会の本家の屋敷なのだろう。


 「じ、ジーニアス組長?!」

 「よう。久しぶりだな。悪いが通してもらえるか?組長に話があるんでな」

 「わ、分かりました........ですが、こちらの人間は........」


 俺を見てどうしたものかと困る門番。


 人間と抗争していると言うのに、この場に人間を連れて来た事を不審に思っているのだろう。


 気持ちは分かるが、相手が誰なのかを理解してからの方がいい。


 ここに花音がいたら、手が出ていたかもしれないぞ。


 「コイツは俺が呼び出した。名前ぐらいは聞いたことがあるだろ?世界最強の傭兵“揺レ動ク者グングニル”の団長“黒滅”の名を」

 「確かに聞いたことがありますが........このお方がそうで?」

 「そうだ。ちょっとした繋がりがあってな。今回来てもらった。分かったらさっさと中に入れてくれ」

 「........分かりました。どうぞお入りください」


 門番は少しだけ俺に敵意を向けながらも、ジーニアスの顔を立てて門を開く。


 今度はジーニアスを先頭に、俺達は屋敷の中に足を踏み入れた。


 無事に通れたことだし、ゼットに少し疑問をぶつけてみるとするか。


 「なぁ、ゼット。ジーニアスって組長なのか?幹部じゃなくて?」

 「幹部でありながら、組長です。獣人会は本家の組から派生して様々な組を持っています。その組長は、本家の幹部達が立てた組になるのです。要は二次団体ですね。そして、その2次団体の幹部がさらに組を持ち........となります」

 「へぇ、それで、何次団体まであるんだ?」

 「今のところは七次団体までありますね。ですから、私たちよりも圧倒的に格が下なのにも関わらず“組長”と呼ばれる獣人も多くいるのですよ」


 組織形態がまるっきりヤクザと一緒なんだな。


 まぁ、俺のヤクザ知識は某有名な龍のゲームでしか知らないんだけど。


 あのゲーム、どこまで正しいのか分かんねぇんだよな。フィクションだから仕方がないんだけどさ。


 「ジーニアスはその中でも本家の幹部で2次団体の組長って訳か。もしかしなくてもかなり偉いな?」

 「えぇ、滅茶苦茶偉いです。その気になれば一声で1000人ほどを動かせますからね」

 「そいつはすげぇや。お貴族様の私兵並にあるじゃねぇか」

 「それが獣人会と言うものですよ。その分、お貴族様とは違って背中を刺される危険も高いですけどね」

 「好き好んでなりたい職業では無いな。まだ傭兵の方がマシだ」

 「それは言えてます。が、案外暮らしてみるといいものですよ?“黒滅”様も入ってみますか?」

 「勘弁してくれ。俺は自由きままな傭兵が性に合ってるんだ」


 ゼットからの勧誘を断りつつ、俺は屋敷の中をズカズカと歩いていく。


 本家の獣人達が人間である俺を見ているが、隣にジーニアスがいる為かなにかしてくることは無かった。


 けど、俺の正体に気づいている者は誰一人として居ないな。偶に俺の強さの片鱗を感じて、怯える奴は見えるが。


 「ジーニアス!!無事だったか!!」

 「よぉ、アンセル。見ての通りピンピンだ。地獄の死神が俺に鎌を向けてきたが、何とか逃げ帰ってきたよ」

 「そいつは良かった。死神もお前の首なんて要らなかったんだろうさ。価値がないからな」

 「ひでぇ言われようだ。一応、襲われてきたんだぜ?」


 楽しそうに話すジーニアスと青色の毛並みをした獣人。


 何となく誰かは分かるが、確信がないのでここは解説役のゼットくんに聞いてみるとしよう。


 「あの獣人は?」

 「ジーニアスさんと同じく本家幹部のアンセル組長です。ジーニアスさんとは古い付き合いで、ジーニアスさん側の組長となります」

 「仲間って事でいいんだな?」

 「えぇ。下積み時代に共に戦場を駆けた戦友とも呼べるお方です。獣人会の中でも屈指の武闘派で、その強さは獣王の次に強いと言われるほどですよ」

 「ふーん、獣王の次にねぇ........とてもそうには見えんけど」

 「あくまでもそう言われているだけです。それに、貴方からすれば違いがわからずとも仕方がないですよ。強すぎるが故に、力量が測れないなんてこともありますから」

 「そうだな。アリとハエ、どちらが強いと言われても、人間からすれば同じようなもんだしな」

 「........もう少しいい例えがなかったんですかね?」


 軽く呆れるゼットを横目に、俺はアンセルの情報を頭の中で思い出す。


 ライバル視はしているが、対立はしていないだったか?コイツは裏切ってなさそうだな。


 俺はそう思いながら、静かにジーニアスとアンセルの話が終わるのを待つのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る