獣人会3

 

 ジーニアスが無事に本家に辿り着き、同じ組長であり本家幹部であるアンセルと仲良く話しているのを見ていると、向こうがこちらに気づく。


 イケおじのアンセルは、俺に厳しい目を向けながらも実力は感じ取っていたのか敵意のない視線を送ってきた。


 「今の時期に人間がこの地に入ってくるとはね。しかも滅茶苦茶強い。ジーニアス、彼は誰だい?」

 「聞いて驚け。世界最強の傭兵“黒滅”だ。昔、ちょっとした繋がりがあってな。今回来てもらった」


 俺の正体を聞いたアンセルは大きく目を見開くと、まじまじと俺を見つめる。


 そんなに見つめられると恥ずかしいじゃないか。


 「ソイツは大物だな。ジーニアスと繋がりがあったのも驚きだが、それ以上にその強さに驚いた。俺が100人居ようが、勝てる気がしない」

 「分かってるじゃないか。アンセル組長だっけ?よろしく」

 「よろしく。今回は味方として雇ったってことでいいんだよな?」

 「そうなるな。喜べ、世界最強が俺達の手足になってくれるぞ」

 「流石に受けられる仕事にも限度があるのは覚えておけよ?獣王を殺せとか言われてもやる気は無いからな」

 「分かってる。いくら何でもそこまでイカれた指示は出さん。あくまでも、獣人会と人間会の抗争のためにしか使わないさ」


 俺は何気に獣王のことが気に入っている。会ったことは無いが、噂や報告書で見た話ではかなりいい王である。


 戦場に立てば自らが先陣を切り、常に民にその大きな背中を見せつける。


 獣人特有の風習や価値観があるからこうなっているのだが、少なくとも戦場にも立たず裏で構えているだけの王よりは何倍もマシだ。


 神聖皇国の元教皇であるシュベル・ペテロの様に裏で書類と戦う訳でもない王と言うのは存在するのだ。


 そんな形だけの王よりはマシだし、市民からの支持も厚くなるのは必然と言えるだろう。


 それに彼は、白色の獣人差別を無くそうと動いている。


 もしかしたら、獣人組が堂々とこの国を歩ける日が来るのかもしれない。


 ........まぁ、辛い思い出しかないこの国に獣人組が来るとは思えないが。


 「世界最強の傭兵様を連れてきたのはいいが、何があったんだ?丸一日お前との連絡が途絶えて困ってたんだぞ?」

 「老害共に嵌められた。下部団体から入ってきた情報を頼りに、人間会の拠点を潰そうとしたら罠でな。ここの脇腹を思いっきり刺された上に、部下も何人も失ったよ。骨も拾えなかったから、墓地に埋めてやる物が何も無い」

 「........老害どもって事は、この抗争を長引かせようとしている連中か。自分の利益のために人間と手を組む腐れ外道共が、さっさと死ねばいいのに」

 「その言い方立と俺も腐れ外道になるな。ほら、ここに手を組んだ人間がいるぞ?」


 ジーニアスはそう言って俺を指さす。


 確かに間違ってはないが、そのいわれ方は少々傷つくな。


 いいのか?拗ねて帰るぞ?


 ジーニアスに言われたアンセルは、豪快に笑うとジーニアスの肩を叩く。


 「アッハッハッハ!!お前と老害じゃ目的が違いすぎるさ。奴らは自分の為。お前は獣人会の為。これだけで綺麗に差別化されてる。結果的に自分にプラスになる様なことが起こっても、それは偶然だ」

 「そうか?傍から見れば同じように映ると思うがな。十四代目組長が賢い選択をする事を祈るか」


 獣人会十四代目組長と言えば、俺でも知っている有名人だ。


 300年以上続く獣人会の中で最も若く組長になり、最も優秀な存在。


 古くから獣人会を支えてきていた老害共からは嫌われているが、ジーニアスの様な比較的若手の組員からはかなり慕われている。


 彼は老害共を排除従っているが、古参の勢力は獣人会でも半分以上を締めており頭を悩ませているんだとか。


 その中でも派閥が分かれているらしいが、細かすぎで正直覚える気にならない、


 「今回は組長に報告があってきたんだ。上手く行けば、あの老害共を消せるぞ」

 「そいつはいい話だな。老害共の下にも優秀なやつはいる。上手くやれば、老害どもだけを消して、有用な連中を上に持ってこられるかもしれん」

 「そしたら俺達の立場を危ぶまれるかもな」

 「ハッハッハ!!かもしれんな!!」


 アンセルは豪快に笑うと、組長に会うために動き始まるのだった。


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 神正世界戦争で敗北した人間達が作った組織、人間会。


 彼らは獣王国に潜伏し、獣王国を乗っ取らんと戦い続けた。


 初めこそ圧倒的な物量と獣人の力に負けると思われていたが、いざ始まってみると五年もの月日が経過している。


 ここまで善戦できているのには、彼らよりも深い闇で蠢く者の姿があった。


 「探し物のためにこうしているが、いつまでやればいいんだか。吾輩もパーベキューしたいんだがな........」

 「気持ちはわかるが、これも魔王様の為だ。もう暫くは我慢するしかない」


 かつて魔王の手下として世界を混沌に陥れた悪魔。


 その姿が、この獣王国にもあったのだ。


 本来ならは負け戦の所を、悪魔達は裏から手助けして人間会に力を与えている。


 人間会の末端の構成員は知らないが、幹部たちはこの悪魔の助言を聞いて動いているのである。


 女神イージスを信仰していたはずのものが、今となっては悪魔を信仰する愚か者へと変わったのだ。


 「人形さんと飲みたいのは分かる。が、こういう仕事は俺達の分野だからな」

 「探し物を始めて五年。女神の目から逃れることも考えると、やはり厳しいものがあるな」

 「まだ見つからないかつての英雄の産物。一体どこにあるんだろうな」


 悪魔たちが探しているのは、魔王が誕生するよりも前に活躍した英雄の産物。


 この辺にあるはずなのだが、いくら探しても手がかりすら掴ませてくれなかった。


 いくら悪魔とはいえ、できることとできないことがある。今回の探し物を見つけるのは、後者だ。


 ため息をつく悪魔。その後ろから、どことなく現れるは魔女。


 彼女は少し重たい空気の中、淡々と告げる。


 「撤退してください。彼が来ました」

 「........世界最強か?」

 「えぇ、介入してこないと思ってましたが、どうやら獣人会の幹部と知り合いだったそうで。このままだと貴方達まで殺されます。今失う訳には行かないので、撤退しましょう」

 「チッ」


 仕事をこなせず撤退。


 悪魔たちにとってこれほど屈辱的なことも無い。


 「帰ったらバーベキューでも酒盛りでもしていいですから、早く。痕跡を残すと面倒なので」

 「分かった分かった。直ぐに撤退する」


 こうして悪魔達は、世界最強と会うことなく人間会から姿を消したのだった。

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