7年ぶり

 

 ジーニアスからの救難信号を受け取ってから10時間後、俺は1人で獣王国の首都の中を歩いていた。


 ジーニアスには来るまで一日近く掛かると言ってあったはずなので、まだ時間には余裕がある。


 俺は七年ぶりに会うジーニアスの姿がどうなっているのか少し楽しみにしながら、子供達の案内に従って歩いていた。


 「七年前はここまで視線を感じなかったんだがな。やっぱり抗争の影響か、人間に対する視線が厳しくなっている気がする」

 「シャ?」

 「始末するかって?お前達、ここの空気に染まりすぎだ。物騒すぎるだろ」

 「シャー」


 七年前に訪れた時には全く感じなかった敵意の入った視線。


 人間との抗争がここまで長引き、過激になっている現状では人間に対する感情があまり良くなかった。


 長い事この国にいる様な人ならともかく、なんの繋がりもない人がこの地を訪れたら苦労しそうだな。


 話しかければ割と普通に話してくれるが、どこか棘を感じる。


 獣人達も人間全てが悪い奴では無いと分かってはいても、そういう目で見てしまうのは仕方がない。


 こんな所で俺も軽く被害に遭うのは癪なので、さっさと潰した方がいいかもしれないな。


 「本当、物騒な街に変わったな。警備兵もかなり警戒しているし、市民にも被害が出てきているとなれば仕方が無いとは思うけど」

 「シャーシャシャ、シャー」

 「へぇ?勘違いで殺された人間も出てるのか。人間と獣人の対立が大きくなるわけだ。獣人の国と言えど、人間も多く住んでるこの国では面倒な事だろうな」

 「シャ」

 「獣王も頑張ってはいるけど、相手は何でもありの連中だ。真正面から突っ込む以外脳がない奴に、狩りは難しいわな」


 それに、この国の王たる獣王も暇ではない。


 この国を運営するにあたって、様々なことをしながらの戦いとなればどうしても限界が出てきてしまう。


 それにしても、人間側が少し強すぎる気もするが、やり方が上手いのだろう。


 「シャーシャ」

 「お、あそこの下にいるのか。隠れ家的な場所だな。確かにあそこなら一日程度なら時間を稼げそうだ。知らなきゃ場所も分かんねぇし」


 子供たちに案内された場所は、何も無いただの地面。


 しかし、よく目を凝らしてみると少し違和感がある。


 不自然な地面の切れ目と、不自然に置かれた石の形。


 おそらく、石をある形に動かして扉を開くタイプの隠し部屋だ。


 「ここで間違いないんだよな?」

 「シャー」

 「下はどうなってる?」

 「シャシャ、シャー」

 「階段か。ならぶち壊してもいいな。石を並べるの面倒だし、隠れ家を1つ壊したぐらいで文句も言わんだろ」

 「........シャ?」


 “多分?”と首を傾げる子供達。


 俺はやはりこの子供達は可愛いなと思いつつ、軽く頭を撫でてやりながら足を持ち上げた。


 「じゃ、お邪魔しマース」


 ドガァァァン!!と、大きな音を響かせて扉が壊れる。


 扉の先は、子供達が言っていた通り地下へと続く階段になっていた。


 「暗いな。いかにも隠れてますって感じの階段だ」

 「シャ」

 「ハッハッハ!!お前たちにとっては明るいだろうよ。常に闇の中で暮らしてるんだからな。魔物と人間を比べちゃダメだよ」


 この程度全然明るいと言った子供達と笑いながら、階段を降りていく。


 一本道だった為、迷う事はなかった。


 しばらく歩くと、また扉が見えてくる。


 この先に二つほど気配があるので、間違いなく救難信号を出してきたジーニアスが居るはずだ。


 俺は二回扉をノックすると、返答を聞くよりも速く扉を蹴り飛ばす。


 強引な入り方だが、子供たちからの情報で鍵がかかっていたので仕方が無い。


 素直に扉を開けてくれるとも思えないしな。


 「やぁやぁ、七年ぶりか?随分と久しぶりだな」

 「........もう少し静かに入ることは出来なかったのか?初めてあった時もそうだが、あまりにも非常識すぎるぞ」

 「あははは!!裏稼業の奴に常識を問われる日が来るとはな。それで?大丈夫なのか?そのキズ」


 久々に会ったジーニアスの姿は、かなり弱っていた。


 七年もの月日が経っているので老けているのは仕方がないが、それよりも脇腹から血が流れ落ちている。


 手当はしているようだが、ハッキリ言って応急処置程度にしかなっていなかった。


 このまま放置してると死ぬな。


 急いで治療した方がいい。


 「大丈夫に見えるなら目の病気だ。今すぐ病院に行くことを薦めるぞ」

 「冗談が吐けるなら大丈夫そうだな。おい、そこの護衛、コイツの包帯を外せ」

 「え........それは........」

 「言うことを聞けやゼット。俺の包帯を外せ」

 「は、はい」


 困惑しながらもジーニアスの包帯をとるゼット。


 こいつは確かジーニアスのボディーガードとして七年前も隣に立っていた気がするな。


 上司が裏切られたと言うのに、その隣に居続けるとは大したやつである。


 「うし、動くなよ。治療してやるから」

 「代金は?」

 「借りがあるんでな。特別サービスだ」


 俺はそう言うと、エルフの秘術とも言われる魔術を使ってジーニアスの傷口を治していく。


 更に、治癒のポーションまで使って強引に傷を癒して行った。


 俺は全く怪我をしないからほぼ使ったことがないが、ポーションと治癒魔術の効果は凄まじいな。


 かなり深く刺された傷口がみるみる塞がっていく。


 と言うか、こんなに深い傷でよく生きてんな。普通の人間なら死んでるぞこれ。


 獣人の生命力の強さ故か、それとも単純にジーニアスが凄いのか。


 どちらか分からないが、取り敢えず治療を進めよう。


 10分もすれば治療は終わり、ジーニアスの傷口は完全に塞がる。


 ついでに、体のあちこちに付いていた傷も治してやった。


 「すげぇな。流石は世界最強の傭兵と称される人物だ。怪我の治療もお手の物ってか?」

 「........俺の正体を知ってたのか」

 「正確には、のちのち知っただけどな。確証はなかったが、聞いていた噂とアンタの格好が一致していたのが気になった」

 「いい勘てるぜ」

 「いい勘してたら、こんな目にあってないさ」

 「それはそう」


 それにしても、ジーニアスってこんな話し方だったかな?歳をとると話し方が変わるとは聞くが、そんな感じなのだろうか。


 もしかしたら、相手も俺の話し方が変わっていると思っているかもしれない。


 まぁ、七年前の事だから記憶も怪しいが。


 「んで、俺を呼び出した内容は?大体想像つくけど」

 「俺達を助けて欲しい。報酬は、言い値で払おう」

 「ま、借りがあるからな。仕事は受けてやるよ。まずは何をすればいい?」

 「取り敢えず、ここからの脱出だ。獣人会の拠点に戻らないと」


 ジーニアスはそう言うと、隠し部屋を出ていく。


 おい待て、依頼主なんだから前を歩くんじゃねぇ。


 俺はそう思いながら、ジーニアスの後について行くのだった。

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