イスの日常4
久々にリーゼンと会ったイスは会話を楽しんだ。
本来の目的は北国の植物を輸入できないか(又は持っていないか)と言う話なのだが、それはそれとしてリーゼンとの話は楽しいものばかりである。
元々仲の良かった2人。その友情が変わることは永遠にない。
暫くの間は、リーゼンとイスの話が続いていた。
「イスが来たって聞いたけど、本当に来てたんだ。久しぶりだね」
「おー、メレッタ。久しぶりなの。元気にしてたの?」
「もちろん。私はいつでも元気だよ」
楽しく会話をする2人との間に、仕事を終えたメレッタもやって来る。
現場でイスが来たという話を聞いたメレッタは、自身の待ちうる全てを使って速攻出家を建ててきたのだ。
もちろん、手抜き工事など一切しない。
建築オタクが、“オタク”たる所以はそのこだわりの強さがあるからだ。
「あら、おかえりなさいメレッタ。仕事はどうだった?」
「しっかりと終わらせてきましたよ
「もう。会長って呼ばないでと言ってるでしょ?私達の仲なんだから........それともからかってる?」
「よく分かってるね。もちろんからかってるよ」
「もう、生意気な社員ね」
可愛らしく頬をふくらませて怒るリーゼンと、そな様子を見てケラケラ笑うメレッタ。
一緒に仕事をするようになり、更に距離が縮まった2人の仲はイスから見ても微笑ましい。
外ではメレッタもリーゼンを“会長”と呼ぶので、今回はそれを使って少しリーゼンをおちょくったのだ。
「全く。昔は虐められて怯えてた子が随分と大きくなったものだわ。この前もウチの商売を邪魔しに来ていた輩を叩きのめしていたでしょう?」
「あはは。確か古くから家を建てている店のところだったね。私の建築にちゃちを入れてきたので、思わず殴り飛ばしちゃった」
「イスからもなんとか言って欲しいわ。この子、自分の建築に関しては一切譲らないのよ」
「メレッタだから諦めるの。建築はメレッタに口出ししても無駄なの」
「まぁ、学園時代からそこだけは譲らなかったものね。それも織り込み済みで雇ったけど、いざ使うとなると使いにくいわ」
「失礼しちゃうな。私程リーゼンに従順な社員も居ないって言うのに」
「よく言うわ」
メレッタはそう言うと、椅子の隣に座る。
そして、未だに身長も体型も変わらないイスに抱きついて頬を擦り合わせた。
イスも抵抗することなくこのハグを受け止め、まだまだモチモチ肌のメレッタを堪能する。
イスは仁や花音に抱きつかれるのも好きだが、こうして友人に抱きつかれるのも好きだった。
「イスは本当に見た目が変わらないね。冷たいしいい匂いがするし........何か秘訣でもあるの?」
「人間を辞めれば簡単なの。ドラゴンにでもなればいけるの」
「とんでもない事言ってるわね。無理に決まってるでしょ。そんなこと出来るのはイスだけよ」
「そうだよ。私達は人間なんだから、その尺度で話してくれないと」
メレッタもリーゼンもイスの正体がドラゴンであることは知っている。
最初こそ驚いてはいたが、今となってはドラゴンであろうが無かろうがイスはイスと開き直っていた。
自分がドラゴンでも態度を変えない事はイスにとってとても重要なことであり、イスとしては嬉しい限りである。
こうしてのんびりと話をできる友人というのは、イスにとってありがたい存在であった。
「メレッタも仕事をしてるの。最近はどんな感じなの?」
「前よりも評判が集まって、仕事が増えたんだよ。凄く楽しいよ」
「へぇ、今度メレッタの仕事場を覗いて見るの」
「メレッタの仕事は凄いわよ。たった一人で全部を終わらせるんだからね。建築には持ってこいの能力だと、改めて感じたわ」
「えへへ。自分の手で作るのもいいんだけどね。コストを抑えるとなると能力を使った方がいいから........」
「メレッタが開発した魔術も完全秘匿してるから、網5年もあれば建築市場も私たちの物よ。問題は、人員不足すぎるところかしら?」
「今は私一人が全部やってるからね。私と同じぐらい仕事ができる人が欲しいよ」
メレッタはそう言いつつ、テーブルの上に置かれたお菓子を食べる。
メレッタの作った魔術はどれも建築界隈に大きな営業をもたらすものであり、場合によっては歴史そのものを変えてしまう程革新的だった。
そもそも、この世界の建築に魔術を取り入れるという発想が殆どなく、魔術や魔法を使うにしてもたかが知れている。
しかし、天才的な建築オタクは、その常識を全てひっくり返したのだ。
残念ながら現在は、その技術と知識は秘匿されているが、時が来れば全てを使って世界にこの名を轟かせるつもりである。
尚、リーゼンが勝手に計画しているだけであり、メレッタはこの事を一切知らないのだが。
「イスはどうなの?お父さんとお母さんの傭兵団に居るんだよね?」
「特に何も無いの。私の世界の改良をすること以外にやることが無いぐらいには」
「羨ましいと思う反面、イスが忙しくしてると戦争が起こってるって事だから大変だね。お金に困ったらここに来るといいよ。リーゼンもきっと雇ってくれると思うよ」
「その時は護衛達を鍛える教師役ね。それと、私とメレッタの護衛に着いてもらおうかしら」
「おぉ、それはちょっと楽しそうなの。でも、お金に困ることは無いの。拠点の金庫にゴミのように白金貨が散らばってるし」
「........そう言えば、初めてのお泊まり会で白金貨を持たされてたね」
「あはははは!!世界最強の傭兵団は何もかもスケールが違うのよ。きっと私の全財産よりも金があると思うわよ」
今回のお出かけでも実は、イスには白金貨数十枚程をお小遣いとして渡されている。
日本円にして約数十億。明らかに金銭感覚がバグっていた。
それでいながら、普段の買い物は庶民とほとんど変わらないのだから、以下にイスに対して2人が甘いのかよく分かるだろう。
結局、仁も花音も親バカであった。
「久々に集まったし、ちょっと遊びましょうよ。負けた人は罰ゲームね」
「イスを負かせるチャンスだね。リーゼンと二人で鍛えてきたんだから、負けないよ」
「おー、それは楽しみなの」
大きくなった少女達のお泊まり会。
イスは“聞こうと思っていたことは明日でいいや”と思うと、リーゼンとメレッタと遊ぶのだった。
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